「やめておきましょう」
「もういい? 早く本題に入って欲しいんだけど」
「これも本題だったんですけどね」
「なら、もう話は終わりでいい? 僕、上がる」
「もっとゆっくりしていった方がいいですよ〜。たまにしか味わえないんですから」
弥幸が出ようとした時、魅涼が流れるように手首を掴み引き止める。そして、また湯船へと入ってしまった。
「熱いんだけど」
「温いはずなんですけどねぇ」
「………はぁ」
出ることを諦めた彼は、再度同じところに戻り座る。それを見ると、魅涼は「ふふっ」と笑い本題に入る。
「前置きが長くなりましたね」
「全くだよ」
「すいません。では、単刀直入に聞きますね。貴方は、一体何者ですか?」
魅涼の言葉に彼は何も答えない。前を見たまま、動かなくなる。
「…………質問を変えます。私は横の繋がりは広いと思っているのですが、赤鬼家など聞いたことがありませんでした。ですが、浄化という荒業を持っている。そんな家系があるのなら必ず知れ渡っているはずです。どのように隠していたのですか?」
「隠していたつもりは無いよ。普通に浄化していた」
「それは貴方の話でしょう。貴方の親や先祖などは? どのように力を受け継ぎましたか?」
「…………力を受け継ぐ……」
弥幸は呟くと、顎に手を当て考え始める。それを不思議そうに魅涼は見ており、首を傾げている。
「…………力は、受け継いでるよ。多分……」
「……多分とは?」
「訓練、したんだ。身体能力向上と神力の使い方。訓練、したけど……。兄も親父も、炎を出すところは見せてもらってない……気が、する」
「え? どのように訓練を?」
「…………記憶に、無い……」
弥幸は眉を顰め、思い出そうと頭を回転させる。だが、それでも思い出すことが出来なかったらしく、顎から手を離し俯いた。
魅涼はその様子を見て目を細め、彼から視線を逸らす。
そこから沈黙が続き、弥幸が「上がる」と口にし浴槽から出ていった。
その背中を見届け、魅涼は星空が広がっている夜空を見上げる。
「…………これ以上、踏み入るのはやめておきましょうか」
魅涼の言葉は誰にも届かず、そのままタオル片手に湯船から立ち上がる。
そのまま、洗い場へと姿を消した。
☆
弥幸は、一足先にお風呂場から外へと出ようとのれんを潜る。片手には着替え、肩には白いタオルがかけられていた。
ドライヤーをしていないらしく、銀髪から雫がポタ、ポタと落ちている。
今は魅涼から渡された白い浴衣を適当に着ている。
胸元が少し開いており、鎖骨辺りが見えてしまっていた。
そのまま部屋に戻ろうと足を一歩前に出すが、すぐに立ち止まる。
じぃっと長く続く廊下を見たあと、赤色ののれんを振り返った。中からは女性の楽しげな声が聞こえる。
それを耳にした弥幸は溜息をつき、壁によりかかり座る。膝を抱え、口元を埋めた。
「…………早く上がってきてよ……」
そう呟くと、弥幸は完全に顔を膝に埋めた。
それから数分後。赤いのれんから二人の女性が、肩に白いタオルをかけ出てきた。
一人は星桜、もう一人は美咲だ。
気持ちよかったらしく、楽しげに話しながら頬を染めている。
「すごく気持ちよかったですね」
「えぇ。ものすごく」
二人で笑いあっていると、美咲がなにかに気づき足を止めた。
「あれ」
「ん? どうしたんですか?」
「あの子。星桜ちゃんの彼氏さんじゃない?」
「だから赤鬼君は彼氏じゃっ──赤鬼君?!」
壁によりかかり、膝に顔を埋め座っている弥幸の姿を確認し驚きの声を上げる。そして、自身の荷物を床へと落し急いで駆け寄り正面に座り肩を揺らした。
「赤鬼君、赤鬼君!!」
名前を呼びながら肩を揺すっていると、弥幸が小さく唸り声を上げ顔を上げる。
「んんっ………。あれ、上がったんだ」
眠気まなこで星桜を見つめる。先程まで眠っていたのか、欠伸を漏らしていた。それを見た星桜は、最初少し驚いた様子を見せたが、すぐに安堵の息を吐く。
「また、目を覚まさないかと思った……」
「はぁ? 普通に寝てただけだけど。それに、眠っていたのは精神力を回復させていただけ。別に病気とかで寝込んでいたわけじゃないんだから、心配しなくても問題ないよ」
「そういう問題じゃないの!!」
弥幸は星桜の声に驚き、美咲は「あら」と口元に手を添え、彼女が落とした着替えを手に取る。
「なんで寝込んでいたとか。そういうのは問題じゃない。寝込んでいたことに問題があるの。赤鬼君は自分が思っている以上に、多分無理しているんだよ。今も眠っていたわけだし……」
不安げに揺れる瞳は、真っ直ぐと弥幸に注がれる。そんな瞳に見られ、彼はバツが悪そうに顔を背けた。
そんな二人に美咲がゆっくりと近づき、声をかける。
「そういえば。なんで赤鬼さんはこんな所で眠っていたの?」
「あ、そういえば……」
美咲の言葉に、星桜も首を傾げ弥幸の返答を待つ。すると、逸らしていた顔をそのままに、弥幸は小さな声でポソッと呟いた。
「…………部屋、どこか分からない」
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