第九十七話 前回は確か中華風で、それ以外はいつも洋風ばかりだけどいいよね?
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楽しんでいただければ幸いです。
おやつを出した後で俺は晩飯の仕込みに入ったけど、意外な事にスティーブン達とヴィルナが普通に話してるので驚いた。
どうやら聖魔族の事なんかを聞いているらしいが、他の汚染地区に向かわせられる聖魔族がいないか知りたいんだろうな。
「やっぱり他の聖魔族の情報はもってないのか」
「元々聖域のある結界から出る事の無い種族じゃからな。わらわはこの世界にどの位聖魔族がいるのかすら知らぬのじゃ」
「あの事件といいますか、南の森の聖魔族が壊滅した時の話を調べたのですが……、どうやら偶然ではないみたいなんです」
「どういうことなのじゃ?」
「世界中の聖域というか、この国周辺の聖魔族が例の魔物に襲われているらしい。目的は不明だがな……」
俺はアイテムボックスがあるから別に問題ないんだけど、飯が出来た後で運びやすいようにキッチンと居間は近い。
料理を作る間に話が漏れて聞こえてくるんだけど、割と気になる話をしてるじゃないか……。
「あの竜が世界中の聖魔族を襲っておるのか?」
「いや、別らしいが似たような姿をしてるって話だな。俺も王都に戻ってから調べさせて驚いてるんだが、十年くらい前から聖域を破壊する魔物が何匹かみつかっているみたいだ」
「我々が調べた限りで当時から確認されている魔物の数は五匹。あの南の森の聖域を襲った竜は、そのまま南下して南にあった他の聖域を破壊したそうですが、その後消息不明です」
「五匹のうちの一部は既にいただがいまだに討伐されてねえ魔物もいるのさ…。例の黒龍種アスタロトもそのうちの一匹らしいぞ。十年より前に存在していた魔物も二匹いる。黒龍種アスタロトと結晶竜ヒルデガルトって魔物らしいが、どちらも名前だけで正体がわからねえ」
この世界の黒龍種アスタロトも劇場版に出てきたあの姿のなのかな? 角の生えた悪魔っぽい姿だよな?
結晶竜ヒルデガルトってのは初耳だな。ライジングブレイブシリーズには少なくとも出てきてない筈。
「残りの三匹はどうしたのじゃ?」
「他の三匹のうち二匹はライガの奴が倒したみたいだな。討伐されていない最後の一匹は、さっきも話したこの町の南の森に潜んでいるあの竜だ。ライガの奴は黒龍種アスタロトってのを追っているらしい」
「ここ数ヶ月、この国で暴れている魔物は西の国と北の荒れ地から流れてきたそうですが、そのあたりでも相当な被害が出ているそうです」
「今の所は活動してねえが、またいつ活動を再開するかわかったもんじゃねえな。お前のおかげでこの国の穀倉地帯は無事だったが、西の国の穀倉地帯はほぼ壊滅状態だ。あそこは国ごと滅ぶ可能性も高い」
聖域を作れなかったのがでかいのか? それとも、出た犠牲者の数の問題なのかはわからない。
でも、国がひとつ潰れるって相当な事だぞ。
【気を抜き過ぎますと、料理が焦げる可能性があります】
おおっと、あく抜きが終わって煮込んでるだけとはいえ、確かに鍋から目を離すのは良くないな。
今日のメインは牛肉の赤ワイン煮。冷蔵庫にワインや野菜と一緒に一晩漬けこんだ後で煮込む料理なんだけど、見た目的にはビーフシチューと少しだけ違って盛り付けた後はほぼ肉だけになる。
ビーフシチューも同じような見た目の物はあるけど、俺が今まで出してきたのはシチューが多めの物だから……。
「もう一つのメインは調合で終わらせてるし、何とか時間通りに晩飯にできそうだな」
冒険者家業をメインにしてると、そのうち本気で調合機能だけで晩飯を作る状況になってた気がする。
冒険者で討伐任務した後にこの手のメニューは流石に厳しいしな。主に時間的に。
◇◇◇
「前回は確か中華風で、それ以外はいつも洋風ばかりだけどいいよね?」
「洋風? 確かに王都辺りでそういって出される料理で見かけそうなメニューだが、お前が作ると味が段違いだしな。気にする事は無いと思うぜ」
「こちらは煮込んだ肉ですね。このお皿の料理は何ですか?」
「マカロニグラタンですね。マカロニ自体はこの町でも食べられるみたいだけど、乳製品が無いからグラタンはありませんしね」
「確かにな。やはり牛の導入を急がせないとダメだな」
そう仕向けるように何度も牛肉出したり乳製品で攻めてるんだけどね。
穀倉地帯の再建と同時に始めればいろいろ助かりそうだし。
「そういえば気になってたんだけど、あの広大な穀倉地帯をどうやって耕してるんだ?」
「基本は人力だな。さっき貰った牛の活用法を参考にするから今度からは牛や馬を使いそうだが、その農具も今作らせているところだ」
「魔道具でいろいろ作れればいいんだけどな。しばらくは牛や馬に頑張って貰うしかないか」
【先日購入した小惑星の鉱石などを利用して、魔導式牽引車の製造も可能です】
それを今この世界の人間に売るのはどうかと思うよ。
便利な技術ってのは、段階的に導入しないと酷い事になりそうだしな。とりあえず今は牛に使う農機具で十分だよ。
「そうですね。これがグラタンですか……。上に乗っているのはチーズですね」
「パンにもライスにも合いますよ。とりあえず今日はパンにしましたが」
「このパンもうまいよな。バターロールだったか?」
「食べやすく切られているバゲットもおいしいですよ。これだけおいしいパンもクライドさんの作るパンだけですね」
多分小麦の質が違うんだろうな。
改良に改良を重ねた小麦の中で基本的にパンに適した物だけを使ってるし。パスタとかうどん用とかはまた別の小麦を使うから……。まてよ、俺が売った小麦ってそのレベルだよね?
「……そういえば、例の小麦。かなり質がいいと思うんだけど、来年になって去年の小麦の方がよかったとか言われないだろうな?」
「質次第で貴族の連中が言い始める可能性はあるな。その場合はまた売って貰う事になるだろう」
「その時は貴族分ですから、そこまでの量にはならないでしょう。一般用には新しく収穫された小麦を売ればいいですし」
「正直、そこまで舌の肥えておる者などいないのじゃ。ソウマのご飯に慣れると、流石にもう露店などでは食おうと思わぬが」
「あ~。それはあるだろうな。王都でこいつの料理を再現させたんだが、まともなレベルの料理は数える位しか出てこなかった。うちの料理人が凹むレベルでな」
「今も王都で頑張ってると思いますよ。材料が無い物は仕方ありませんが、再現可能な物はいくつもありましたし」
デザート系の場合は鶏卵やバター、チーズ、牛乳などの乳製品が必要だし、料理に関しては醤油をはじめとする調味料がかなり無い。再現するうえでそれが無いってのはかなりでかいと思うぞ。
「この肉も旨いな……。煮込んであるだけなのに、この味はやっぱりただ事じゃないぜ」
「使ってあるワインも凄いです。これほどの物を惜しげもなく使う人なんてクライドさんだけですよ? こうして出されているワインもそうですが」
「このワインを飲み慣れると、流石に外で飲むワインは本当に水のようなものなのじゃ。風呂上がりに飲んだ時でも物足りない程じゃしな」
「飲みやすいワインを選んでるけど、そこまで高いワインは出してないぞ」
ファクトリーサービスで作り始めたワインはまだ熟成期間が短すぎて出せないんだよな。プラントでワイン用のブドウを栽培収穫させてそれをワインに加工するのも時間がかかったみたいだし、一番古いのでも向こうの時間でまだ二年位?
他の酒類ですぐに出せるのは日本酒と焼酎位か? それもあまり熟成させないタイプ限定。
だから今飲んでるのは基本的に寿買で買ったワインだ。当然転売禁止だから仮に売ってくれと言われても売れない。流石にワンコインクラスの安酒は買わないけど、何万もするワインを買ってる訳じゃないぞ。
「俺も大概だが、お前の金銭感覚も相当な物だからな。普通の奴なら目を回しそうな金額を小銭みたいに扱えるレベルだと自覚しとけよ」
「そうですね。スティーブン様もそろそろ自覚して欲しい位ですが」
「デカいブーメランだったな。ちょっと金銭感覚が狂ってるって事は理解してるよ。割と慎ましい生活をしてるだろ?」
「この状況で慎ましいとか、何処の世界の辞書に載ってる単語だ? ああ、この町にゃ図書館が無かったな」
いや、ほら、我慢してテレビもビデオ類も一切置いてないしさ、そこまで贅沢はしてなかったんだけどな。……図書館といえば、そういえばそこも問題か。
穀倉地帯の再建にひと段落着いたら、学校とか図書館とかそのあたりの話を持ち掛けてみる?
「そうじゃな。家に風呂が付いておって、ここまで暖房が効いておる状況などあり得ぬ話じゃぞ。ソウマが以前どんな暮らしをしておったのかは知らぬが、この家の中はかなり異常な状況じゃ」
「そうですね。クライドさんのような方が住まわれている屋敷としては小さめですが、貴族以外でこのクラスの家に住んでる方はいないと思いますよ? 商会の役員クラスでも地方都市位ですかね?」
「色々状況が揃ったら、俺の本気を見せてやるよ。今でも食事に関してはそこそこ気を使ってるけど」
「これでそこそこか……。俺も割と慎ましい生活だったんだな」
「そうですね。この基準ですと、贅沢ってのは爵位持ちの貴族位ですか? 王族限定って可能性もありますが」
「そういえばお前は以前、とんでもない服で商人ギルドに押しかけていったそうだが、何処かの王族って事じゃないんだよな?」
あの時のスーツか……。その情報もパルミラ経由なんだろうな。
「違う違う、俺は普通の一般人だって」
「お前の言う一般人は当てにならない。ライガの野郎もそうだった」
「あの人は風来坊だけど……。もしかして、飯を食わせてくれの後に続いた言葉がとんでもだった?」
「牛丼だのプリンだの、何処で売ってるんだって物ばかりだったな。普通の飯でも文句言わずに食ってはいたが」
設定や作中の描写だと、あの人って割と庶民舌の筈なんだけどな。
高級なカスタードプリンより、あの有名な皿に落とすプリンの方が好きだし。フランス料理とかより焼き鳥とか焼きそば選ぶ人だ。それでもこの世界だと高級品なんだよな。焼きそばにしたってそもそもソースとか鰹節が無い。
「そのうちあいたいけどな。最後はデザートのチーズケーキだ。シンプルだけどおいしいぞ」
「ふわっふわのプルプルなのじゃ。これはこれで凄いのじゃ」
「こんな物をポンと出せる奴にあれこれ言っても無駄か……」
「そうですね。このチーズケーキも凄いです……」
このチーズケーキは調合製だけどね、流石にここまでふわふわプルプルにチーズケーキを焼き上げる技術は俺にはない。俺は凄腕のパティシエじゃないからな。
お土産にフロランタンとかマドレーヌが合計ニ十個詰まった焼き菓子セットももたせてやったし、米飴の件の迷惑位はかけてもいいだろう。
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