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第九十五話 二ヶ月近く前からこうなるのが分かってて、放置してる貴族が一番問題な気がするんだけどな

連続投稿中。

楽しんでいただければ幸いです。



 風呂の増築からさらに七日経過して十一月末になった。相変わらずのぽかぽか陽気で、これで冬なのかと首を傾げたくなるんだけど、町を歩く人は割と厚着になっているのでこの辺りの人は寒さに弱いのかもしれないな。


 そしてこの時期になってようやく、以前から懸念されていた問題が表面化し始めた。


 というか、こうなる事は事前に分かっていたのだが、問題の表面化が遅れたのは幾つもの原因が存在する。主に貴族のメンツとかめんどくさい類の奴っぽいけどね。


「食糧不足が表面化し始めたというか王都以外の都市……、穀倉地帯を持ってない貴族の領地で食料品の値上がりがはじまっちまってな」


「二ヶ月近く前からこうなるのが分かってて、放置してる貴族が一番問題な気がするんだけどな」


 王都からスティーブンがまたこの町にやってきたんだけど、どうやら今回は向こうで発生した問題解決のために動いているらしい。というか、こういった会議の開催場所が毎回俺の家なのはどうよ?


 別にいいけどさ、それで今回の件は王都ではなくその周辺都市が今回の問題発生源だそうだ。


「いや、俺の方でも何度か話を持ち掛けたし、カロンドロにも話を持って行くように仕向けたんだけどな」


「そのすべてを無視されたといいますか、このカロンドロ男爵領が最近王都で話題になっているのが気に入らないらしいみたいでして」


「ちゃちなプライドというか、そんなモノの為に領民に苦労かけるとか、いい根性してるよな」


「いや、貴族って奴はそのそんなモノにすべてをかけてる部分があるからな。でなけりゃ、お前の菓子ひとつであんな馬鹿げた騒ぎにゃなっちゃいないよ」


 商人ギルドに卸しているマドレーヌは主に王都で販売しているらしいが、わざわざ地方都市から高速馬車を走らせて王都でマドレーヌを買い漁っている貴族もいるそうだ。


 で、あの一万箱あった在庫がわずかひと月足らずで殆ど完売。金貨を抱えた王都の商人ギルド職員が高速馬車でアツキサトに押しかけてきたのが先日の話で、その時に事の詳細をその職員から聞いたんだけど……。


「マドレーヌを王都で買った公爵や侯爵といったクラスの貴族が晩餐会で自慢、それが周りの地方都市にいる伯爵家にまで広がって大混乱といった事らしいな。調子に乗って紛い物を売った奴が百人単位で処刑されてるありさまだ。この国の輸送用高速馬車の殆どが、今この町に集められてるって話だが馬鹿げてるぜ。この件に関しては都合もいいんだが」


「例の小麦の不足分ですが、この夏に小麦を買われた貴族の方は問題ないそうです。いつも余った小麦を安く入手しようと考えていた、比較的資金力のない貴族の方が対象でして……」


「今年はその余るはずだった小麦が売りに出されなくて泡を食ってる訳か。そんなに泡を食うのが好きなら、エールブクにする大麦でも食わせてりゃいいんだよ」


 そのまま食料にしてもいいだろうし、ビールにしても好きなだけ泡を食えるだろうけどな。エールブクって泡が凄いし。


「風呂あがりに飲むエールブクじゃあるまいし、そう冷たい事を言うなって。奴らの領地にはその大麦も無いんだ。先代の国王から運悪く荒れ地や山岳地帯を押し付けられた貴族も多くてな、普段は鉱山の開発なんかで稼いでるんだが」


「今年は落盤事故等が発生し、その上幾つかの貴族領では魔物も発生しましたので……」


「金がない所に、更に金が必要な状況が発生したって事か」


「こうならないように普段から真面目に領地経営をしてりゃいいんだけどな。残念ながらそんな人材がそこらへんに転がってる訳もねえし、あまり有能すぎると今度は領地を乗っ取られたりしちまうって訳だ」


「それこそ領主の器の見せ所だろう。高禄で召し抱えるか、満足する地位を与えれば……」


 戦時下だったらまだしも、平和な時に優秀な文官なんて仕官してこないものなのかな?


「お前、そっくりそのままそのセリフを返してやるが、カロンドロがお前を召し抱えたいって言ってきたらその話を受けるか?」


「断るな。……ああ、そういう事か」


「そういう事だ。才能ある奴は王都に流れてそっちに仕官するし、貧乏な辺境の文官で人生終えようなんて物好きなんてそうはいないのさ。才能のある奴は特にな」


「それでもカロンドロ男爵は恵まれている方なのですよ。領内にクライドさんの様な人もいますし、穀倉地帯や塩田を抱えていますので」


「そこは理解した。話は戻すけど、どの位の量の麦が必要なんだ?」


 この世界の馬車がどの位一度に運べるのか知らないけど、運搬するのも一苦労だぞ。


 馬車一台で仮に一トン運べるとしても五万トンで五万台必要だし、麦を運び終わる前に雪でも降り始めたら全部終わるよ?


「必要量は割と少ない。不足している貴族領には元々人口も少ないし、麦だけを食ってる訳じゃないからな」


「必要な量は八千トンほどです。ただ……卸値が問題でして」


「キロ二十五シェルじゃないのか?」


「最終的に店で売られる価格はその値段だが、卸値はその五分の一、キロ五シェルだ。現地まで運べば十シェルで売れると思うが」


「輸送料でかなり儲けが減るって訳か。その値段だと近くの貴族領で買おうとしても無理だろう?」


「無理だな。足元みられて最低十五シェルってところだ。ここから運ぶよりは近いし、輸送料があまりかからないってのも大きいんだが」


 やっぱり輸送量が多いから運賃が問題なんだろうな。


 値段を吊り上げると今度はそれを買う人間、最終的にはその領に住む人が困るって訳だ。


「値段は納得したし、スティーブンに任せていいんだったらその量の麦を用意するよ。でも、輸送とかは大丈夫なのか?」


「そこは毎年の事だからな。奴らの用意した馬車がこの町に来てるんだ」


「値段を下げてくださいと頭を下げられず、麦の値段が落ちるのを待っていたそうです。一部の馬車は例のお菓子を王都に運んで収入を得てたそうですが」


「変なプライドというか、その変な意地のせいで自分の領地の人間にしわ寄せが行ったら意味がないだろうに」


「貴族って奴らは頭を下げると格が下がると思ってる奴も多いからな。たまにやり過ぎて反乱起こされて滅びる奴もいるぜ」


 自業自得にもほどがある。


 しかし、どの世界にもそんな奴はいるんだな。


「馬車の数も凄いんだろ?」


「まあ多いといえば多いぞ。貴族や国が穀物なんかの運搬に使う馬車には魔道具製の特殊な荷車を使っているからな。聞いて驚け、何と一台に五十トンまで積める」


「過積載もいい所の話だな。それ荷車の大きさはどの位なんだ?」


「普通の荷車の約二倍程度ですね。穀物の収納方法や取り出し方法が特殊ですが」


 普通の荷車の二倍って、一般的なトラックのコンテナより小さいよな。それで五十トン? どんなオーバーテクノロジーだよ……。やっぱり異世界ってこういった所が凄いよな。


「馬も高速馬車と同じ馬だし、当然魔道具で強化されてる。アイテムボックスの技術を魔道具で再現してるらしいんだが割と維持費がかかるんで、アレを持ってるのは貴族か王族ぐらいだな。大昔の戦争の時に重宝したらしいが、真っ先に狙われるから今は使われてない」


「そりゃあな……、というか、たぶん戦争の為に作り出されたんだろ」


「その通りです。どうしてご存じなのですか?」


 いや、戦時中って予算たくさん貰えるからね。それに緊急時の方が異常な技術が生まれやすい。


 ある程度理屈が通れば突拍子もない事を試したりできるし、時には実験で絶対やらないような事に手を出したりもするだろうしな……。


「おかしなものが出てくる時は、大抵戦争中だからな。後で民間で利用される技術も多い」


「そういわれてみりゃ最近は平和なんで、あまりそういった発明は聞かねえな。お前が出して来るモノ以外はな」


「丁度いい物を色々知ってるだけさ。それでもこの辺りの技術の方が凄い事も多いぞ」


「そりゃ色々あるからな……」


「先ほどの小麦取引の契約書が出来ました。サインをお願いします」


「分かりました……。ホントいつも書類作るの早いですよね」


 俺はホントにこの手の作業が嫌いだからな。……小細工なんてしてこないのが分かってるから安心して読めるよ。


「四千万シェルの取引だぞ。顔色一つ変えずにサインしやがって……。本当に怖い奴だ」


「国家予算とかになるとこんな規模じゃないんだろ? 貴族領とは言え、食料調達にはこの位出すだろうし」


「あの貴族領ですと、輸送費まで考えるとギリギリといった所ですね。税収の少ない貴族領はどこも破綻寸前ですので」


「そういえば辺境に飛ばされた奴で成功したのはカロンドロ男爵位って話だったな」


 これだけでかい穀倉地帯に塩田、それに四方に広大な森林と揃ってりゃ楽勝だろう。


 この状態までするのに相当苦労したのは間違いないんだろうけど。


「碌に鉱石も出て来ねえクズ山に囲まれた僻地に飛ばされてみろ、最悪、掘った坑道を改造して町にする奴までいるんだぞ」


「それはよくある光景じゃないのか? 割と聞く話だけど」


「魔素が溜まってダンジョン化する事もあるし、ねぐらにしようと魔物が寄ってくることもある。あまりいい環境じゃねえんだとよ」


 そっちの問題か。確かにその辺はこの世界ならではの問題だろう。


「魔物が寄ってくるのは困るな。それを利用する奴もいるのかもしれないが」


「こいつ、一瞬でそこに気が付きやがった。確かにそれを利用する馬鹿がいる。洞窟の奥に怪しい祭壇を作って魔石を投げ込んだり……。主に敵国の国力を落とす目的らしいが。逆に魔物から取れる素材で敵国が強くなるケースもあるそうだ。そんな理由もあって今はそんな手の込んだマネする奴はいねえな」


「ここ最近現れてる魔物。あれはその類じゃないのか?」


「流石にあそこまで強力な魔物を召喚できる奴はいない。いたら世界はとっくにそいつの物だろうぜ」


 でも、何処かにいるはずなんだよな。黒龍種アスタロトを呼び出した馬鹿が。


 いまだにこの世界が滅んでないところをみると制御に失敗してるのか、それとも使いこなせてないのかは知らないけど。




読んでいただきましてありがとうございます。

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