「なりたいですか?」
魅涼の質問に、星桜は少し考える素振りを見せる。だが、すぐに答えが見つからなかったらしく首を横に振ってしまった。
「わからないです。伴になった訳では無いですし、かと言って友人などの関係も違うかなと」
「でしたら、恋人ですか?」
「断じて違います」
「おやおや。そこは全否定ですか」
星桜の反応を楽しげに見ながら、魅涼は口元に手を当てくすくすと笑う。その様子を見て、彼女はゲンナリしたような表情を浮かべため息をつく。
「なぜそう勘違いしたのですか」
「いえ。貴方達の関係に名前を付けるのなら。そう、思いましてね。違うのは酷く残念です」
「残念そうに見えませんけど……」
「そんなことありませんよ」
そんな会話している横で、弥幸は寝息を立て深い眠りに入っている。相当疲れていたらしく、当分目を覚まさない様子だ。
「では、質問を変えましょうか」
「な、なんですか」
「そんなに身構えないでください。面接とかでは無いのですから」
魅涼が口にするが、星桜は警戒をとかず怪しむような瞳を向けている。それに肩を落とし、眉を下げ彼は弥幸を見下ろしながら口を開く。
「貴方は、彼の何に、なりたいですか?」
横目で彼が星桜に視線を送る。その瞳に彼女の驚いた表情が映る。
「答えられないのですか?」
「………赤鬼君の、私は……」
その後の言葉が続かず、星桜は自身の正座している膝に目を落とす。
「…………すいません。意地悪をしすぎましたね」
「……いえ」
「今は特に考えなくてもいいと思いますよ。ですが、今後必ず考えることになると思います。貴方達について」
「なんでですか」
「私達が扱っているのは神力、精神力。これはつまり、人の想いに触れているということ。これは私個人としての考えなのですが──……」
魅涼の言葉に、星桜は顔を上げ弥幸を見つめる。その目は、不安と心配。そのような感情が込められており、彼の左手を優しくにぎった。
☆
弥幸はまる二日間眠り続けている。それにより、星桜は学校に電話をし休む羽目となった。
理由を頑張って絞り出していたが、何も思いつかず魅涼へ相談。
「熱で休みにすれば良いのでは?」
変に難しく考えていた星桜は、彼の提案をすぐに飲み学校へと連絡。休むことが出来た。
「あ、美咲さん。こんにちは」
「星桜ちゃん。こんにちは」
星桜は手に桶を持って廊下を歩いていた。すると、前方から一人の女性が姿を現す。
空のように透き通っている青色の着物に、黄色の帯。今は襷をしているため、家事の途中と分かる。
「美咲さん。あれから左胸の傷はどうですか?」
「心配してくれてありがとう。今はだいぶ良くなって、家事とかも手伝えるようになったのよ」
ふふっと笑いながら、美咲は手に持っていた雑巾を握る。それを見て、星桜は安心したように笑みを浮かべ横を通り抜ける。
美咲は、魅涼達によって酷い目にあっていた。
地下の牢屋に入れられ、無理やり精神力を奪われていた。だが、今では自由に歩き回ることができ、顔色も良く、沢山笑うようになっており一安心。
星桜はそのまま手に桶を持ちながら一つの部屋を目指す。中に水が入っているため、零さないように歩いていた。そして、目的の部屋に辿り着き襖を開ける。中には、まだ布団の上で横になり目を閉じている弥幸の姿があった。
「まるまる二日、眠り続けてる。大丈夫……なんだよね……。生きているんだよね……」
不安げに声を振るえさせ、布団の横に正座しタオルを絞る。そして、弥幸の額に乗せた。
顔色はだいぶ良くなったが、目を覚まさなければ安心できない。
魅涼は「眠り続けているということは、それだけ精神力を回復しているということ。目を覚ますまで待ちましょう」と言っていた。その言葉を耳にしても尚、星桜は不安だった。
何度も何度も魅涼に、弥幸が大丈夫か聞いている。その度、彼も安心させるように「大丈夫」と言い続けた。
それから更に二日後。
星桜はまた学校に連絡を入れ休む。だか、先生が少し疑うような声色をしていることに彼女は気づき、早く要件を口にし電話をきる。
大きなため息をこぼし、携帯をポケットに入れた。
電話はいつも廊下でしており、彼女は襖を開け中へと入る。
「赤鬼君。もうそろそろ本当に起きっ──」
星桜が中で眠っていた弥幸に声をかけたが、途中で言葉を止め部屋の奥を凝視する。
そこには、弥幸が上半身を起こし天井を見上げている姿があった。
彼は星桜に気づき、ゆっくりと首を回す。
無表情で、何を考えているのかわからない。体が痛いのか、だるいのか。なにか不調があるかないかすら分からず、ただただ星桜を見続けている。
その視線に耐えきれなくなったのか。星桜は、目線を逸らしながら歩き弥幸へと近づいていく。
「赤鬼君。お、起きたんだね。もう、心配したんだよ!!」
「精神力を0に近いところまで使ったからね。倒れるのは仕方がないじゃん」
「私や碧輝さんの精神力を使っていたじゃない」
「疲労も溜まっていたしね。体が休めと訴えてきたんだから仕方がないよ」
「際ですか……」
今まで通り嫌味のある言葉をかけられ、星桜は顔を引き攣らせ肩を落とす。そして、右手を伸ばし、弥幸の額に手を添えた。
「っ。ちょっと、なんの真似」
「熱がないか確認!! 動かないで!!」
弥幸は星桜の手を退けようとするが、彼女の圧に一瞬狼狽え、複雑そうに眉を顰める大人しくなった。
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