「命がある」
星桜が連れ去られてしまってから数日の時が過ぎた。その間、学校の帰り凛と翔月は自身の精神をコントロールする、蝋燭修行を必ず続けていた。それだけではなく、武器に慣れるため弥幸を相手に模擬戦闘なども行っている。
弥幸の傷は、毎日間隔を開け逢花が治していたため今ではだいぶ塞がっている。それでも、無理をすると開いてしまうため、式神である炎狐に乗り自身は動かず相手をしていた。
それでも、二人の攻撃は弥幸には当たらずいらだちが募り、何度か感情を爆発させ周りを炎の海にしようとしていた。
そんな日々を過ごし、今は夜。
三人は月が降り注ぐ中、住宅地の屋根の上を足音を立てずに走っていた。
最初は弥幸に付いて行くのもやっとだった凛だが、今は走り方のコツも掴みしっかりとしがみついている。
「場所はわかるの?」
「調べた」
「え、いつ?」
「いつか」
「答える気ある?」
「むしろ答える気あるように見える?」
「もういい……」
今回は狐面を付けていない弥幸と凛が静かに言葉を交わす中、翔月は心配そうに額から一粒の汗を流し真っ直ぐ前だけを見ていた。
「焦る必要は無い」
「っ、あ、あぁ」
「根拠はある。人質は、生きていないと意味は無い。それに、心の巫女が取られているということは、何か目的がある。その目的を達成するまであいつには何もしないよ。達成したとしても、僕達の行動を予測するため殺さない」
「予測?」
翔月の言葉に、弥幸が淡々と答える。それに対し、凛が首を傾げた。
「予測は簡単でしょ。今、こうして向かっている訳だし、待っていれば僕達があいつらの元へ行く。それを踏まえるとあいつは生かしておいた方が良い」
その言葉に、二人は納得し頷き合う。だが、そう口にしている弥幸自身、汗を流し焦り気味に前方を見続けていた。
「まぁ、命があるって、だけかもしれないけど……」
重苦しく、低い声で呟いた弥幸の言葉は二人には届かず消えてしまった。
※※
「はぁ……はぁ……。もぅ! なんでビクともしないのよ!!!!」
和室に星桜の怒りの声が響く。彼女の近くには、座布団や枕が散乱している。目の前には、固く閉ざされた襖。そんな襖の上の方、淡く光る御札が一枚貼られており固く閉ざしていた。
星桜は物を投げたり、突進をして無理やりこじ開けようと奮闘。だが、ビクともせず先に星桜の体力がなくなってしまい膝に手を置き息を整える結果となる。
額から流れ出る汗を右手で拭いながら周りを見回す。だが、他に投げられそうなものはなく、星桜は胸元に手を置き顔を俯かせる。
目を伏せ、諦めの表情を浮かべていた。
「…………あの御札。弥幸が使っているのと同じなのかな。なら、精神力で破れる……かもしれない……」
襖に手を置き、目を閉じ集中する。すると、彼女を纏うように淡く光だし、襖も同じ色へとなる。御札まで光が届き、強く光り出した。
それでも祈り続けているため、どんどん光が増す。すると、少しだけ破け始めた。
その時、どこからか鳥の鳴き声が部屋の中に響き渡った。
「え、鳥の鳴き声?」
その声につられ、星桜は目を開け集中を切らしてしまう。それにより、今まで輝いていた襖や御札は光を失ってしまった。
「あっ……。はぁ。でも、手応えあったな」
自身の右手を見て、もう一度目の前にある襖へ触れようと伸ばす。すると、右から赤色の何かが飛んで来たため咄嗟に手を引っ込めてしまった。
「なっ、なに?!」
襖と星桜の間に、一匹の雀が入り込んできた。
手のひらサイズの赤色の雀。目が黒色でクリンとしており、威嚇しているように羽根を広げているが全く怖くない。
星桜に威嚇しており、彼女は思わず目を輝かせ雀に両手を伸ばし自身へと引き寄せた。
「かっわいぃぃぃいいい!!!」
「ヂュッ!!!」
顔をとろけさせ、頬擦りする。雀は逃げ出そうと羽根を羽ばたかせているが意味はなく、星桜が気が済むまで撫でられたり抱きしめられたりと。
数分後の雀は、地面に羽を広げ倒れてしまい星桜は謝罪を口にしていた。
「って。なんで雀がここに?」
不思議に思い首を傾げ腕を組んでいると、襖の奥から足音が聞こえ始める。
星桜はその音を耳にし、顔を青くした。
「なんか、怖い……」
自身の体を両腕で包み、畳へと座り込んでしまう。歯をカタカタと鳴らし、目を見開かせ襖を凝視している。すると、雀がいきなり羽根を広げ飛び始めた。
「チュッ!!」
「え、ちょ、なに?」
袖口を引っ張られ、星桜は襖を気にしながら立ち上がり、震える足で雀の後ろを付いていった。
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