「任せたよ」
凛と翔月は妖傀へと走る。
お互い目線を合わせ、頷き合う。すると、左右に別れ、妖傀を挟み撃ちにしようと木を使いながら位置に着く。
翔月が握っている鎖鎌には、刃先だけではなく全体的に炎が纏われている。凛の杖の先には火の玉。それだけではなく。彼女の周りにも複数作られ始めた。
翔月が先ず、木と木の隙間から鎖鎌を投げた。真っ直ぐ妖傀へと放たれた鎖鎌は、鉄扇の突風により弾かれる。その瞬間、凛が木を使い目まぐるしく火の玉を動かし四方から仕掛けた。
「ちっ!」
凛が舌打ちをし、眉間に皺を寄せた。
妖傀は、火の玉が放たれた瞬間、体ごと回転させ鎖を四方から放たれている火の玉にぶつけ相殺。残された火の玉は、鉄扇の突風により当たる前に爆発してしまった。
弾かれた鎖鎌を手にし、翔月は半月を描くように再度鎖鎌を放った。
妖傀は二人からの攻撃を防ぐだけで、何かを仕掛けようとしない。
その様子に、弥幸は疑問を感じているのか眉間に深い皺を寄せ、考えるようにずっと交わし続けている妖傀を見る。その手には、しっかりと刀が握られており、いつでも参戦できるように準備していた。
「おかしい。誰を狙っているんだ? 誰に対し、恨みを持っている? それに、神力を目に集中しなくてもハッキリと妖傀を見ることが出来る事も。いつもと違う」
そう呟く弥幸に、何故か急に黒い影が襲いかかった。
彼を包もうと地面から弾かれるように出てきた影にすぐ反応し、刀を下から上へと斬り上げた。そこに人一人通れる穴が一瞬でき、埋まる直前で転がるように謎の攻撃から抜け出た。
前に手を付き、受身をとりながら地面を転がり自身が立っていたところを見る。そこには、ドーム状に影があり、今も尚ターゲットを探すように動いていた。
「狙いは、僕か? それに、この影……」
疑問を零しその場に立ち上がる。刀を腰辺りに両手で握り直し、前方にある影を見た。その影には目など存在しないが、なぜか弥幸を見ているような感覚がある。
凛と翔月は、弥幸の状態を確認しお互い目を合わせた。そして、覚悟を決めたように、眉を釣りあげ妖傀を見上げる。
「赤鬼!! 妖傀は私達に任せて、そっちに集中して!!」
弥幸の方を見ず、凛は声を張り上げた。翔月も同じことを思っていたらしく、頷き妖傀を見上げる。
言葉をかけられた彼は、一瞬驚きに目を開き凛達へと視線を送る。だが、すぐに逸らし口元には笑みを浮かべ始めた。
「……──任せたよ。伴」
そう口にすると、弥幸は自身に刺さっていた釘を抜き、繋がりを絶った。それにより、先程まで数多くの火の玉を出していた凛は、一つしか出せなくなり、鎖鎌に炎を纏わせていた翔月は今まで通り刃先だけになってしまった。
先程まで、弥幸と繋がっていた二人は、彼の精神力を共有していた。それだけではなく、神力を操る手伝いも弥幸が行っていたため、火の玉を数多く出せたり、鎖鎌に纏わせることが出来ていた。だが、それがなくなってしまい、今は自分達の力だけで妖傀をやらなければならない。
そんな状況だが、二人の目からは不安などを感じず、逆に強い意志を感じる。
真っ直ぐ妖傀を見上げ、翔月は右手で鎖鎌を回し遠心力をつけ準備。凛も杖を構え、火の玉を作り出す。
「……翔月。私、貴方を信じてるから」
凛は力強く言い切り、翔月へと伝える。
いきなり名前を呼ばれ、そう口にされた翔月は驚きで返事が少し遅れる。だが、直ぐ手に力を込め、右足を一歩前へと出す。
「あぁ。俺も信じてるからな、凛」
翔月の言葉に凛は薄く笑みを浮かべ、頬をほんのり赤く染める。だが、直ぐに身を引き締め杖を強く握り直した。
「行くわよ!!!」
「あぁ!!」
お互いの掛け声で一気に攻撃を仕掛け始めた。
まず、凛が動きを制限するように火の玉を妖傀へと放つ。枝分かれするように分裂し、四方からの攻撃へ変更。先程より数は少なく、隙も沢山ある。
妖傀は、先程のように鎖で全ての火の玉を消し去った。
妖傀の周りを円を描くように動いている鎖の間をすり抜けるように、翔月が鎖鎌を放った。
上手く抜けることができ、妖傀へと向かっていく。だが、それを後ろに下がりながら鉄扇で弾かれてしまった。
「分かってたよ!!」
すると、妖傀の後ろに近づいていた凛がその場で膝を折り、左足を軸に右足で足をはらった。
重心が後ろに傾いていた妖傀は、体を支えていた足を払われその場に仰向けに倒れる。
立て直す隙すら与えず、凛が座ったまま一つの大きな火の玉を作り出す。
バレーボール並の大きさになった火の玉を、凛は後ろに下がりながら前へと放った。
地面に倒れないように足で支え、凛は転ばずに立ち上がる。
火の玉は見事妖傀に命中。凛達の目の前には、炎が大きく燃えており、妖傀の声が響き渡る。
『あだじはぁぁぁああああ!! なんでぇぇええごんなぁぁぁあああ!!』
もがくように叫び、炎の中からでも鎖を放ち始めた。
少し油断をしてしまった凛は、瞬時に避けることが出来ず右手に掠る。血が飛び、色白の肌が斬れる。
「おい! 大丈夫か?!」
「問題ないわ!」
肩口が赤く染っていく。浅い傷ではないのが見て取れ、翔月は彼女へと走り出そうとした。だが、それを突風によって遮られる。
「っ! クソがっ!」
妖傀に目を向けると、いつの間にか鎮火していた。
鎖で凛達の目線を外し、鉄扇で風を起こし鎮火。だが、ダメージを与えることは出来たらしく、地面からなかなか起き上がれない。
両手を地面につき、震える体を起き上がらせようとしている。
『わ、わだじ……は……だだ……。証明……を……』
苦しげに呟く妖傀の声など二人には届いていないのか、再度武器を構え、今度こそというように動き出した。
その時、妖傀の目から──透明な瞳が流れた。
ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)