「貰って欲しい」
弥幸の言葉に、この場にいる全員が目を開き、一人だけ拳を握り震わせていた。
「君は、長男として頑張ってきた。弟に負担をかけないように。天才じゃないと自覚していても、弟を支えてきた。僕は、それだけですごいと思うよ」
その言葉にはなにか含みがあり、星桜は誰にも届かない小さな声で名前を呼ぶ。
「それに、君は天才ではないけれど、才能はあると思う」
「ありませんよ。私には……」
「というか、才能がなければ神力を使えないし、水泉家みたいな大きい組織の頂点に経つことなんて出来ないよ。ただ、長男と言うだけでやれることじゃない」
弥幸の抑揚のない言葉に、魅涼は顔を俯かせながら何も反応を見せない。だが、彼は言葉を繋ぎ続ける。
「君は、少ない神力であそこまでの戦闘を見せた。神力を武器化したり、援護に徹したり。正直、君がいなければ僕は篠屋紅美歌の時で危なかったかもしれない。女性型があんなに大きくなるなんて知らないし、それでも二人は冷静に対処していた。逆に、なんでそんなに自分を責めるの? それが分からないんだけど」
これが弥幸なりの励ましなのか。
今の彼の抑揚の無い言葉では判断が出来ないが、星桜は薄く笑みを浮かべ、安心したように眉を下げ胸元に手を添える。
「君は天才じゃない。だからといって、君は一人じゃない。君を大事に思っている人、君に感謝している人。最低でもここにいるんじゃないの? もっと視野を広くしなよ。大人なんだから」
その場に立ち上がり腕を組み、弥幸は鼻を鳴らす。
彼の言葉に、魅涼は目を開き顔を上げた。そこには弥幸と入れ替わるように碧輝が近づき、魅涼を見つめている。それだけではなく、女性が彼の服を掴み引っ張る。その瞳は、不安げに揺れているが、目を離さないように真っ直ぐと彼を捉えていた。
「兄貴」
「魅涼様」
二人に呼ばれ魅涼は空いた口が塞がらず、何も口にできない。
口元は震えており、目からは透明な雫が零れ頬を伝っている。
「なぜ。私は、貴方達に……」
「俺は、兄貴がいないければ何も出来ないただの落ちこぼれだ。精神力が多くても、それを扱えず怒られていた俺に、兄貴だけは根気よく教えてくれた」
「私は、貴方が恨めしいです。たくさん酷いことをされました。怖くて、痛くて、殺してやりたいとも思いました。ですが、あの二人を見て思い出したんです」
碧輝の言葉に女性が続き、弥幸と星桜に目を向け、言葉を繋ぐ。
「私を、両親という鎖から放ってくれたのは貴方達だったと。私は、英才教育を受けていました。私がやりたいことは何も出来ず、ただ両親に従うだけの人形となっておりました。それで、妖傀を生み出してしまった。でも、そこで魅涼様は、まだ見習の身であったのに命をかけて助けてくれた。それを、私は恨みのあまり頭から消していました」
女性は言葉を繋げながら魅涼の震える手を握り、自身の胸元に押し当てる。
「この命は、あなたに助けられた。貴方は、人の命を助けたのです。だから、誇って欲しい。自分を責めないで欲しい。そして、もう人の精神力を奪うことはせず貰って欲しい。私も、貴方の力になるように努力します」
力強く、女性は魅涼に言い放った。
その瞳、言葉に彼は驚きで何も言えず、止まらない涙を空いている左手の甲で拭う。
「良かったじゃん。君、しっかりと周りから認められていたよ」
「………はい。そう、みたいですね……」
涙を拭い、顔を上げた魅涼の表情は清々しく。
今までの笑みではなく、綺麗で、憑き物が落ちたような。綺麗な笑顔になっていた。
☆
弥幸達は一度、水泉家の屋敷に戻り休むことにした。
その途中で、またしても弥幸が限界に達したらしく、今度は誰も間に合わず地面へと倒れてしまった。
星桜が泣きながら名前を叫び、魅涼が楽しげに横抱きし部屋へと運ぶ。
碧輝は両腕の傷を手当するため、水泉家が雇っている医師に見てもらうことにした。それと同時に、女性の胸元の傷なども見てもらうことにしたため、二人は別行動。
星桜は弥幸の寝ている布団の隣に座り、看病している。
額に白いタオルを乗せているが、それ以外何も出来ない自分に、彼女は拳を握った。
弥幸を見つめている瞳には影が掛かっており、口元を結ぶ。
握っている拳は震え、なにかに耐えている様子だ。そんな彼女が居る部屋へと、魅涼が入ってきた。
「様子はどうですか?」
「静かに眠っています」
「それなら良かった」
安心したように魅涼は目を伏せ、星桜の隣に座る。横目で彼女を見ており、彼はそっと口を開いた。
「貴方は、彼のなんなのでしょうか?」
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