「命じゃ」
『……──と。これが、心の巫女じゃよ。少しは参考になったかのぉ?』
「その娘は、なんでそんな魔法みたいなことが使えるようになったの? 神隠しはなぜ起きた? なぜ、その娘だった?」
『次から次へと質問が思いつくのぉ』
「いいから答えてよ」
ナナシはやれやれというように肩を竦め、仕方がないというように口を開く。
『さぁの。そればかりは我にもわからん。その場にいた訳では無いからのぉ』
「あんたにも知らないことあんの?」
『当たり前じゃ。知らないことしかないぞ。それに、今の我は赤鬼家を見守るように申し付けられた者。周りの情報など耳には入ってこん。まったく。我を使うなど、本当に困った主じゃよ』
眉を下げ、困ったような表情を浮かべるナナシに弥幸は、片眉を上げ再度質問をぶつけた。
「あんたはいつからこの赤鬼家を見守っているの? 主って誰?」
『ここ最近じゃよ。主の名前は口止めされている。口にすることは出来ん』
そう口にすると、ナナシは口元に笑みを浮かべたまま弥幸を見る。
まだまだ聞きたいことが沢山ある顔を浮かべている弥幸だが、溜息をつき呆れた表情へと切り替えた。
「これ以上質問しても答えてくれなさそうだね」
『答えられることなら答えるんじゃがのぉ』
「僕が質問した内容、ほとんど答えていないじゃん」
『それは、答えられない質問じゃったからじゃよ。答えられるものならいくらでも答えよう』
その言葉に眉を上げ、眉間に皺を寄せる。
弥幸はそのまま彼に背中を向け、屋敷の裏手から出ようと歩き出す。その背中を、ナナシは薄い笑みを浮かべたまま見送った。その際、彼には聞こえないようになのか。小さな声で言葉を口にした。
『まだ、主には伝えられん。すまぬの、元赤鬼家当主の命じゃ』
※※
弥幸が屋敷の表側へと向かうと、覇気のある声が聞こえ始めた。
女性のように高い声と、男性だがすごく低い訳でもない。優しさがあるような声が葉の重なる自然の音と一緒に響いている。
その声に釣られるように彼は歩き、今の現状を目にする。
「あ、赤鬼! やっと来た!」
屋敷の表に居たのは、短パン、Tシャツの凛と翔月だった。
額から汗を流し、それでも清々しいような笑みを浮かべ弥幸を見る。
声をかけられたことに、彼は表情を変えずに二人へと近づく。すると、周りにいた逢花と美彌子の姿も見えてきた。
「まだやってたんだ」
「当たり前よ。私達はまだまだ始めたばかりで、あんな怖い戦いなんてしたくない。でも、逃げていたら大事な人を守れない! 私は、必ず星桜を取り戻す」
拳を握り、凛は瞳に決意の炎を灯し弥幸に言い放つ。
「そうだ。あの時、お前にも怪我をさせてしまった。それは、俺達が弱く、援護が出来なかったからなのも原因の一つだと考えている。なら、少しでも赤鬼への負担を減らし自由に動いてもらうため、もっと周りを見て余裕を持ちながら。前回のような戦闘を行わないようにする」
翔月も凛と同じく、強い意志を瞳に宿し弥幸を見つめる。
そんな二人の決意を耳にし、彼は右手で頭を掻き大きく息を吐いた。
「はぁ。類は友を呼ぶ……か。真面目すぎだよ、本当に。少しは肩の力抜いたら? そんなんじゃ、体力持たないよ」
「最近筋トレも始めたの。体力も付けてるし、問題ないわ」
「今までも普通の女性よりパワーがあったと思うけど。なに、筋トレを始めたってことはもう人間は諦めゴリラに転職するってこと? いや、そうなるとゴリラに失礼か。優しい心を持っていない君がゴリラを目指すなんて一万年くらいはやっ──」
弥幸の言葉は最後まで続かず。その代わり、凛の力強いゲンコツが彼の頭上から振り下ろされる。それにより、青空が広がり気持ちの良いそよ風が吹いている中、弥幸の悲鳴に近い声がコダマした。
そんな三人のやりとりを逢花と美彌子は、やれやれと肩を落としつつも嬉しそうに笑みを浮かべ見続けていた。
「まさか。お兄ちゃんにあんな素敵な友達ができるなんて思わなかったよ。今までずっと独りだったわけだしさ」
「えぇ。でも、これは弥幸自身の人徳よ。それと、もう一人。今のあの子を心から支えようとしてくれる心優しい子。早く助けなければ、危ないかもしれない」
「そうだね。星桜さんを助けないと。今回は私も行こうと思うの。戦うことは出来ないけど、傷を少し治すことならできるし、役に立てると思うんだ。お兄ちゃん、方向音痴だし」
「そうね。でも、無理だけはダメよ。貴方は、私と同じで選ばれなかった側の人間なのだから」
「分かってるよ。でも、それは一体誰が決めているの? どうして、私は選ばれなかったの? どうして、お兄ちゃんは選ばれたの?」
逢花は隣に立っている美彌子に体ごと向け、不思議そうに首を傾げながら問いかけている。その問いに、美彌子は言葉で返すことはせず、口元の笑みはそのままに、目を細め逢花の頭を優しく撫でた。
「そのうち分かるわ」
それ以上美彌子は何も口にはせず、逢花も頷き納得したように見せる。だが、少しだけ眉間に皺を寄せ唇をとがらせている。これ以上聞いても意味が無いと理解したらしいが、それでも仲間外れにされた感覚があるのか不貞腐れてしまう。
そんな逢花の頭を、美彌子は優しく微笑みながら頭を撫でてあげた。
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