「いけるかも」
「…………ここは、どこ……?」
星桜は布団の上で目を覚ました。
周りは和室の大部屋。床は畳で、ドアは襖。だが、ただの襖ではなく、淡く緑色に光っている御札が上の方に貼られていた。
物はなく、シンプルな部屋に星桜は一人寝かされている。
白い掛布団をずらし、彼女はその場に立ち上がり歩き始めた。
何も無い畳の部屋を歩き、襖へと向かい見上げる。目線の先には、妖しく光る御札。
眉間に皺を寄せつつも、恐る恐る襖に手を伸ばした。
「……──っ!」
星桜の手が襖に触れる手前、雷のような電気が弾き咄嗟に手を引っ込めた。
右手には傷がないか確認し、直ぐに胸元へと持っていき不安げに眉を下げ顔を俯かせる。
少しだけ胸元に置かれている手が震えている。だが、直ぐに拳を握り無理やり震えを止めようとした。
「大丈夫、大丈夫。絶対に、大丈夫」
自分に言い聞かせるように、星桜は胸元の服を掴み顔を上げる。まだ、不安げに眉を下げてはいるが、それでも目には光がともされていた。
周りを再度見回し、眉をあげる。
「…………弥幸、私も。私も、できることを」
そう呟き、星桜は襖から離れ部屋の中を歩き出した。
※※
弥幸と凛、翔月は夜ご飯を弥幸の家で食べていた。
そんな二人の体は何故かボロボロ。服は所々焦げており、髪もちりちりとなっている。
不貞腐れたように二人は、美彌子が作ったご飯を食べていた。
そんな二人など一切気にせず、弥幸は白米を口に含みお味噌汁を飲む。
「…………お兄ちゃん、やりすぎ」
「本気でやれって言ったのは二人じゃん」
「限度」
「手加減はしたよ。こっちは木刀で二人は自身の武器。プラス僕は怪我で体が動いていない。だから、その場から動かないでやっていたじゃん」
「確かにお兄ちゃんは動いていなかったね。だって、炎狐に乗っていたからね!!!」
逢花がこの重苦しい空気の中、箸を握りしめながら弥幸へと叫んだ。
弥幸が合流したあと。二人は早く強くなりたかったため、修行の相手をお願いした。だが、その際怪我のこともあり遠慮する凛に、弥幸は「手加減しないと君達は途中で妖傀を出し僕を襲おうとするだろうし、怪我ぐらい問題ないよ」と、小馬鹿にするような言葉を発し怒り心頭。
弥幸の怪我など一切気にすることなく、凛は自身の武器である杖を片手に、火の玉を作り沢山放った。
翔月は遠慮気味に炎を鎖鎌の刃先に灯し、遠心力をつけるため右手で円を描くように回し始める。
『おりゃぁぁあああ!! 死ねや赤鬼ぃぃぃいいいい!!!!』
『女性が吐くセリフではないね』
弥幸は複数襲ってくる火の玉など気にせず、懐から御札を取りだし炎狐をライオンの大きさくらいで召喚。その背中に乗り回避する。その際、そのまま通過してしまい途中で消えてしまった火の玉から目を離さない。すると、今度は翔月が鎖鎌を投げた。
それを、弥幸が横目で確認し、右手の人差し指と親指で円を作り口元へ。息を吸い、そのまま思いっきり吹いた。すると、赤く燃え上がる炎が放たれ鎖鎌を押し返した。
怪我をしているにもかかわらず余裕を崩さない弥幸に、二人は技を繰り出し続ける。
途中で美彌子が優しく微笑みながら弥幸へと木刀を投げ武器を渡した。それを上手く利用するため、炎狐から振り落とされないようにしっかりと左手で掴まり、右手で顔あたりに竹刀を横向きに構える。
目の前からは翔月が放った鎖鎌。それを、顔を横へとそらし回避し、鎖の部分に竹刀を絡め思いっきり引っ張った。すると、翔月はバランスを崩してしまい手から鎖が取れ、武器を失ってしまった。
『しまっ──』
慌てて体勢を立て直そうとした瞬間、翔月の左側を炎が通過し彼の毛先を少しだけ焦がす。
それを横目で見て、顔を青くし後ろを振り向く。
『どんどん来なよ。強くなりたいのなら』
普段動かない口角が、何故か今だけは少しだけ上がっており、嘲笑うように二人を見下ろしていた。その表情を見た瞬間、二人は何かが切れたかのように、額には血管を浮き出し地面へとしっかり足をつける。
弥幸は翔月に鎖鎌を投げ返した。それを、しっかりと受け止め、今度は取られないように右手に巻き取らせる。
『ぶち殺す』
『ぶちのめす』
怒り心頭の二人は、顔を真っ赤にし自身の武器を構えそう言い放つ。
その後は、弥幸が二人の攻撃を避け反撃したり、二人は力を合わせ彼を追い込めようとしたりと。
数時間ずっとやりあっていた。
「実際に相手にすると、やっぱり赤鬼は強ぇのな。そんなお前にそこまでの傷を負わせたあの二人も……相当の手練」
「そうよね。気配すら感じず移動していたし。それに、鎖鎌と風の連携。まずは、あれを崩さないと厳しくない?」
「確かにそうだよな。せめて、二人が一緒に行動しないようにこっちで制限出来ればいいんだが……」
凛と翔月はそんな話をしながらご飯を頬張る。すると、弥幸がお味噌汁を口に含もうとするところで手を止めた。
「一緒に行動させないように、か」
「ん? いや、それは何となく思いついただけなんだが……。あの二人は連携が凄かったし、そこを崩せればどうにかならんかなと思っただけだぞ」
翔月が弥幸の言葉に慌てて返す。だが、そんな彼の言葉など聞こえていないらしく、弥幸は箸を置き顎に手を当て考え始めた。
「…………それなら、いけるかも」
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