「強い心を持っています」
住宅地の屋根から羽のようにふわりと降り、三人の前に降りたった。
三人は目の前に現れた人物に驚き、なにも口にすることが出来ない。
「初めまして。私は水泉家の長男、水泉魅涼。こちらが私の弟、水泉碧輝。お便りが届き、急いで来ました。前回の恩を返させていただきますね」
魅涼は優しい笑みを浮かべながら三人へと近付き、目線を合わせるように膝を少しだけ折る。
「ここからは任せてください。これでも、戦闘には慣れておりますよ。あと、慣れない武器を使うのは命を粗末にしているようなもの。しっかりと持ち主に返してあげてくださいね」
微笑みながら逢花へと目線を向け、優しく口にした。
彼女はそのセリフの言葉をすぐに理解できず、見返すのみ。
「兄貴、もうそろそろ」
「そうですか。分かりました」
碧輝が口にするように、動かなかった妖傀が体を起こし始めた。
呻き声を上げ、歯を食いしばりながら前線に立っている碧輝を見る。
「そこまで恨みが強い訳では無いようですね。今回は碧輝一人で大丈夫ですか?」
「問題ない」
「分かりました。では、よろしくお願いいたします」
「あぁ」
短い会話を広げたあと、碧輝は指を鳴らし前へと出る。
「一瞬で終わらせる」
口にすると、碧輝は神力を操り自身の両手と両足に水を纏わせ鋭い爪を生成した。
『じゃばずるなぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!』
攻撃方法は変わらず、四本の腕を広げ斬り裂こうと碧輝へ走る。
「危ない!!!」
凛が叫ぶのと同時に、碧輝は両足を肩幅に広げ、肘を引き右手を後ろへと下げる。そして、目の前まで妖傀が迫ってくると、引いた右手を勢いよく前へと突き出した。
ドゴン!!
大きな音が響き、妖傀の動きが止まる。
碧輝の右手は、妖傀の腹部を貫いていた。
「…………」
何も反応せず、当たり前のように手を引き抜き後ろへと下がった。
支えが無くなった妖傀は、憎しみの表情を浮かべながらうつ伏せに倒れてしまう。
すると、体が淡く光り、妖傀の背中から光の玉が現れ始めた。
「うそっ。あんなに硬い妖傀を一発……」
逢花は今の光景を見て、驚きの声を上げた。それは、ほかの二人も同じらしく、何も口にできていない。
「やれやれ。他にも気配を感じますねぇ。あと、二体……。分かれましょうか」
魅涼は小瓶を広い袖から出し、光を中へと入れ蓋を閉じる。すると、光だったはずの物が綺麗な黒い石へと変化した。
小瓶に貼られていた小さなメモに【壱】と浮き出てくる。
カランという音をならし、小瓶を再度懐に入れる。
周りを見回しながら、魅涼は眉を顰める。碧輝も何かを感じているらしく、鋭い視線を周りへと向けていた。
「兄貴、さすがに急がないと」
「そのようですね。では、東雲町の安全は私達に任せていただけませんか?」
右手を胸元に持っていき、魅涼は紳士的な態度で三人にそう伝える。
翔月と凛は逢花にそっと目を向けた。
「…………水泉家って……。一回、お兄ちゃんが援護に行った所……?」
「えぇ。あの時、赤鬼家にお便りを送って良かったです。おかげで、助かりました。なので、今度は私達が恩を返す番なのです。どうか、信じていただけませんか?」
魅涼の言葉には力が込められており、決意が表されていた。
碧輝の視線も力強く、嘘をついているようには見えない。
逢花は二人を交互に見て、狐面をとった。そして、目を閉じ、眉間に皺を寄せる。
そこから数秒間。沈黙が続く。
「…………」
逢花からの返答があるまで、魅涼達は何も口にしない。すると、彼女はゆっくりと口を開き目を彼と合わせた。
「信じて、いいんですよね……?」
「はい。信じてください。必ず、この町を守りますよ」
その言葉に、逢花は緊張の糸が切れたように安堵し。息を吐いた。
「分かりました。どっちみち、私達では一体を倒すことさえ出来ない。どうすることも出来ないんです」
声が沈み、逢花は顔を俯かせた。その様子を見て、魅涼は優しく微笑み右手を彼女の頭に乗せた。
「そんなことありませんよ。戦場に出ようとするその勇気。それは誰もが持っているものではありません。他人任せにはせず、自分から行動を起こしたことに誇りを持つのです」
優しく逢花の頭を撫でながら、魅涼がそう口にした。その言葉に、勢いよく顔を上げ彼を見上げる。その瞳には涙の膜が張っており、今にも零れてしまいそうになっていた。
「自信を持ちなさい。貴方は、強い心を持っています」
その言葉に、逢花は再度顔を俯かせてしまった。そして、涙声で言葉を口にする。
「お願い、します……。お兄ちゃんが守ってきた、この町を……守って、ください……」
「はい。任せてください」
その言葉と共に魅涼と碧輝は目を合わせ頷き合い、そこから風に連れ去られたように姿を消した。
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