「天才には限界があるけど」
「楽しみですね〜。まさか貴方とお風呂に入れるなど思いませんでしたよ」
「僕はマジで最悪だよ。なんであんたと風呂に入らないといけないのさ。時間ずらしてよ。僕は一人でゆっくり入りたいんだよ。今すぐどっか行って」
「ですが、場所分かりますか?」
「場所まで案内したら居なくなって」
「寂しいですねぇ」
魅涼と弥幸が手にタオルと着替えを持ちながら廊下を歩いていた。
星桜は美咲と共に先にお風呂へと向かっており、碧輝は後で入ると言っていた。
「なんであいつは一番言ってはいけない人達にタオルを借りに行ったんだ……。自分で行けばよかった」
「後悔あとに立たず……ですよ。ほら、つきました」
目の前には、左側に青色ののれん。右側には赤色ののれんが垂れている。どちらも温泉のマークが描かれており、旅館のように感じる。
魅涼は当たり前のようにのれんを潜り、弥幸も溜息をつきながら「仕方がない」と呟き中へと入っていった。
中に入ると、温泉のような光景が広がっていた。
左の壁や中心にはカゴが置かれている棚。右側には洗面所。浴槽に続く扉の隣には扇風機が置かれていた。
「旅館でも目指しているのここ」
「過ごしやすさを提供したらこうなりましたね。結構気分上がりますよ」
「どうでもいいよ」
そのまま一番端に置かれているカゴにタオルと着替えを入れ、服を脱ぎ始める。その隣に、当たり前のように魅涼が隣に移動し荷物を置く。
「なんで隣なのさ。違うところに行ってよ」
「仲良くしましょうよ。一緒に妖傀を倒した仲じゃないですか」
「僕は無駄に精神力使ったんだけど」
「なら、背中を流しましょう。それでチャラですね」
「そんなわけないだろ!!」
弥幸が珍しく声を上げ、魅涼の方に顔を向ける、すると、なぜか目を開き固まる。
「おや、どうしましたか?」
「………………やっぱり、助けなければよかった……」
魅涼は先に浴衣を脱ぎ、インナーに手をかけていた。抜いている途中で、引き締まったボディが見え隠れしており、弥幸はそこに目を向けていた。
「どうしたんですか?」
「………………死ね」
「いっ。なんでお腹を殴るんですか……」
「黙れ」
弥幸も服を脱ぎ始める。魅涼ほどでは無いが、それでも筋肉はつき引き締まった体が現れる。
肌は色白で、腰が細い。魅涼は、そんな彼を見下ろしニコニコ笑っている。
「きもい、ウザイ、見るなハゲ」
「禿げていないので違う人のことを言っておりますね。ここには私達しかいないはずなのですが……。他になにか?」
「もういい……」
そのまま腰にタオルを巻き、弥幸は一人で浴槽に向かう。魅涼も慌ててタオルを巻き追いかけた。
☆
二人は露天風呂にゆっくりと入った。
露天風呂なため、周りは大きな木の板で遮られており、木が立ち並んでいる。大きな石で浴槽を作り、湯口からお湯が出ている。
弥幸は頭にタオルを乗せて目を閉じ、気持ちよさそうに頬を染めている。その隣に、浴槽を作っている石の上にタオルを置き、同じく気持ちよさそうに頬が赤くなっている魅涼が座っていた。
「…………君は、いつから妖傀退治屋に?」
「兄がそれを放棄してから」
「お兄さん?」
「うん」
目を開け、正面を向きながら弥幸は淡々と質問に答える。
「お兄さんはなぜ放棄したのですか?」
「知らない。その時、僕はまだ九歳だよ。理解出来るわけがないじゃん」
「理解しようとしなかったとも考えられそうですけどね。貴方でしたら」
「僕をなんだと思っているの」
「猫さんですかね」
「黙れ」
くすくすと魅涼が笑い、弥幸が水をかける。
「酷いです」
「あんたが悪い」
「やれやれ。それで、兄が放棄してからというと九の時から退治を?」
「流石にそれは厳しいよ。大体、訓練を始めるのも十歳からでしょ。九の時に兄が放棄したからすぐにやるのは不可能」
「そうですよね。だとすると、貴方が身につけるまで赤鬼家は活動休止していた感じですか?」
「そんな感じ。まぁ、一年で身につけたけど」
「殺意が湧きました」
「また、妖傀出さないでね」
笑顔で拳を握る魅涼に、弥幸は全く気にせず返す。
「天才は天才ですか」
「天才には限界があるけど、秀才には限界がないよ」
「どういうことですか?」
「天才ということだけでは上へは行けない。そこに努力を挟める必要がある。でも、天才な奴って自分を棚に上げるやつが多いからそれをしない。だから、限界がある。でも、秀才──才があるやつは努力してそれを磨こうとする。僕としては天才と言われるより才能があると言われた方が嬉しいよ」
両手を合わせ、水を前方に飛ばしながら弥幸が抑揚のない口調で言う。魅涼はそれを聞いて、薄く笑みを浮かべ「そうですね」と呟いた。
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