「お前と赤鬼の実力だ」
熱を確認した星桜は、ホッと息を吐き手を離す。
「良かった。熱は無いみたい。体に違和感とかない? だるいとか頭痛とか。関節の痛みとかあるんだったらまだ横になっていた方がいいよ。学校にはもう連絡入れてるから」
星桜が口にすると、弥幸がジトッとした目を向ける。その視線に疑問を感じ、星桜は首をかしげ「どうしたの?」と、問いかけた。
「君は僕のお母さんなの?」
「せめてお姉さんがいい」
「そういう問題じゃないんだけど……」
彼女の返答に、弥幸は頭を掻き呆れ気味にため息をつく。そして一言「問題ない」とだけ口にして立ち上がった。
「どこ行くの?」
「トイレ」
「場所分かる?」
「……………………どこ」
「一緒に行くよ。ここ、大きいから迷うと思うし。赤鬼君なら、尚のこと」
「それ、どういう意味」
「なんでもなーい」
楽しげに彼女は会話し、襖を開ける。弥幸が少し後ろを歩いているため、星桜は振り返り問いかけた。
「なんで後ろ?」
「なんとなく」
「隣来れば?」
「道を塞ぐ気?」
「…………赤鬼君って、変なところ生真面目だよね」
「普通だから」
そんな会話をしていると、すぐ目的の場所に辿り着くことが出来た。
「待ってる?」
「僕のこと子供だと思ってない?」
「方向音痴じゃん」
「……………」
星桜の言葉に何も返さず、弥幸はトイレの中へと入る。それを、呆れた目で見届け壁によりかかった。
廊下を女中が歩いており、邪魔にならないように気をつけていた。
今はご飯の支度や掃除など。家事の時間らしく、忙しない。
そんな女中を眺めながら待っていると、碧輝が前からやってきた。
「あ、碧輝さん。お疲れ様」
「あぁ。何してんだ」
「赤鬼君待ってます」
「…………ここで?」
「はい!」
それ以上碧輝は何も言わず「そうか」と呟くだけだ。
「目を覚ましたのか……。今日で帰るのか?」
「赤鬼君の体調次第かなと思います。さっき起きたばかりなので、もう少し休んで欲しいという気持ちもありまして……」
「俺達はどちらでも構わん。好きにしろ」
「ありがとうございます」
そのまま去ろうとする碧輝に、星桜は名前を呼び引き止めた。
振り返ったところを見計らい、彼女が腰を折り頭を下げる。
「今回は赤鬼君を助けてくれてありがとうございます」
「…………俺は何もしていない。あれは、お前と赤鬼の実力だ」
それだけを口にし、今度こそ碧輝は廊下を進み姿を消した。
顔を上げた彼女は、彼の言葉に頬を緩め笑みをこぼす。
「私の実力……。少しは、助けになったかな」
胸元で手を組み、笑みを浮かべながら目を閉じ、喜びをかみ締めている。すると、後ろから足音が聞こえた。
「何にやけてるの。気持ち悪い」
「あ、おかえり。って、気持ち悪くないもん!!」
「はいはい」
星桜の主張をガン無視し、弥幸が隣を通り抜けようと歩き出す。それを後ろから頬を膨らましながら彼女はついて行く。すると、廊下の途中で曲がり角が現れたが、弥幸は気にせず真っ直ぐ進む。それを、星桜が腕を掴み止めた。
「赤鬼君……。ここ、曲がるよ」
「………………………ここの屋敷、広すぎなんだよ」
「広さ的には、赤鬼君の家と変わらないよ……」
☆
その日の夜。
さすがに弥幸も起きたばかりで三時間電車に揺られるのはきついらしく、帰るのは次の日にすることにした。
星桜は、また学校に連絡しないとと肩を落としているが、彼は全く気にしない。
二人は、部屋で女中が届けてくれた料理を無言で食べていた。
テーブルの上には、マグロやサーモンの刺身。魚の煮付けや冷奴、椎茸の天ぷらなど。
旅館の料理と思わしき物が並んでいる。
星桜は美味しそうに、ニコニコしながら食べており、弥幸は無言のまま刺身ばかりを食べている。
「…………刺身以外も食べなさいよ」
「うん」
「あっ! またサーモン食べた!! もう、天ぷらも食べてみなよ。美味しいよ?」
「うん」
「………………どんだけ刺身好きなの……」
「うん」
「会話のキャッチボールができない!!!」
そう嘆きながら、星桜もしっかりとご飯を食べ終えた。
「結局、刺身だけかい!!!!」
「………………」
「無視は良くない!!!」
星桜の怒りの声など気にせず、弥幸は廊下へと出ようとする。
「あれ、どこ行くの?」
「お風呂」
「場所わかるの?」
「わかんないけど、まずタオルとか借りてからにしようと思って」
「なるほど。なら、私借りてくるよ。赤鬼君はやすっ──」
「助かる、任せた」
星桜の言葉を最後まで聞かず、弥幸は真っ直ぐ部屋の奥へと戻り布団へと横になる。その姿を、星桜は顔を引き攣らせ、枕を取るという嫌がらせをしたあと部屋を出た。
ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)