「ザワザワする」
翔月は一度コツを掴むことが出来たため、その後どんどんコントロールできる時間を伸ばしていく。それに引替え、凛は今だに一分も炎を灯し続けることが出来ず消えてしまう。
それを繰り返し、今では夜の八時。さすがに、ずっと炎を灯し続けている弥幸も疲労が見えてきた。
少しだけ顔色が悪く、眠そうに瞼が落ちかけている。
「あ、赤鬼ごめん。集中しすぎたよ」
「集中出来ていないから炎を灯し続けることが出来ないんでしょ。言葉の使い方、間違えてるよ」
「まだまだイケそうね。さぁ、早く炎を灯しなさい」
弥幸の言葉に凛は顔を引き攣らせ、蝋燭を突き付ける。
星桜は心配そうに弥幸を見ていた。
「ね、ねぇ。凛、もうそろそろ帰らないと時間的にやばくない?」
「確かに。明日休みとはいえ、もうそろそろ帰らないとまずいかもしれないね」
凛がスマホの画面に表示されている時間を見て呟く。翔月も腕時計を見て帰る支度を始めた。
「それじゃ赤鬼。また明日もよろしく〜」
「……はぁ。別にいいけど……」
三人が帰る準備をして部屋から出ると、その後ろから弥幸も付いて行く。その手には、何故か刀が握られていた。
「え? どうするのそれ」
「まだ八時だから問題ないと思うけど、念の為。いつどこで妖傀が現れるか予測が出来ないからね」
「でも、星桜の時はできてたんじゃないの?」
「同じ学校で同じクラスなんだから、見ていればわかるよ。これでも、人の想いには沢山触れてきたからね」
四人は廊下を進みながら話している。
凛の質問に淡々と答える弥幸。翔月と星桜も頷きながら納得していた。
屋敷を出て、星空が広がっている夜空の下を四人は道を塞がないように歩いていた。
街灯が四人を照らし、それと同時に光に集まる虫も一緒に照らしている。
少し涼しくなってきたとはいえ、まだまだ夏は続く。生暖かい風が頬を横切り、汗で服が肌に張り付く。弥幸以外の三人は、額から汗を流し歩いていた。
「まだまだ暑いねぇ」
「これでも、だいぶ涼しくなったんじゃない? 前までなんて、外に出ただけで汗が溢れ出てたし」
「それもそうだよなぁ。というか、なんで赤鬼は汗一つ流してねぇんだよ。暑くねぇの?」
翔月が口にするように、弥幸はなんともないような顔を浮かべ歩いていた。汗も流しておらず、暑さなど感じていないように見える。
「暑さには耐性があるだけ」
「炎を扱うからとか?」
「まぁ、そんなところじゃない?」
「なんで疑問形なの……」
「仮に、君に暑さの耐性が備わっていた場合。それをどうやって他人に説明するの?」
星桜に問いかけると、彼女は腕を組み頭を回転させ言葉を絞り出そうとしている。だが、良い言葉が出てこなかったのか肩を落とし、項垂れた。
「そういうことだよ。理屈じゃない、体が勝手に耐性を持ったんだよ。仕方がない、仕方がない」
「そう言うけどよ。アニメとかだと、炎に耐性があるやつは、炎に焼かれたことがあるとか。雷に打たれたことがあるとか」
「それはアニメの世界じゃん。ここは現実だよ? 大丈夫?? しっかりと現実見れてる?」
「安心しろ。現実をしっかりと捉えているわ!!!」
「それなら安心したよ」
翔月と弥幸の会話にため息をつく女子二人。
「いやぁ。赤鬼は本当に良い性格してるよね。人をイラただせる天才なんじゃないの?」
「ひ、否定ができない……。しかも、あれがわざとなのかそうじゃないのかも分からないし……」
「わざと怒らせているでしょあれ」
「だよね……」
乾いた笑みを浮かべる星桜。すると、彼女は何かに気づいたのか後ろを振り向いた。それと同時に、頬を何かが掠め切れてしまう。
「────え?」
何が起きたのか分からない星桜は、左手で切れた頬を撫で、地面を見る。そこには、なぜか風車が地面に刺さっていた。カラカラと、風を受けゆっくりと回っている。
「ちょっ! 大丈夫星桜?!」
「う、うん……」
頬から手を離し、地面に刺さっている風車へと手を伸ばす。だが、触れる前にその風車は姿を消してしまった。
「なにが……」
星桜が不思議そうに首を傾げると、弥幸が目の前まで来ておりしゃがむ。
「さっき。何されたの?」
「何されたって訳じゃないんだけど。どこからか風車が向かってきたの。そして、頬を掠めて地面に刺さったんだけど、なぜか触れようとすると消えちゃった」
「風車?」
星桜の説明を聞くと、弥幸は何かを思い出すように顎に手を当て考え始める。
その様子を三人は顔を見合せながら見ていた。すると、なにか思い出したのか。彼は再度星桜と目を合わせ問いかけた。
「今君、精神力のコントロールはしていた?」
「え? えっと。意識、してなかった……」
「なるほどね。だから、消えたのか」
弥幸が一人で納得していると、凛と翔月が彼にどういうことが問いかけた。だが、弥幸は答えることはせず「いずれ分かる」とだけ答えた。
それでもしつこく聞くが、話す気は無いらしく彼は一本の道を進んでいく。
凛と翔月は諦めたらしく弥幸の後ろを付いていき、残された星桜は胸元に手を置き夜空に浮かんでいる大きな月を見上げた。
その瞳は不安で揺らめいており、何かを察している表情を浮かべる。
「なんか、嫌な感じ。胸が、ザワザワする」
それがなんなのか考えていると、凛から声をかけられ、星桜はそれ以上考えることはせず三人へと駆け寄った。
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