「大いに暴れろ」
弥幸は頭の上まで振り上げた刀を、風美の右肩目掛けて勢いよく下ろす。凛により、彼女は弥幸の攻撃を見切ることが出来ず、避けられない。
凛は火の玉で牽制し、翔月は弾かれた鎖鎌を取り流れるように投げる。
「邪魔はさせねぇよ!!」
鎖鎌が三日月を描くように風美へと向かい、切りつけることを目的とするのではなく、身動きを封じることを目的として動かす。
弥幸の振り下ろした刀は、風美の右肩を斬り裂いた。だが、吹き出たのは血液ではなく黒いモヤ。
「やっぱり……。本体はどこ?」
『ギャァァァァァアアアアアアア!!!!』
風美が耳が痛くなるほどの叫びが響き渡り、思わず凛と翔月は耳を塞ぐ。弥幸も眉間に皺を寄せ、その場に片膝をつき耳を塞ぐ。一番近い位置に居たため、ダメージが大きい。
彼は後ろへと下がろうとする。すると、風美の地面にある影が大きく揺らめき始めた。
「っ来る!!」
弥幸が慌てた様子で凛と翔月へと呼びかけ右手を伸ばす。だが、先程より大きく風美が叫び動くことすら許されない。そんな中、彼は震える手で懐から一枚の御札を取りだし、風美へと投げた。
「炎狼!!!」
炎の狼を取り出した。
表に出た瞬間、炎狼は風美に向けて人を溶かすほどの熱風が含まれる咆哮を繰り出す。だが、少し揺らめいた影が勢いよく壁を作り、彼女を守るように立ちはだかった。
炎狼の咆哮では溶かすことが出来ない黒い影。形が徐々に変化していく。
後ろにいる風美も溶け込み、大きな妖傀へと変貌する。
「女性……型。しかも、武器が複数……」
凛が口にするように、弥幸の目の前には、彼より一回り大きい女性型の妖傀が三人を見下ろし立ちはだかった。
手には鎖だけではなく、扇のような形をしているものまで手にしている。
肌が黒く目が窪んでおり、体は通常より遥かに細い。だが、それ以外は普通だ。
「赤鬼って、確か女性型苦手じゃなかったか?」
「とりあえず仮面を付けなよ。今は大丈夫だと思うけど、戦闘に集中出来なくなるよ」
翔月の言葉を無視し、弥幸は二人に伝える。その言葉に、翔月と凛は慌てて腰につけていた狐の面を目元に付けた。
「あれ。赤鬼は付けないの?」
「壊れたから無い。新しいのを作るにしろ時間がかかるから無理。今回は、本当にめんどくさいことが重なるな」
炎狼の隣に立ち、弥幸は妖傀を見上げる。
「にしても、何かがおかしい……」
弥幸が呟き、何かを考えるように眉間に皺を寄せる。だが、考える時間など与えないというように、妖傀が動き出した。
手馴れた様子で右手に持っている鎖を彼らに投げる。弥幸はそれを見切り、当たらないギリギリで避けた。
最低限の動きで避け、炎狼も同じく鎖を避けながら妖傀へと走る。
「炎狼! まずは鎖を溶かせ!」
避けながら弥幸は炎狼へと指示を出す。返事するように鳴き、そのまま妖傀の目の前に。
鎖を投げられ拘束されそうになるが、炎狼は熱を溶かすほどの熱風が含まれている咆哮で溶かした。
噛み付こうと、鋭く光っている牙を口から見せながら大きく開く。
その時、左手に持っていた鉄扇を動かし始めた。
左手を右へと動かし、横一線にはらう。そこから、風の刃と共に突風が吹き荒れ炎狼を襲う。
横へと跳び回避し、そのまま妖傀へと近づこうと再度地面を抉り前へと走ろうとした。だが、それは叶わず、炎狼の体に複数の傷が刻まれた。
「っ、炎狼!!」
弥幸が慌てた様子で炎狼を呼ぶが、傷は浅かったらしくその場に倒れることはなく、地面をしっかりと掴み体制を立て直した。
その姿を見て、彼は浅く息を吐き懐へと手を伸ばす。
炎狼は再度地面を抉りながら妖傀へと走る。その際、先程と同じく鉄扇を横一線になぎ払い突風を起こした。次は横へ避けることはせず、咆哮で相殺。熱い風圧が周りへと爆発するように撒き散らされ、凛と翔月は顔を覆い歪めた。弥幸も自身の右手で顔を覆う。その手には、三本の釘。
左手にも同じ数の釘が握られており、真紅色の瞳は、何かを狙っているかのように鋭く光っていた。
「そっちばかり見てると、足元すくわれるよ」
静かに弥幸が口にする。その両手には、三本ずつ計六本の釘が握られていた。
彼の言葉に答えるよう、凛と翔月が左右から駆け出す。すぐさま弥幸が、二人の胸に釘を投げ三本ずつ刺す。
そこから光が現れ、弥幸と繋がる。
「我が導く。大いに暴れろ!!」
力強く、頼もしい言葉と共に。二人は真っ直ぐ前だけを見て、背中を預けた。
「「了解!!」」
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