「目覚めることも無いでしょう」
魅涼が弥幸達が眠る部屋へと入った後、廊下では逢花が壁に背を向け待っていた。
俯いており表情を見ることが出来ない。
廊下の奥から、足音が聞こえそちらにゆっくりと目を向ける。すると、そこには翔月が首を傾げながら立っていた。
「あれ、そんなところでどうしたんだ?」
「翔月さん……。いや、ただ待っているだけだよ」
顔を上げ、体を翔月へと向けるといつもの笑みを浮かべ軽い口調で口にする。だが、その笑みが無理に作られていることを彼は一瞬で察することが出来たらしく、眉を顰めた。
「それ、癖なのか?」
「っ、え? 何が?」
本当にわかっていないのか。逢花は首を傾げキョトンとした顔を浮かべる。
その表情を見た翔月は、小さくため息をつき逢花の前に立った。そして、右手を伸ばし彼女の頬に添える。次の瞬間。
「いててててて!!」
「これだよこれ!!」
なぜか翔月は、逢花の頬を引っ張り始めた。
結構痛いらしく、逢花は涙目になり「キブギブ」と言いながら彼の手をぺちぺち叩く。
「まったく……。お前、無理に笑わなくてもいいんだぞ。辛い時は辛い。悲しい時は悲しい。泣きたい時は泣く。まだ、お前はそれが出来る年齢なんだ。今じゃないと出来なくなるぞ」
「それを言うなら翔月さんもそうでしょ。まだまだ高校生なんだから。大人じゃない」
頬を擦りながら、逢花は翔月の言葉に返す。それに対して、「ハハッ」と彼は笑った。
「確かに俺も大人じゃない。だから、無理に笑わないぞ。今は不安で気持ちがいっぱいだ。だが、信じるしかない。お前の兄を、そして、幼なじみである星桜を……」
そう口にする翔月の目は襖へと向けられており、真っ直ぐ注がれている。
不安を感じさせない強い眼差しを目にし、逢花は翔月から目が離せなくなっていた。その視線に気づいたのか、横目で彼女を見下ろし「どうした?」と問いかける。
「な、なんでもない!」
「? そうか」
少しだけ赤く頬を染めた逢花は、誤魔化すように急いで顔を逸らした。
その事が不思議だった翔月は、首を傾げるが深く追求することはせず、再度襖へと顔を向ける。すると、タイミングよく中から襖が開けられ魅涼が難しい顔を浮かべながら出てきた。
「あ、お待たせしてしまいすいません」
パッと直ぐにいつもの笑みになり、魅涼は後ろで襖を閉じる。
「あの、何かわかりましたか?」
逢花は急かすように魅涼に問いかけた。その時にはもう真剣な表情になっており、真っ直ぐ見上げている。
「そうですね。今のままでは死ぬことは無いでしょう」
その言葉に二人は安堵の息を漏らす。だが、次の彼の言葉で顔が凍りつく。
「しかし、目覚めることも無いでしょう。植物状態──と、言うのが一番わかりやすいかなと思います」
「そ、そんな……」
「どうにか出来ないのか?」
顔を真っ青にし、逢花は両手を横に力なく垂らす。翔月も顔を青くするが、冷静になるように深呼吸をし問いかけた。
その問いに魅涼は、腕を組みながらゆっくりと答える。
「まず、今目覚めない理由が胸元にある刻印です」
「刻印?」
「おや? 気づいておられなかったのですか?」
「はい……」
「それは不思議ですね……。あんなにもはっきりと刻まれているというのに」
少し驚き、魅涼は顎に手を当て考え始める。すると、何か分かったのか「あ、なるほど」と口にし逢花へと目を向ける。
「貴方は、仮面がないと妖傀を見ることが出来ないのですか?」
「え、あ、はい。全くでは無いけど。お兄ちゃんみたくはっきり見ることは出来ない……」
「それが見えない原因ですね」
魅涼の言葉に首を傾げる二人。その様子を見て彼は「では、実際に見ていただきましょう」と口にし、襖を再度中へと入る。
その後ろを、不思議に思いながらも二人はついて行った。
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