「眠りにつきましたよ」
外で、魅涼と碧輝は動かなくなってしまった弥幸と妖傀を見上げていた。
「何をしている」
「分かりませんが、これが浄化なのでしょう──おや。終わったみたいですよ」
魅涼が言うように、弥幸が少しだけ動きだした。
左胸に入れていた右手を抜き取り、炎鷹を操作して魅涼達の所に降り立つ。その時、彼が離れたことにより、妖傀は灰になり風に吹かれ姿を消した。
妖傀の表情は柔らかいもので、もう問題は無い。
弥幸は一言も話さず、手に持っている光を空の小瓶に入れる。
それは黒い液体へとなり、小瓶の中でゆらゆらと動いていた。
「これは──」
魅涼は初めて見るその液体に目を輝かせ、手を伸ばし問いかけようとした。だが──
「おや?」
「なっ!! おいお前!! 兄貴に何して──」
弥幸がいきなり魅涼の方へと倒れ込んだ。
魅涼は弥幸を受止め、碧輝は文句を口にするがそれも途中で止まってしまう。
困惑の表情を浮かべ、震える手で弥幸を指差し固まった。
弥幸は寝息を立て目を閉じ、眠っていた。
その様子を見て魅涼は微笑みながら見下ろし「仕方がありませんね」と彼を横抱きして屋敷へと戻ろうとする。それを、碧輝は面白くなさそうに、後ろで不貞腐れながら付いて行く。
「倒れ込んでしまうほど精神力を使ってしまうのですね。式神をあそこまで扱える方なので精神力は少なくないはずなのですが……」
魅涼は今回の弥幸の戦闘を目にして、彼の戦術や柔軟性。あと、精神力の多さを知ることが出来た。
言葉では心配しているように言っているが、声は重く、低いため心から心配はしていない。
それだけではなく、寝息を立てて眠っている弥幸を見下ろしている瞳の奥には、憎悪や羨望、嫉妬といった感情が見え隠れしている。
「全く、何故こうもこの世は理不尽なんですかね……」
口元に笑みを浮かべそう口にする魅涼だが、目は笑っていない。憎んでいるように思える口調で、呟いた。
そんな彼を隣で碧輝は怪訝そうに見ており、その瞳は不安げに揺れている。
「兄貴?」
魅涼の纏う異様な空気に、碧輝は何も言えず付いて行くしか出来ない。
屋敷へ戻った二人は、弥幸を布団へ寝かした。その後、魅涼と碧輝は精神の核を持っている二人に会いに行った。
☆
星桜は地下室の床で目を覚ました。
地面は氷のように冷たく、どこからか風が入ってきているのか寒い。
体を遅く冷風に体を震わせ、彼女は腕を摩る。凍るような寒さに耐え、場所を確認するため体を起こし周りを見回した。
周りを見ると、光源は蝋燭の火しかないため薄暗い。牢屋に入れられており、その場から動きたくとも出られない。
「ここって──」
周りを見ているとガシャンという、金属が重なり合う音が隣から聞こえそちらに目を向けた。すると、そこには鎖で両手両足を固定され壁に拘束されている一人の女性がいることに気づく。
「だ、大丈夫ですか?!」
その女性に慌てて近付き、彼女は声をかけ様子を確認する。
顔を俯かせているため乱雑に切られた長い髪で隠れてしまっている。そのため、気絶してしまっているのか起きているのかわからない。だが、星桜の言葉に返答がないところを見ると、気を失ってしまっている可能性があった。
それでも星桜は何度も呼びかけていた。すると、やっと女性が気づいたらしく少し目を開き、顔を上げた。
「あ、よかっ──」
目を開けたことに安心した星桜だったが、女性の目を見た瞬間声を詰まらせてしまう。
女性の少しだけ開かれた瞳には、言いようのない憎悪で埋め尽くされており、その奥には復讐の炎が燃え上がっていた。
「あ。えっと。あの、大丈夫ですか?」
その目を見た星桜はどう声をかければ良いのかわからず、安否の確認だけでもと思ったらしく問いかける。だが、なんの返答もない。
「何があったんですか?」
「……」
女性は星桜の言葉に答えず、上げた顔をまた下ろしてしまった。
「あの……」
どうすればいいのか分からない星桜は、また声をかけようとする。だが、後ろから名前を呼ばれてしまい問いかけることが出来なかった。
「翡翠さん」
その声は気軽な物では無く、重く低い声だった。
星桜は肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り向く。すると、そこには優しい笑みを浮かべた魅涼が立っており、手には鍵束が握られていた。
「起きたのですね。良かったです」
「み、魅涼……さん。なぜ……」
星桜は女性を庇うように前に立つが、震える声を抑えることはできていない。胸辺りで強く手を握りながら聞いた。
「そんなに怯えないでください。まるで、私が悪者みたいじゃないですか」
「あの、赤鬼君は──」
「赤鬼家次男さんなら、先程眠りにつきましたよ」
「眠りにって……」
その言い方だと二つの意味が考えられる。
永遠の眠りについたのか、本当にただ寝ただけなのか。
「先程まで妖傀と戦闘を行っていましてね。貴方の言う赤鬼さんは、しっかりと最後まで頑張ってくれましたよ」
「あの、その言い方やめていただけませんか? わざとですよね。不謹慎なのでやめてください」
星桜はキッと鋭い瞳で睨み、その表情を楽しげに魅涼は眺めている。
碧輝は魅涼に向けられた目が気に入らないのか、星桜に向かって怒鳴り散らした。
「貴様!! 兄貴にそんな目を向けていいと思ってんのか!!」
「いいんですよ碧輝。その方が楽しいですから」
魅涼は星桜に睨まれているにもかかわらず、クスクスと笑いながらその目線を受け止めている。
「それより、貴方は精神の核をお持ちのようですが、それは誠ですか?」
「持っているみたいだけれど、それがなんですか?!」
星桜は怒りのまま言葉を交わしている。その後ろで、鎖に繋がれていた女性はなぜか目を見開き驚いた表情を浮かべた。
「なっ。だ、ダメよ!!!」
後ろから急に甲高い声が響き、星桜はそれに驚き咄嗟に後ろを振り向いた。すると、牢屋の鍵が開き中に碧輝が足を踏み入れた。
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