第九十九話 この気温でどこに風邪をひく要素が? むしろ汗をかいてそれが冷える方が怖い気がするぞ
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
十二月に入り冬本番!! と、いいたいところだけど、雪が欠片も降らないし過ごしやすい日が続いている。俺にとっては、だがな……。
元の世界というか、以前にいた場所に比べたらこの世界は本当に快適なくらいだ。車を使ってた時は毎朝フロントガラスの氷を何とかして溶かして、その上十分に暖気しておかないと地獄だったし、酷い時には駐車場が雪に埋没して車が出せなかった。そしてその酷い時は頻繁に起こる。
家の近くまでバスが開通したのでバス通勤に変えたけど、バス停に行くまでも一苦労だったけどな。雪道は進むのも大変だ。
という訳で、今の家での俺の格好は薄着だ。何処にも出かける用事が無い時は、綿パンに薄めの綿シャツで過ごす事も多い。ヴィルナはこの格好をジト目で睨んでくるけど……。
「そんな薄着でソウマは平気なのか? 風邪をひかれると色々困るのじゃ」
「この気温でどこに風邪をひく要素が? むしろ汗をかいてそれが冷える方が怖い気がするぞ」
「見ておるだけで寒くなるのじゃが……。それに、暖房器具のボタンはわらわに管理させるのじゃ。ソウマに任せておると、下手をするとスイッチを切ったりするからの」
魔石で動かしてると最大出力で連続運転させても十年くらい使えるらしいから、別に電気代がかかる訳でも灯油代がかかる訳でもないけど、加湿の魔石は変えないといけないんだよな……。百個くらいアイテムボックスにあるけど。
なんというか、エコ? 環境にやさしいとかそんな感じじゃないけど……。
「この位の寒さでガンガンに暖房効かせるのはどうかと思うんだけどな。逆に暑くないか?」
「この位で丁度いいのじゃ。これだけ温かければ、冬でも厚着せずに済むし動きやすくてよいのじゃぞ。それにしてもソウマは薄着が過ぎるのじゃ!!」
おかげでアイスが美味しいけどな。冬にガンガンに暖房効かせるとか……。
【床暖房を導入されますか?】
しないよ。北国じゃあるまいし、この辺りでそんな物を使う必要はないかな? あの魔石ヒーターだけで十分だぞ。
それと最近特に気になってたんだけど、家の周りになぜか猫っぽい小動物の数が増えた気がするんだよな。餌付けしてる訳じゃないのに。
「あの猫っぽい生き物ってなんだ? 増設した浴室の周りに多い気がするんだけど」
「っぽいといっておるが、アレは猫じゃぞ。知っておっていっておるのではないのか? あの浴室の周りはいつもあたたかいであろう? あ奴らは冬になると暖かい場所に集まる習性があるのじゃ」
「今まで町であまり見かけなかった気がするのに、最近になって急に見るようになったからさ」
「夏の間は逆に日陰の涼しい場所におるようじゃな。北通りの壁沿いの奥に陣取っておったのじゃろう。あの辺りは日当たりが悪いのじゃが、逆にそこが気に入っておるようじゃな」
なるほど。それで寒くなって温かい場所を探してここに辿り着いたわけだ。迷惑極まりないな。
「放置しておいて問題ないのか?」
「鼠などの獣害に悩んでおる穀物の倉庫などでは人気なのじゃぞ。裕福な家などでは猫を飼っておるそうじゃな」
「この家には鼠とか害虫の被害はなかったからな……」
【超強力な殺虫剤で最初に害虫などを駆除したからです。鼠は魔道掃除機の起動音を警戒して寄り付かないようです。また、掃除機稼働時に鼠などが嫌う音を発生させています】
なるほど……、なんか元の世界でも似たような機械の話は聞いた事がある。
流石おかしい機能満載の掃除機。家の掃除だけじゃなくて、鼠とか害虫が嫌う音も出してるのか……。ヴィルナに害があったらアイテムボックスに仕舞い込んでる所だ。
【小動物が嫌悪する音波は低出力です。基本的に人体には無害です】
ヴィルナの場合は人と少し違うからな……。何かあったら対応するしかないか。
あの魔道掃除機も異世界産だから獣人とか亜人に対応位してるだろうけど。
「あ奴らは飼うと恐ろしいのじゃ。ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってきて餌をねだるのじゃぞ」
「心を鋼にしないとあの攻撃には抗えないよな……」
もし仮に手に食べさせていい物を持ってた状況でアレをやられると間違いなく餌あげるよね……。
野生動物にエサをやるのはあまり感心しない行為だけど。
「あ奴らも餌を貰えぬと分かれば何処かで餌をとって、ここには夜に寝に戻るだけじゃろう」
「寝に来るのは確定なんだな……。別に害が無けりゃ追い払う理由にはならないし」
「たまに鳴き声が少しうるさい位かの。それでもグギャ鳥やカラカラ鳥に比べればかわいい物じゃ」
あの鳥か……。グギャグギャいやされない鳴き声してたしな……。
「グギャ鳥も町に来るのか? 森にしかいないと思ってた」
「この町はもともと森のど真ん中の平地じゃし、町中にも割と木が残っておるじゃろう。グギャ鳥はたまに空き地の木に住みついて駆除されておるようじゃな。たまに猫にも捕られておるし」
「この辺りの猫ってあのサイズの鳥でも捕まえるのか? カラカラ鳥という鳥は知らないけど」
「カラカラと迷惑な鳴き声を響かせる鳥じゃな。この辺りでは駆除されたというか、食用にされて数年前からほとんど見かけぬ」
乱獲されるほどおいしかったのか、それとも捕まえやすかったのか……。
鳴き声が迷惑ってのも大きいんだろうけど、狩り尽くすってのは酷い話だ。
「ヴィルナはそのカラカラ鳥を食べた事はあるのか?」
「あるのじゃ、それにカラカラ鳥であれば食べようと思えば食えるのじゃが。イサイジュ辺りではカラカラ鳥を飼育しておるそうじゃしな。卵が主な目的という話じゃが」
「養鶏じゃないけど、卵が割と手に入るのはそういった場所があるからなのか?」
「この町では大山雉やグギャ鳥を飼っておると聞くのじゃ。グギャ鳥はうるさいので鳴かぬように喉を潰すそうじゃが」
「鳴かなくする方法もあるのか……」
そういえば、晩餐会の準備の時もこの辺りだと大山雉やグギャ鳥の卵が手に入るって言ってたな。
そうでもしないと卵の入手がかなり困難だしね。卵も割と高い部類の食材だけど、買えないレベルじゃないし……。
「この辺りの話は、冒険者ギルドで他の冒険者に聞けばわかる事じゃな。ルッツァも割と世間知らずでよくダリアにからかわれておるが」
「外出してる時に冒険者ギルドに行ったりもしてたのか」
「緊急依頼ではないのじゃが、色々と情報は仕入れておかねばならぬじゃろう? 緊急時にはソウマに直接頼みに来るとは言え、ここ最近は冒険者ギルドに顔を出してもおらぬようじゃが」
「そういえばここ一月ばかりは行ってないな。最後に行ったのは聖域の構築の時か?」
基本的にあそこには仕事が無いし、用事があるといえば例の冒険者の装備改善計画だけか。あれも任せっぱなしになってるけど、どうなってるんだろうな?
「ルッツァ達も防具を新調しておったのじゃ。切り株ヤスデの強化種の殻などを冒険者ギルドに提供したじゃろう?」
「ああ、何か防具の材料になるとか言ってたしな」
「アレでかなり強力な鎧が出来たそうなのじゃ。あれだけ強力な装備があれば、この辺りの獣など楽勝であろう」
切り株ヤスデの殻を砕いて特殊な溶液で溶かして固めるとか言ってたな。
なんでも金属より軽くて、その上衝撃にも斬撃にも強いとか。元が強化種というか変異した魔物の物だから、普通の切り株ヤスデの素材より頑丈な物ができるとか言ってたな。
「その鎧って、安く売りだされてた?」
「あれもソウマの差し金であろう? 武器も防具も格安で揃ったと冒険者どもは喜んでおったのじゃ。今は半数以上の冒険者が例の剣猪討伐で活動しておるから、この町の冒険者ギルドにはあまり冒険者がおらぬがな」
「例の計画が始まってたのか。そういえば、最近露店で売られてる肉が安くなった気はしたな」
「食料もそうじゃし、例の魔物の被害者用の住居なども完成しておるのじゃ。その問題の解決に、ちと力を貸し過ぎじゃと思うのじゃが」
確かに、俺はこの男爵領の領主じゃないし、あそこまで手を貸す必要はなかったかもしれないけど、出しても痛くない程度の金と素材の提供。食糧だって、有り余ってる訳だしさ……。
市場を壊さないように使うのが難しいだけで、その問題がクリアされるんだったら多少放出する位問題ないぜ。
「この町が平和になる為の投資だ。別にそこまで金を使ったわけでも、異世界産の超兵器を渡した訳でもない。でも、この調子だとあの魔物の被害からは立ち直れるだろうけど、問題はもう少し先まで続きそうだな。とりあえず穀倉地帯の再建が確実な状況になるまで気は抜けない」
「あの聖域を壊されぬ限り大丈夫じゃろう。アレを破壊するのは難しいと思うのじゃが」
「例の魔物クラスだけか。悪意を持った誰かが破壊しようと思ったらできるのか?」
「一度力を発現した聖域を破壊するには、それなりに強力な魔法が必要なのじゃ。並の人間には不可能じゃな。あの魔物クラスであれば無理やり破壊する事も可能じゃが」
そういう物なのか。
そう簡単に破壊できないんだったら一安心だな。
「あの穀倉地帯の浄化が完成したら、今度は畑の準備か。それが終わればこの辺りの再建というか、あの魔物被害の影響はかなり回復するだろうな」
「このまま何事も無ければよいのじゃがな。少なくとも春まではおとなしくしておいて欲しいのじゃ」
「そこまで外に出たくないのか……。無理強いはしないけど、出なきゃいけない時は出かけるからな」
「その時はあの乗り物がいいのじゃ」
「遠かったらな」
冒険者ギルドとかの近場だったら、絶対に歩いていくからね……。そこまで甘やかさないぞ。
何事もなく春になるのが一番いいんだけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。いろいろと助かっています。