「もう嫌だ」
中へと入った三人は、弥幸の隣に座る。さすがに女性の胸元を見る訳にもいかないため仕方がない。
「失礼しますね」
右手を伸ばし布団をめくる。そして、胸元を少し開いた。すると、翔月は目を開き固まり、逢花は首を傾げている。
「貴方には見えたようですね」
「え、あ、あぁ。刻印というか、黒く染っている感じに……」
「でしたら、目に神力を集めるように意識してみてください」
「え、あぁ」
そう言われ、翔月は再度弥幸を見て集中する。すると、「えっ」と言葉をこぼす。
「見えましたか?」
「あぁ。なんだよこれ。刻印を中心に黒い痣が広がってる……」
「おそらく、どなたかにつけられた呪い。かと、思いますよ」
「呪い?」
「はい。一般的な言い方をするとその言葉が一番しっくりきます」
二人の会話を耳にし、逢花はもう一度弥幸を見る。だが、何も見えなかったのか肩を落としてしまった。
「やっぱり、私……」
「貴方は今まで、訓練などはしてきましたか?」
肩を落としている逢花に魅涼が優しく問いかける。その事に顔を上げ、彼女は首を傾げた。
「え、してきたけど……」
「それは主にどのようなことを目的として?」
「身体能力向上とか、傷を治すためのコントロール方法とか……」
「なるほど。つまり、神力を操る訓練はあまりしてこなかったということですね」
「え。でも、傷を治すためのは……」
「それば微弱で問題はないのですよ。大怪我を治すなら別ですが、おそらく今の貴方では無理でしょう」
魅涼がはっきり口にすると、逢花は気まずそうに顔を俯かせる。翔月は何か言いかけたが、それより先に魅涼が口を開いた。
「おそらく、貴方の場合神力を操ることが出来ない、と、言う訳では無いと思いますよ」
「どういうこと?」
「ただ、周りの人が貴方を戦闘に出さないため、訓練をさせなかった。違いますか?」
その言葉に、逢花はハッとなったかのように弥幸を見た。今の弥幸は魘されている訳ではなく、ただ眠っているように見える。
そんな弥幸を見て、逢花はそのままの体勢で固まってしまった。その様子を見て、魅涼はいつもの柔らかい笑みを浮かべる。
「妹思いの優しい兄……ですね」
「…………うん」
逢花はその言葉に、今まで我慢していた思いが溢れ出すかのように涙が頬を伝い、床へと落ちる。そんな彼女の背中を翔月が優しく撫でてあげた。
「………私には、出来ない……」
魅涼が俯きながらそう言葉をこぼす。その言葉は翔月に届いたらしく、顔を上げ彼を見る。だが、問いかけることはせず、目を閉じ口を噤む。
「ひとまず。貴方は、これから本気で戦闘に出たいですか?」
「………私は……」
いまだ涙を拭いている逢花に、魅涼は問いかける。
「もし、戦闘に出るのであればお手伝い致します。ですが、覚悟は必要ですよ。命を賭けることが出来るのであればの、話です」
「…………そんなの、答えはもう決まってる」
逢花は両目から溢れ出る涙を拭き取り、眉を上げ力強い瞳を魅涼に向けた。
「私、戦う。もう、他人任せなんていやだ。お兄ちゃんにばっかり任せるのなんて、もう嫌だ!!」
そう宣言し、魅涼の返答を待つ。彼は、力の籠った言葉を耳にし、口元に薄く笑みを浮かべた。
「わかりました。では、貴方の強さを引き出すお手伝いをさせていただきます」
胸元に手を置き、魅涼がそう口にする。その言葉に二人は笑顔になり顔を見合わせた。
弥幸が居ない今、ろくに戦闘も行えないこの状況で魅涼の存在はものすごく大きい。
二人が喜んでいると、魅涼はニコニコと笑いながら言葉を繋げた。それにより、逢花は気の抜けた声が口からこぼれてしまう。
「まぁ、最初から拒否権なんて無かったんですけどね」
☆
大広間。そこには今、凛と碧輝が無言のままずっと座っていた。
凛は座布団の上で冷や汗を流しながら星座をしており、碧輝は腕を組み顔を俯かせ、座布団の上で胡座をかいている。
気まずい空気が流れる中、どちらを持ちを開こうとしない。
凛は何度も何度も襖に目を向け、誰か戻っては来てくれないか待ち続けている。そんな凛の様子など気にせず、碧輝はずっと俯いたまま。
膝に置いてある両手に力がこもり、彼女は下唇を噛み耐え続けた。
重苦しい空気が流れなる中、廊下の方から足音が聞こえ始める。
大広間は今、ものすごく静かなため廊下の音をしっかりと聞くことが出来ていた。
「やっと……!」
凛は足音を耳にし、自然と口角を上げ襖へと目を向けた。すると、カタカタと襖が音を鳴らし横へとスライド。そこに立っていたのは、相変わらず優しげな笑みを浮かべている魅涼だった。
「お待たせしました」
「兄貴。なにかわかったのか」
魅涼が帰ってきたことにより、碧輝が顔を上げ彼を見た。
そんな彼の問いに、魅涼は小さく頷き「少しだけ」と伝える。
「原因はわかりました。ですが、解決策がまだ見えてきていない。まぁ、そこは今後なんとかなるでしょう。今のところは死にはしませんから安心してください」
そう口にしながら大部屋へと入る魅涼。その後ろを翔月と逢花が付いてきていた。
「翔月、逢花ちゃん! だいじょっ──」
凛が立ち上がり二人に抱きつこうとした時、ずっと正座していたせいか足が痺れてしまったらしく、浮かした腰がそのまま戻ってしまった。
「し、痺れたぁぁぁああああ!!!」
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