「手に入れるぞ」
タクシーで駅へと行き、電車に揺られ家へと帰宅。
その時には星桜も笑顔が消え、体力は限界。キャリーケースに両手を置き項垂れている。
「つっかれたぁ……」
「道の途中で止まらないでくれる?」
「どうして赤鬼君はそんなに元気なの……」
「疲れて死にそうだけど?」
「そんな風に見えないんだよなぁ」
弥幸の神社の方が駅から近かったため、先にそちらへと向かい彼は荷物を置いた。そのあと、星桜を送るため手に何も持たず家を出て、一緒に夜空の下を歩いている。
一応、何があってもいいように腰に刀を差していた。
「今日は少し曇っているね」
「そうみたいだね。でも、暗雲じゃないから雨の心配はしなくてよさそう」
「確かに。良かったぁ」
一息付き、星桜はもう一度キャリーケースを握り歩き出す。
真夜中に二人の足音と、キャリーケースのカラカラといった音だけが響いていた。
「でも、疲れているのに送って貰うと正直申し訳ない気が……」
「それは遠回しに帰ってもいいよって言ってるの? それなら遠慮なく帰るけど。ちなみに、夜にこそ妖傀は活発に動き回るし、もしかしたらそれ以外の奴も現れるかもしれない。襲われないように気をつけて帰ってね」
それだけ言うと、弥幸は本当に帰ろうと振り返り来た道を戻ろうとする。それを、星桜が彼の裾を掴み止めた。
「送ってくれてありがとう赤鬼君! お願いだから私の家まで来て!!」
「最初から素直になればいいのに」
「…………ごめんなさいね」
顔を引き攣らせ、星桜はため息をつき掴んでいた手を離す。すると、弥幸は隣へ移動し歩き進めようとした。だが、いきなり空を見上げ目を細める。
星桜は不思議に思い問いかけるが、弥幸は何も答えず「なんでもない」と口にし、また歩みを再開。
首を傾げながらもそれ以上問いかけることはせず、彼女も歩みを進めた。
☆
「あの方が、特別な精神の核を持つ女性のようね」
「そのようです。如何致しますか」
弥幸達の死角にあたる場所。立ち並ぶ屋根の上には、一人の女性と男性が二人を見下ろしながら話している。
女性の方は、それほど身長が大きくない。着物のような形をしているドレスを身にまとっている。
赤色を主体としており、広い袖辺りに風車が描かれている。黒い帯の下、膝辺りには白いフリルが着物から見え隠れしていた。
右手には鉄扇が持たれており、口元を隠している。
若葉色のショート髪を風に靡かせ、深緑色の瞳を星桜に向ける。
「そうね。精神の核は滅多にお目にかかることが出来ないレア物。手に入れるとするわ。華恵」
「かしこまりました、風美様」
華恵と呼ばれた男性は、老緑色の着物を身にまとい、後ろの帯には鎖鎌が差し込まれている。
耳が見え隠れするくらい短い黒髪に、同じく黒い瞳。
風美と呼んだ女性の隣でひざまつき、頭を下げながら会話を交わす。
「ぽっと出の新人退治屋になどに、我々風回家が負けるわけが無いわ。必ず手に入れてみせる。心の巫女を──……」
風美はその場で立ち上がり、フリルを揺らす。今までドレスで隠れていた細く、白い脚が露わになる。そこには、黒いベルトが巻かれており拳銃が二本、入っていた。
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