「おやすみなさい」
星桜の案内の元、二人は無事に部屋へと戻ることが出来た。
美咲は魅涼が上がって来るのを待つらしく、別れている。
「赤鬼君の方向音痴ってすごいよね」
「馬鹿にしてるの?」
「そういうわけじゃないけど……。道を覚える気ってある?」
「今は君がいるから問題ないでしょ」
「今まではどうしていたの?」
「逢花」
「逢花ちゃん……。お兄ちゃんのこと大好きなのは分かるけど、甘やかしすぎだよ……」
荷物をキャリーケースの中へと入れながら、星桜は弥幸を横目で見る。
彼は荷物をまとめ終えたらしく、お風呂に入っている間に敷いてくれた布団の上で横になっていた。天井を見上げ、動かない。
星桜も荷物を片付け終わり、弥幸の隣に敷かれている布団の中へと潜り横になる。
「君って、普段からそんな感じなの?」
「え、そんな感じって?」
「何も気にしないのって聞いてるの」
「え、何が?」
「一応、君と僕って異性なんだけど。一緒の部屋で眠るのになんの抵抗もないの? しかも、隣なんだけど」
「…………だって、赤鬼君別に私のことなんとも思ってないでしょ」
「まぁね」
「…………それはそれであれだけど……。なら、別になんの問題もないじゃん」
「…………もういい」
弥幸は諦めたように布団の中に潜り、星桜へと背中を向け瞼を閉じる。
星桜は彼が何を言いたかったのかわからなかったらしく、複雑そうに眉を顰め唇を尖らせる。それでも、起こそうとはせず寝返りを打つ。
弥幸の方を向き、そのまま瞼を閉じた。
「おやすみなさい、赤鬼君」
☆
次の日。朝食を食べ終え、二人は荷物を片手に部屋を出る。
「…………赤鬼君って、一日何時間寝れば気が済むの?」
「…………人間七時間が一番適正なんだよ。知らないの?」
「それ以上、確実に寝ている赤鬼君が言わないでよ」
「今回は眠れてないよ」
「私が頑張って起こしたからね!!」
朝、声をかけても全く起きる気配を見せなかった弥幸を、星桜が体を揺さぶり起こしていた。
不機嫌そうに「なに」と口にした彼に、星桜は一瞬肩を震わせたが、それでも負けずに起こし続けた結果。弥幸は星桜が声をかけてから三十分後に起きることが出来た。
そこから準備を整え、廊下を歩み進めている。弥幸は欠伸をこぼし涙を拭った。
「やっぱり、まだ疲れてるの?」
「体的には問題ないよ。精神力を使いすぎただけ」
「まだ完治してないの?」
「当たり前。ゲームみたいに時間が解決するものじゃないんだよ。回復速度も人それぞれだけど、僕の場合は完全に回復するまで丸々四日間は寝ないとダメだと思ってる」
「え、そんなに?」
「多分ね。今はおそらく六十パーセントくらいかな。精神力」
「半分より少し上程度……か」
心配そうに星桜が呟くと、廊下の前方から二人の男性がゆっくりと歩いている。
「おはようございます。赤鬼さん、翡翠さん」
「魅涼さんと碧輝さん! おはようございます」
優しい微笑みを浮かべている魅涼に、星桜が腰を折り挨拶する。
碧輝と弥幸は何も発せず、お互い目を逸らしていた。
「もう行かれるようですね」
「ここにいる理由が無くなったからね」
「そうですか。駅まで送りますよ」
「……………わかった」
少し渋るような間があったが、弥幸は素直に頷く。星桜も「よろしくお願いいたします」と笑顔で口にし、魅涼達の後ろを付いて行く。
「今回は本当にありがとうございます。助かりました」
「いえ! お役に立てて良かったです。私は何もしておりませんが……」
「そんなことありませんよ。貴方の力がなければ今頃彼はここにはいなかったでしょう。そして、私もここには立てていない。本当に助かりました」
魅涼が顔だけを後ろにいる星桜へと向け、困ったように眉を下げながら口にする。
「そういえば。魅涼さんはもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫とは? 水泉家についてでしょうか? それでしたらだいじょっ──」
「そちらでは無いです。魅涼の心がもう大丈夫かを聞いています」
「心?」
「はい! もう、貴方は一人で背負っていないか。周りが見えているのか。それだけを確認したかったです」
星桜は真っ直ぐと魅涼に視線を送り、彼はその瞳を見て立ち止まる。
振り返り、星桜の目の前に立ち目線を合わせるように腰を落とす。
「心配していただきありがとうございます。もう、大丈夫ですよ。安心してください」
魅涼の黄色く光る瞳には迷いがなく、嘘をついているようには見えない。そのため、星桜は安心したように笑みを浮かべ頷いた。
「わかりました」
「分かっていただけて良かったです」
そう口にすると、彼は体を戻し再度歩き出す。
この後は、魅涼と星桜は雑談。碧輝と弥幸は何も口にしないで歩みを進め、この雰囲気に似つかわしくない乗り物、タクシーに乗り込む。
「タクシー……馬車じゃないんだ」
「馬車の方がよろしければご用意しますよ?」
「い、いえ。大丈夫です」
タクシーは運転手一人と助手席に一人。あとは、後ろに二人しか乗れない。そのため、魅涼と碧輝とはここでお別れ。
タクシーに乗り込むと、星桜は窓を開け最後に二人へと声をかける。
「魅涼さん、碧輝さん。これからもお互い、妖傀退治頑張りましょう!!」
「はい。また、何かあれば声をかけさせていただきますね。それと、我々は恩を仇で返すような真似は致しません。なので、遠慮なく応援要請を送ってください。喜んで向かわせていただきます」
「わかりました!!!」
「なんで君が返事をするの?」
「あ、つ、つい……」
窓の縁に手を置き、星桜は弥幸の方へと振り向き顔を掻く。
「ふふっ。では、この人達をよろしくお願いいたします」
魅涼が口にすると、タクシーの運転手は被っている帽子の唾を掴み会釈する。すると、タクシーは動き出した。
「ありがとうございましたー!!!」
星桜は再度窓から顔を出し、後ろで手を振っている魅涼と、腕を組みながら見送っている碧輝に手を振った。
ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)