「返してもらうよ」
『わだじはぢがう!! わだじはこんなんじゃない!!! わだじはぁぁぁあああ!!!』
取り乱しているのか。興奮するように同じ言葉を連呼する。その度、地面が揺れ弥幸もその場に膝をつき倒れてしまう。
見た目は風美。だが、なぜか妖傀となってしまっている。
なぜ妖傀になってしまったのか。あれは、今までと同じ妖傀なのか。
弥幸は、前方にいる風美を見ながら動かない。目を開き、見続けている。
「あれは、妖傀……では無い。もっと、違う何か……」
ブツブツと呟きながら、風美の動向を見ている。翔月と凛は動くことが出来ず、その場から立ち上がることすらままならない。
今も尚悲痛の叫びを闇へと響かせ、それだけでは飽き足らず足を上げては地面を踏む。地団駄とも呼べるその行動は、まるで何かを求めているようにも見える。
『わだじは!! わだじはいわれだがら! やっだんだぁぁぁあああ!!!!』
夜空へと叫び、風美は右手に持っている鉄扇を大きく左から右へと振る。すると、鎌鼬のような突風が吹き荒れ三人に襲いかかった。
弥幸が咄嗟に二人の前に移動し、口元に人差し指と親指で作った円を置き、息を大きく吹く。
赤い炎が勢いよく鎌鼬へと向かい、そのまま相殺。すると、風美がいきなり弥幸へと走り出した。
走りながら右手に持っていた鉄扇を上へと投げ捨て、フリルのついたドレスの下へと両手を入れる。そこから現れたのは、深緑色の二丁拳銃。
それを目にし、弥幸は構えられる前に刀の柄を握り距離を詰めようと一歩前に出そうとした。だが、それより先に風美が弥幸の間合いへと入る。
予想外の行動に、彼は一瞬動き出しが遅れてしまった。だが、目の前に向けられた銃口から逃れるため、反射的に後ろへと下がり上半身を右へと曲げる。
パンッ
破裂音が鳴り響き、風美の右手に握られている拳銃の銃口から硝煙が立ち上る。
銃弾は弥幸の後ろに立っている樹木へと当たった。すると、穴が空くだけでなく、弾丸に殺傷力の強い何かが纏われていたのか、樹木を大きく抉り横へと倒した。
距離をとりながら、弥幸は後ろを肩口から見て目を細める。凛と翔月も倒れた木を見て顔を青くし、口をわなわなと震わせる。
「……ねぇ。早く動かないとあの木のようになるよ。今回、守りながら戦闘するのは無理そうだからね」
立ち直し、弥幸は左手で鞘を握り、親指で鍔を柄の方向に押し出す。右手で柄を握り、右足を一歩前へと出す。
風美は両手を下ろし、脱力している状態で弥幸を見ていた。
隙だらけに見える体制だが、彼の額から一粒の汗を頬を伝い流れ、息は心做しか荒い。
刀を握っている右手は、微かに震えている。
その様子を見た凛は、やっとその場から立ち上がり懐に手を入れる。そこから、少し古く見える杖が出され先端を風美に向けた。
その様子を横で見ている翔月も同じく、眉を釣り上げ立ち上がる。腰につけていた鎖鎌に手を伸ばし、構えた。
三人の目線は風美へと注がれる。だが、そんなこと気にせず、彼女はゆっくりと動き出す。
右手を前へと出し、左手も右手の下にクロスさせるように通し銃口を弥幸達に向ける。
静寂が四人を包み込み、緊張の糸が張り詰める。
風が吹き、木の葉を揺らす。鳥のさえずりなどは聞こえず、月が四人を明るく照らしていた。
「……──っ!!」
弥幸が膝をおり息を短く吐く。そして、勢いよく前方へと飛び出し、刀を真っ直ぐ抜き勢いを殺さないよう風美の首を狙った。
それを彼女は、前方に両腕を出しながら上半身は後ろへと逸らし翔び回避。地面に着くのと同時に、前方に出していた拳銃を発砲。
パンッ パンッ
二発撃たれたが、弥幸は瞬時に横へと飛び避ける。後ろには凛が銃弾に当たらないところに立っており、杖の先端には野球ボール位の火の玉。
「星桜を返せぇぇぇええ!!!!」
怒りの声と共に、凛が火の玉を風美へと放つ。一つだったはずの火の玉は、いつの間にか複数に分裂し四方から風美へと襲わせる。だが、それを撃ち抜かれ彼女へと届いたのは左右から向かっている二つ。
当たる直前、風美は後ろへと翔び回避。それにより、二つの火の玉はお互いにぶつかり破裂した。
凛は舌打ちをし、直ぐに火の玉を生成。その隙に、翔月は右手で鎖鎌を回し遠心力をつける。そのまま、右手を前へと出し鎖鎌を放った。
風美は向かっている鎖鎌を右手に持っている銃口を向け発砲。鎖鎌は勢いが落ち、狙いが逸れる。だが、翔月は眉を少し上げるだけで、焦る様な表情を浮かべない。
「夜闇を駆ける夜狐。伊達じゃねぇな」
そう口にする翔月の目線は、風美の少し上。
彼女はなにかに気づき上を向こうとするが、それより先に凛から火の玉が放たれそちらに気がそれた。
「まずはその体を返してもらうよ」
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