「本当になりたいなら」
水泉家の一件を無事に解決した弥幸と星桜は、通常通り学校に行くことが出来ていた。
予定より遅くなってしまったため、事情を知っている凛と翔月は根掘り葉掘り質問攻め。それを、星桜が何とか噛み砕いて説明をし、二人を納得させた。
教師は、やっと二人が復活したことに安心したのか「やっと復活したか」とケラケラ笑いながらクラスのみんなに聞こえるように口にする。
星桜は体を小さくし、弥幸は気にする様子を見せず、いつも通り机に顔をつけて眠っていた。
それからは平穏な日々を送っており、凛と翔月は弥幸の家で伴になるための特訓を再開していた。
今は弥幸の部屋で星桜、翔月、凛、弥幸の四人で一つのテーブルを囲い座っている。
テーブルの上には三本の蝋燭。全てに赤い炎が灯されており、ゆらゆらと揺れていた。
凛と翔月が顔を合わせ、気合いを入れる。
「行くわよ」
口にすると、彼女が両手を動かしゆっくりと蝋燭へと近づける。
本当に、ゆっくり近づかせ蝋燭に手を添えようとした。
途中で炎が揺らめき、咄嗟に手を止めた。だが、直ぐに切り替え、再度近付かせ炎に手を添えることが出来た。
額から汗を流し、隣から『ピッ』という音が鳴る。
集中を切らさないよう、一定のリズムで呼吸。口を結び、息を飲む。
凛の緊張が周りに伝染しているかのように、星桜はテーブルの上に置いてある自身の手を強く握り、翔月は余計な動きをしないように微動だにせず、蝋燭の炎を見続けていた。
凛が炎に手を添えてから数秒間。
炎は揺らめくが消えることは無い。このまま耐えることが出来れば蝋燭訓練は終わり。無事に弥幸の伴になれる。
凛は唇を噛み、時間が経過するのを待った。
弥幸が片手に持っているタイマーの画面に目を落とす。
「ま、まだなの……っ……」
我慢の限界というように声を漏らす凛。すると、緊張の糸が切れてしまったのか、炎が大きく揺らめき、そのまましゅっと消えてしまった。
「残念だったね」
「だぁぁぁああ!!!!!!」
弥幸が肩を竦め、呆れ気味にタイマーを見ている。それを、凛が「くそっ!!」と言いながら奪い取り画面を見る。
「じ、十一秒…………。道のりが遠い」
「で、でも直ぐに消えなくなっただけでも進んでいると思うよ。諦めず頑張ろうよ!」
「そ、そうね……。まぁ、こいつのアドバイスのおかげというのが納得いかないけど……」
ジトッと横目で弥幸を見ている。
何度やっても上手くいかなかったため、凛は弥幸にアドバイスを求めた。その時に、弥幸は「頭の中に好きなモノを思い描いてみな」と伝えていた。
「にしても、凛はなんで好きな物を思い浮かべただけでコントロールできるようになってきたの?」
「え? そ、それは……その……」
凛は横目で翔月に目線を送り、頬を少し染める。その視線の意味が星桜と翔月には分からず、首を傾げていた。
「好きな物ではなく、好きな者を浮かべたというわけか」
「黙れ」
弥幸がボソッと呟いた言葉に、凛がいち早く反応し怒りの声をあげる。
「好きな物ではなく好きな物?? どういうこと?」
「君には一生分からないものだよ。とりあえず、早く次やってくれる? 時間の無駄なんだけど」
弥幸の言葉に、翔月が手を挙げ固唾を飲む。
大きな手を広げ、ゆっくりと炎へと手を添える。震えながらも近づけ、そのまま両手を添えることが出来た。それを見計らい、弥幸は凛から受け取ったタイマーのボタンを押す。
他の二人は邪魔しないように声を発することはせず、ジィっと揺れる炎を見続けている。
汗を滲ませ、緊張が周りに伝染していく。
集中力を切らさないよう気をつけていると、弥幸がタイマーの画面を見て目を閉じる。
それから数秒後、炎が大きく揺らめいたと思ったら勢いよくシュッと消えてしまった。
「あぁ……。やっぱり難しいな。赤鬼、何秒いった?」
「ん」
タイマーの画面を無言で見せる。その画面を見て、翔月は目を開き驚いた。
「あれ、一分過ぎてる?」
「みたいだね。一応合格ラインに達した。これで伴になれるよ。本当になりたいなら」
冷静に弥幸が伝え、タイマーをリセット。すぐに反応出来なかった翔月は、口をパクパクと開き何か言いたそうに彼を見ている。
「とりあえず、おめっとさん。残り一人は頑張りなよ。取り残されるよ」
「嫌味が絶えない狐がっ……」
怒りを顕にし、凛は拳を震わせる。慌てて星桜が押え、翔月は自身の手の平を見て握る。
「…………っし!!!」
喜びでガッツポーズ。それを見た星桜は、安心したように笑みを浮かべた。
凛は「ま、まずい……」と、顔を青くし顔を引き攣らせてしまった。
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