「持ってないけど」
弥幸の言葉で二人は目を開き、彼を見る。
「…………なに」
「予想外すぎて開いた口が塞がらなかった」
「何が」
「今の発言が」
「意味わかんない」
「赤鬼の思考の方がわかんない」
弥幸と凛が会話をしていると、お昼休みを終わらせるチャイムがなる。二人は手に持っていたお昼ご飯が半分も進んでいないことに気づき、翔月は慌てて口に頬張り凛は諦めて蓋を閉じた。
「赤鬼」
「なに」
凛が弥幸を呼ぶ。お弁当を握っている手には力が込められているのか、指先が少し白い。
少し震えており、怯えているようにも見える。そんな凛を、弥幸は横目で見て続きを促す。
「助けに、行くんだよね。助けられるよね?」
「助けられるかは知らない。今後、何が起きるかなんて未来を見ないと分からないし、見たとしてもパラレルワールドというものが存在する以上意味は無い。後者の質問には答えられないよ」
弥幸の返答に、凛は肩を落とし顔を俯かせる。すると、翔月が顎に手を当て彼に問いかけた。
「後者?」
「今、二つの質問をしてきたでしょ。だから、二個目の方を答えただけ」
その言葉に凛は勢いよく顔を上げた。目を開き、弥幸を見ている。
「二つ、質問した。なら、前者は?」
「意識してなかったんだ。まぁ、簡単に答えると、Yes」
最後の言葉に、凛は目を輝かせ翔月を見る。釣られるように翔月も凛の方を向き、口元には薄く笑みを浮かべる。
「なら、俺達にもできることがあれば言ってくれ。必ずやり通す」
「私も!! 星桜を助けるためならなんでもやるよ! だから、なんでも言って!」
二人が顔を乗り出し、弥幸へと言う。
「それなら助かるよ。なら、早速いい?」
「なに?!」
彼の言葉に凛が元気に返答する。
「時計を確認して」
予想外の言葉に、凛はすぐに反応できなかった。だか、すぐにスマホの画面を開き時間を確認した。すると、慌てて立ち上がり悲鳴をあげる。
「遅刻ぅぅぅぅううう!!」
もう、授業が始まっている時間になっており、二人は慌てて教室へと戻った。弥幸は翔月に首根っこを捕まれ、無理やり教室へと引っ張られていた。
※※
放課後、三人は弥幸の家へと集まり星桜をどうするか話し合っている。
今は弥幸の部屋でテーブルを囲い、沈黙が続いていた。
重苦しい空気が凛と翔月を押し潰そうとしている。だが、弥幸だけは平然とテーブルに肘をつき、目を閉じていた。寝ているのかと思うが、寝息は聞こえないため起きているとわかる。
「…………赤鬼」
「何」
「風回家について、知ってることはある?」
凛の問いかけに、弥幸は目を開け二人を見る。そして、口を開いた。
「風回家は、風を操る退治屋。楠香地区を担当していたはず」
「楠香地区?」
「僕達退治屋は、地区によって担当を分けているんだよ。赤鬼家は、東雲町を中心としている東光地区」
「なるほど……。確かに、担当がないとわかんなくなるよね」
「うん。それで、ここからはそんなに遠くないから行き来は簡単に出来る。準備さえ出来れば突入できるってこと」
「なら、早く行こうよ! 早く、星桜を助けに──」
凛が上半身を乗り出し、切羽詰まったような表情で口にする。だが、隣に座っていた翔月が制し、考えるように口を開いた。
「赤鬼が言っていた準備って、風回家についての情報を調べたり、どのように突入するか考えてからってことか?」
「そうだよ。何も考えずに行くほど危険なものは無い。ひとまず、風回家について伝えたい」
弥幸が静かに口にし、凛はその場に座り直す。
翔月も聞く体勢を作り、彼の言葉を待っていた。だが、予想外の言葉で思わずポカンと口を開けてしまった。
「と、言っても。伝えられる情報なんて、僕は持っていないけど」
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