「約束なの」
「美彌子さんに逢花ちゃん?!」
凛が驚きで声を上げるが、二人は弥幸の姿から目を離さない。
「酷いわね。早く運びましょう」
「うん。あ、凛さん。部外者に連絡をしないで欲しいの」
逢花は弥幸から目を離し、凛から取った携帯を渡しながら伝える。
「え、で、でも!! ここまで酷い傷なら、病院に行かないと。命も危ないかもしれないんだよ?!」
「それでも、ダメなの。私達が行っている事は世間で知られる訳にはいかない」
「そんなこと言ってる場合かよ!! てめぇの兄が死んじまうかもしれないんだぞ?!」
逢花の説明に、翔月は怒鳴り声をあげる。それでも、彼女は一瞬も狼狽えることはせず真っ直ぐ彼を見上げる。
「……──約束なの。これは、父さんと兄さんからの。だから、ダメなの」
先程まで淡々と口にしていた逢花の瞳が、なぜか揺らぎ始める。
口を結び、今にも泣きそうな顔を浮かべる。その表情を見た時、翔月と凛は何も言えなくなり口を閉ざしてしまった。
逢花の後ろでは、美彌子が弥幸の体を見て止血。気をつけながら背中に背負い逢花を呼ぶ。
それに答えるように、彼女は振り返り二人に背中を見せた。
「私にも、詳しく分からないの。知っているのは、弥幸お兄ちゃんと──……」
それだけを口にし、二人は弥幸を背負い暗闇へと姿を消した。
そんな三人の姿を、二人は見続けるしかできず立ち尽くしてしまった。
※※
次の日の学校。
凛と翔月は通常通り学校へと向かった。
教室へと入り、中を見回す。だが、二人の表情は曇っており、凛は自身の鞄を強く掴む。
翔月はそんな彼女の肩に右手を置き、眉を下げ顔を覗き込んだ。
「ひとまず、いつも通り過ごすぞ。放課後に赤鬼の家に向かおう」
「うん……」
凛は頷き、それぞれ自身の席に座る。
いつも通り過ごすため、友達と笑いながら話したり、ノートを見せ合い過ごす。だが、二人はふとした時に必ず。星桜と弥幸の席に目線を送る。
教室内に先生が入って来たため、皆席に着く。そして、教室内を見回した先生は空いている席を見て口を開いた。
「珍しいな。翡翠と赤鬼は休みか。連絡は来ていないはずだが……」
自身の腕時計を確認し、先生はもう一度二人の席に目を向ける。
凛と翔月は顔を青くし眉を顰めた。そして、お互い目を合わせ苦笑いを浮かべた。
『どうする?!』
『何か言い訳を!』
口パクでお互い話していると、教室の扉が開かれる音が聞こえた。
そこには、フードを深く被り口元にはマスク。いつも通りの弥幸が立っている。
凛と翔月は息を飲み、弥幸は周りの視線など気にせず自身の席へと座っていく。
「お、おぉ、赤鬼。遅刻の理由……」
先生の言葉も一切無視し、彼は椅子に座り机へとつっ伏する。フードから見え隠れしている顔には、絆創膏やガーゼなどが貼られていた。
翔月と凛は顔を見合せ、先生へと向き直す。
赤鬼の反応に先生は口をパクパクさせ、何も言えず肩を落としHRを始めた。
※※
昼休み。凛と翔月はいつも通り屋上へと行こうとしたが、弥幸に目を向け足を止める。
いつもなら、二人が気づかないうちに姿を消し屋上に行っている。だが、今日は机に突っ伏し眠り続けていた。
二人は顔を見合せ、おそるおそる弥幸へと近づいた。そして、凛が顔を近づかせ小さな声で名前を呼ぶ。だが、反応がない。
翔月に首を振り、意味が無いと伝える。その後、翔月が弥幸の肩を掴み揺さぶりながら名前を呼ぶが凛の時と同様意味はなかった。
顔を見合せ、どうするか考え込む。すると、クラスメートが二人を見て手招きした。
「どうしたの?」
凛が先に近づき、声をかける。
「ね、ねぇ。最近、赤鬼君と仲良くない? 何かあったの?」
「え、い、いや。特に……」
凛は誤魔化そうと目を逸らし、曖昧に返答をしている。だが、それがかえって怪しく見え、問いかけたクラスメートは再度問いかける。
「何か隠してるでしょ。なに、赤鬼君と何かあったの?」
「そういう訳でもないというか……。ちょっと、気になったというか……」
凛が誤魔化そうと頑張っていると、弥幸がいきなり顔を上げた。
翔月は隣にいたため、笑いながら凛を見ていたが直ぐに弥幸が動いたことに気づき振り向く。
「あ、赤鬼。大丈夫か?」
翔月の問いかけに、弥幸は何も返答しない。
「おい、聞こえてんのか? 頷くとかしてくれよ」
再度問いかけるが、弥幸は何も反応せず。そのまま、教室を後にしてしまった。
凛はクラスメートに絡まれてしまっているため気づいていない。そのため、翔月が肩を落とし質問攻めされている彼女を救出。そのまま、屋上へと向かった。
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