「僕は」
二人の背後には、うつ伏せに倒れている弥幸の姿がある。それを見た瞬間、凛は口元に手を置き翔月の顔は青ざめた。
星桜は叫び声を上げ走り出そうとした。だが、それを咄嗟に翔月が腕を掴み止める。
「待て!!」
「なんで?! 赤鬼君が!!」
「あいつらが言っている心の巫女は恐らくお前のことだ」
彼の言葉に、星桜は口を紡ぐ。
「余計なことを。そのまま来ていただいた方が助かったのだけれど……」
残念そうに肩を落とし、風美は鉄扇を下ろす。
「でしたら、やはり無理やりに奪い取りましょうか」
「はい」
風美の言葉に、華恵は答え鎖鎌を構える。
右手で鎌を回し遠心力を付け、両足を肩幅に広げる。体を横へと向けいつでも投げられる状態へと動く。
翔月が星桜を後ろへと回し、自身も同じく腰に差していた鎖鎌を抜き取る。
「ほぅ。同じ武器か。どちらの方が上か比べるには、わかりやすいな」
「…………うるせぇよ」
経験の差や武器の使い方。それらは全て翔月の方が劣っている。
翔月はまだ妖傀退治を初めて日も浅い。それをわかってか、彼は不安そうに瞳を揺らし固唾を飲んでいる。
その隙をついて、華恵が回していた鎖鎌を翔月目掛けて勢いよく投げる。一寸の狂いなく翔月へと飛ぶ。彼は、咄嗟に体を左側へと逸らし回避。後ろの星桜は凛が咄嗟に肩を支え引っ張ったたため、当たることは無かった。
そのまま二人は地面へと転んでしまう。
避けられた鎖鎌は、ブーメランのように楕円上に曲がり、彼の後ろから襲おうとする。
それに気づき避けようとするが、凛が杖を取り出し火の玉を生成。そのまま放ったことにより鎖鎌は軌道がズレ、塀に当たり動きを止めた。
「助かった」
「油断しないで!」
凛が叫ぶと、華恵が翔月へと走り回し蹴りを食らわす。受け止めようと左腕を上げるが、何かを感じたらしく受け止めるのはやめて上半身を後ろへと逸らし回避。
「あぶなっ──え」
回避したはずだが、なぜか翔月の胸辺りの服が横一線に切られていた。
翔月達が身にまとっている服は、特別な布で作られているため、そう簡単に破れたりしない。通気性も良く、防水加工。
体を守るため頑丈に作られているはずの戦闘服が、避けた蹴りで切られている。
翔月は自身の切られた服に目を落としたあと、直ぐに顔を上げ困惑の表情を華恵へと向ける。すると、何かに気づいた。
「……──星桜!!!」
「えっ……」
咄嗟に振り返ったが、遅かった。
華恵が翔月と凛の注意を引いている際、風美がいつの間にか弥幸の近くから移動していた。その場所は、星桜の後ろ。
彼女が後ろの気配に気づき後ろを振り向こうとした。それと同時に、風美が星桜の腕に手を伸ばす。
風美の手が星桜の腕に触れるまであと、数センチ──……
「っ!」
横から赤い炎が放たれたため、風美は伸ばした手を咄嗟に引っ込め後ろへと跳んだ。
「まだ、動けたのね……。その生命力、流石よ」
目を細め、横へと向ける。そこには、震える体を何とか支え、必死に立っている弥幸の姿があった。汗を大量に流し、背中からの血液も止まっていない。地面にぽた……ぽた……と落ち、赤い模様を作る。
「赤鬼君!!」
星桜は弥幸に近づき、咄嗟に近づき体を支えてあげる。だが、彼はそんな彼女を押し離させた。
「君は今すぐ逃げるんだ。その二人と共に」
「でもっ!!」
「君達がいると、僕が思いっきり動けない」
それを聞いた星桜は息を飲む。文句を口にしたいが、この状況で凛と翔月が足でまといなのは本人達も分かっていた。
星桜も、精神の核を持っているとはいえ自身を守るすべがない。この場に留まれば、弥幸は三人を意識しながら戦わなければならないため、相手二人に集中できない。
それらを考えたらしく、星桜は弥幸から素直に離れる。不安げに眉を下げ、瞳を揺らす。だが、弥幸の強さは星桜も知っていた。
下唇を噛み、彼を見る。だが、覚悟を決めたのか。下げていた眉を釣り上げ、揺れていた瞳を弥幸へと向けた。
「信じてるから!!!!」
それだけ叫び、星桜は弥幸と目を合わせる。それを見た彼は、驚きで直ぐに反応できなかった。だが、フッと口元に笑みを浮べる。
「まかせっ──」
──任せてよ
そう、言おうとした時。鎖が星桜の周りに伸びてきた。
翔月、凛は動き出そうとするも風美が鉄扇を左から右へと大きく振り風を操り、地面から足を離させた。それにより、前へと進むことが出来ず動きを封じ込まれる。
弥幸が右手を伸ばし、星桜も助けを求めるように右手を伸ばす。だが、その手が触れ合うことは無かった。
鎖が星桜の体に巻きついてしまい、華恵の方へと引き寄せられた。そのまま、腰に左手を回し逃げ出さないようにする。
必死にもがくが、男性と女性では力の差もあり逃げ出すことなど不可能。
弥幸は後先考えず、自身の傷など気にせず走り出す。風美が鎌鼬を放ち制する。
後ろへと下げられ、彼は苛立ちで舌打ちをこぼす。
翔月は鎖鎌を投げようとしても、体を固定することが出来ないため狙いを定めることが出来ない。
そんな彼の様子を見て、凛は右手で持っていた杖を風美へと指す。
バランスを崩さないように気をつけながら、息を吸い集中力を高める。
火の玉が作り出され、赤く燃え上がる。徐々に大きくなる火の玉だが、それを向けられている風美は目を細め蔑んだような瞳を向けた。
「愚か者」
鉄扇を一振。すると、なぜか火の玉が一瞬にして姿を消してしまった。
「なっ!!」
何が起きたのか分からない凛は、もう一度出そうとする。
風美がいらただしげに凛へと近づき、鉄扇で彼女の右手を叩き杖を落とした。
凛が風美の気を引いている瞬間、弥幸は少し離れたところに落ちている刀を走りながら右手で拾い上げた。そのまま、華恵へと走り右手を左側に。左手を右側へと持っていき顔近くでクロスさせる。そして、刀が届く距離まで近づき、思いっきり横へとなぎ払おうとした。
「っ!! くそっ!!」
「赤鬼君!! 逃げて!!」
弥幸の足元からいきなり、上へと舞い上がる風が吹き荒れる。刃も混ざっており、彼の体を斬り裂いた。
舞い上がる風の中、弥幸は顔を隠すように両腕で覆う。それでも、一度止めてしまった足を動かし、星桜を助けようと歩き続けた。
「やめて。もう、やめて……」
彼の行動に星桜は涙を零し、掠れた声で伝える。華恵も彼の行動には目を開き、驚きの表情を浮かべていた。
風の刃が狐面の紐を斬り、弥幸から離れ上へと舞い上がる。
腕の隙間から見える深紅の瞳は、鋭く光り。真っ直ぐ星桜を見ていた。
射抜くような瞳に、星桜は息を飲み何も言えなくなってしまう。息を飲み、見続けることしかできない。
ゆっくり、ゆっくりと近づき。弥幸は、右手を星桜へと伸ばした。
最後の力を振り絞り、彼女を救い出そうと手を伸ばす。
華恵は弥幸の行動と鋭い瞳に圧巻し、体を動かすことが出来ない。微かに、肩が震えている。
あと数センチで、弥幸の手は、星桜の肩に手が届く。
「僕は、もう──……」
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