「出てきてよ」
「風美様、心の巫女を申し付けられました場所へとお連れ致しました」
「そう。大人しくしているのかしら」
「最初は暴れておりましたが、今は静かになっております」
「わかったわ。では、次の段階へと参りましょう」
「はい」
森に囲まれた大きな屋敷。
木造で、大きな瓦屋根が陽光を受け光っている。
所々壁が黒く変色してしまっているが、それが気にならないほど綺麗に掃除されていた。
森に囲まれているにもかかわらず、屋敷に続く石畳に木の葉は落ちていない。
掃除が行き届いているらしく、ホコリやゴミなどもない。
陽光が二人を照らし、風が風美の髪を靡かせる。
そんな二人は、そのまま屋敷から離れ赤い鳥居を潜り、そのまま姿を消した。
※※
星桜が連れ去られてから二日間の時が経過した。
凛と翔月はこの二日間、弥幸の妹である逢花に手伝ってもらいながら精神力のコントロールと戦闘技術を磨いていた。だが、逢花だけでは知識不足なため、母親である美彌子も付き合える時は一緒に二人を見ていた。
その間、弥幸は別行動している。
弥幸の屋敷の裏手には、小さなお社がある。小さく、葉っぱや土などが付いており少し汚れてしまっていた。
木製なため、所々腐っている。だが、それでも中にはお供え物のように水の入ったコップが置かれていた。
彼はそんなお社の目の前に立ち、何かを探すように顔を至る所に向けている。
樹木に囲まれた場所なため、風が吹く度葉を揺らし、自然の音を奏でていた。
弥幸の銀髪も風に乗り、サラサラと揺れている。
今は制服ではなく、パーカーとスボン。足元はスニーカーと。ラフな格好をしている。
弥幸はポケットに手を入れ、太陽が顔を出し、自身を照らしている青空を見上げた。
「…………ねぇ、出てきてよ」
静かに、それでいて温かみのある声で弥幸は呟く。すると、いきなり小さな竜巻がお社の上へと舞い上がった。
その竜巻が弾けると、中から一人の青年が笑みを浮かべながら姿を現した。
『主から我を呼ぶとは。面白いことがある予感がするのぉ』
「まぁ、あんためんどくさいから呼びたくないんだけどね」
『はっきり言うのぉ。まぁ良い。なにかあったのじゃろぅ?』
見た目は二十歳位の男性だが、喋り方がおかしい。
纏っている雰囲気も、心做しが人間ではないように感じる。
「ナナシ。あんたは、心の巫女って、知ってる?」
ナナシと呼ばれた青年は、弥幸と同じ銀髪を腰まで伸ばし赤い紐で後ろに結んでいる。
黒いノースリーブのインナー。着物を羽織り、腰辺りで大きな赤い帯で固定。大きいのか肩からずり落ち色白の肩が見えてしまっていた。
帯には、神社をイメージしているのか坪鈴に、六角箱が揺れている。
黒い狐面が目元を隠すように斜めに付けられており、口元でしか表情を確認することが出来ない。その口元は、今薄く横へと伸び楽しげに笑みを浮かべていた。
『ほぅ。その情報をどこで手に入れたんじゃ?』
お社の上に座り、足に肘をつき手で顔を支えている。くすくすと笑いながら弥幸を見下ろし、男性にしては少し高い声で問いかけた。
「ある退治屋から聞いた」
『なるほどのぉ。それを聞いて、主はどうするつもりなんじゃ?』
「特に何も。知らないことがあるのが嫌なんだよ」
『相変わらずじゃのぉ。昔から主は変わらん。他の二人は、周りを見ることをせずそのまま闇の住人へと成り果ててしまったのじゃが……』
「今はあいつの事なんてどうでもいいでしょ。心の巫女だよ。もしかして、知らないの?」
『ふむ。焦っておるのぉ。主にしては珍しい。何かあったらしいのぉ』
「…………そうだね。焦っているよ。だから、早く教えて欲しい。他にも聞きたいことがあるんだ」
『なるほどのぉ。わかった。主には沢山面白いものを見させてもらっとるからのぉ、情報を教えよう』
流れるようにお社から地面へと降り、弥幸の顎に手を添え顔を上げさせた。
ナナシの方が身長が顔二つ分大きい。流れるように顔を上げさせられた弥幸は「は?」と間抜けな声を出すことしか出来ない。
『今から我の口にすることは他言無用。無闇に言いふらすでないぞ?』
「…………わかったから。顔、近い」
『照れておるのか? 我みたいな美青年に顔を近づかれ』
「ばっかじゃないの。男に興味ないよ。さっさと離せ」
弥幸が平然と口にし、ナナシは肩を竦め顔を離し手を下ろした。
腰についている坪鈴が揺れ、心が洗われるような澄んでいる音が響く。
『苛立っておるのぉ。そこまで主を焦らせることが出来る者が居るのか。気になるのぉ』
「いいから。さっさと話せ」
『そう焦るでない。冷静さが取り柄じゃろう?』
飄々としたナナシの態度に、弥幸はどんどん怒りが募り拳を握る。その様子を見て、『やれやれ』と肩を竦めナナシが口を開いた。
『心の巫女とは、元々普通の人間じゃったんじゃよ』
そんな話の出だしで、弥幸はやっと聞きたいことが聞けると思ったらしく拳に込めていた力を解き、真剣に聞き始めた。
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