「しっかりしやがれ」
「赤鬼君危ない!!!!」
星桜の声に反応し、弥幸は向けられた水の玉を咄嗟に刀を引き下か上に刃を振り上げ斬る。
二分割にし、後ろへと流れていく。それに安心し、彼はまたしても目を離してしまった。
二分割された水の玉は消滅せず、まだまだプルプルと動いている。そして、二つの水の玉を作り出した。
弥幸の後ろから、左右に移動し勢いよく放たれる。彼が気づいた時にはもう遅く、炎鷹の足元に当たってしまった。
「あっ──」
弥幸の手にも当たり、痛みと衝撃で手を離してしまい空中へと投げ出されてしまった。
炎鷹が助けに入ろうとするが、それを妖傀の手によって遮られてしまい向かうことが出来ない。
下にいる炎狼を使い受け止めてもらおうとするが、地上でも溶ける水が四方にちりばめられているため無闇に動ける状況ではない。
弥幸は炎狐を出そうとするがまだ時間が足りず無理。
頭から落ちてしまい、体勢を整えようとしているが圧がのしかかり不可能。
焦りを顔に滲ませ、どんどん近付いてくる地面を見る。
焦りで目を見張り、息が荒くなる。このまま落ちてしまえば確実に待っているのは『死』のみ。それだけではなく、付近に水の玉が浮かんでおり、下手に動けば体が溶けてしまう。
「い、嫌だ……」
自身に迫ってくる死の恐怖に、弱々しく呟く。
もう、何秒もしないうちに彼は地面と衝突してしまう。式神が動けない以上、今の弥幸にはどうすることも出来ない。
星桜が走り出しているが間に合わず、間に合ったとしても受け止められるわけが無い。
最後まで抵抗しようと、頭を手で抱えるがそれは意味の無い行動だ。弥幸もそれは分かっているが護らずにはいられない。
目を強く瞑り、地面に叩きつけられるのを待つしかできなかった。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
星桜の必死の叫び声が響いた。それと同時に、激しく波打つような。荒れている水の音が聞こえた。
弥幸へと向かう波。彼が地面に叩きつけられる既のところでその波は、彼を包み込む。
「あれは……?」
目に涙を浮かべ、星桜はその波を見ている。すると、その波は弾き飛び、中から碧輝が弥幸を横抱きにして抱えている姿を確認できた。
星桜は胸をなでおろし、力が抜けたようにその場に膝をつき座り込む。それを、女性が両肩に手を置き、安心させるように頭を撫でる。
「────た、碧輝……」
「お前が居なければ兄貴は浄化できねぇ。しっかりしやがれ!!!」
碧輝が鋭い爪と尻尾を生やし、人狼のような姿になり弥幸を助けた。
彼の情けない姿を目にし、怒りが芽生え大きな声で怒鳴り散らす。その事に弥幸は何も言わない。それに対しても苛立ちが募るのか、碧輝は舌打ちする。
周りを見回し、水の玉に当たらないよう器用に避けながら妖傀から距離をとった。
足から弥幸を地面に下ろしたが、足に力が入らない。
地面に片膝を折り、手をつけてしまった。
「お前も餓鬼らしいところあるんだな」
「僕はまだまだ餓鬼だよ。死ぬのは怖いし、戦うのだって怖いんだ。今からでも逃げたい」
狐面を取り、目に浮かんでいた涙を拭きながら不貞腐れたように言い放つ。
星桜と女性は弥幸に近付きその場に座り、怪我ないことを確認すると安堵の表情を浮かべ息を吐いた。
「良かった……。でも、もう上空には──」
「多分、同じ方法で上に行くのは不可能というか怖いから無理。僕の心が折れた」
「み、みたいだね。『我』じゃなくて『僕』に戻ってるし……」
星桜は呆れ気味に弥幸の様子を見ながら、今だ彼の式神を消そうと動いている妖傀に顔を向ける。
炎鷹は上空を飛び回り、炎狼は咆哮で水を破壊し続けている。
妖傀は大きい体を活かし、その場から動かず手だけ伸ばし弥幸達を掴もうと伸ばしてきた。
弥幸は震える足を無理やり動かし、碧輝は炎狼の咆哮で傷付いた腕を支えながら走り出す。
星桜と女性は妖傀を見上げながら弥幸達の後ろを走った。
「狙いは赤鬼君だよね。赤鬼君に攻撃仕掛けてるし、碧輝さんには一切目をくれない。ということは魅涼さんは赤鬼君を恨んでるってことなの!?」
「知らないよそんなの。ぼっ──我は恨まれることなどした覚えは無い」
「今さら取り繕う方が恥ずかしいと思うよ赤鬼君」
「うるさい」
走りながらそんな会話を交わしていると、碧輝が急に立ち止まる。
振り返りながら右手の人差し指と中指を立て神力を集中させた。すると、妖傀に負けないほどの大きさはある水の玉が碧輝を囲うように出現した。
二本の指を前へと突き出し、水の玉を向かわせぶつける。だが、バランスを崩すこともせず全く効いていない。
舌打ちをし、また再度走り出すが妖傀は近くにいる碧輝ではなく遠くにいる弥幸に手を伸ばし続けた。
「なんで僕なのさ!!! 大体僕が何したっていうのさ!!」
「戻ってる!!! いつもの赤鬼君に戻ってるよ!! 冷静さを取り戻して!!!」
「無理無理無理!!! さっきので本当に心が折れた!! ものすごく怖い!! 逃げたいよ!!」
「絶対に助けるんじゃなかったの!?」
「心が折れた人間にその黒歴史を突きつけないで!!」
「歴史というほどまだ古くないけどね!!」
弥幸と星桜の言い合いがこの場の空気感に合わず、女性は思わず呆れてしまっていた。
弥幸達のスピードより、妖傀の伸びてくる手の方が早いらしく頭上を取られてしまった。
弥幸一人なら避けることが出来るが、星桜と女性もとなると話は別だ。
三人は見上げ避けようとするが、足が棒になりそうなほど疲労が溜まっている。今にでも倒れ込んでしまいそうだ。
女性は元々体力がない分、星桜達と比べると相当辛そう。
「くそっ!!!」
弥幸はもう間に合わないと悟ったらしく、星桜の背中を前方へと押した。
「──え、あかぎ、くん?」
星桜は弥幸に押されたことにより妖傀の手から逃れることが出来た。だが、取り残された弥幸はそのまま掴まれてしまう。
その時の弥幸の表情は恐怖で染まっており、今にも涙を流しそうな真紅の瞳を狐面の隙間から、覗かせていた。
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