第九十四話 日本の冬の定番鍋料理だ!! 今日は水炊きにしてみたんだけどどうかな?
連続投稿中。今回は食事回です。
楽しんでいただければ幸いです。
ヴィルナが寒い寒い言いまくるので、今晩のご飯は鍋にしてみた。
地鶏の骨付き肉とか手羽元の入った水炊きなんだけど、出汁は地鶏のミンチでとってある。ヴィルナがたくさん食べる事を想定して既に軟らかく煮た鶏肉を大量に別の鍋にもストックしている用意周到ぶりだ。
テーブルの上に用意したひと口魔導コンロで加熱しつつ、熱々のまま食べられるので寒い日にはちょうどいい。鍋だけだと寂しいから、鶏のから揚げとローストビーフ、それに今日は小鯵の唐揚げなんかも用意してみた。野菜はたっぷりと鍋でとれるから肉メニューが多めだぞ。
「日本の冬の定番鍋料理だ!! 今日は水炊きにしてみたんだけどどうかな?」
「たくさん料理があるのは嬉しいのじゃが、鍋はひとつしかないみたいなんじゃが?」
「鍋料理はみんなで食べる料理だからな。いつだったか白うさぎ亭で食べた鳥の煮込みもそういった料理なんだろ?」
「そういえばそうじゃな。こうして目の前に鍋がひとつしかないので驚いただけじゃ」
「ヴィルナだとこれを一人で食べそうだもんな。具材が減った時用の予備も大量にあるぞ。これがヴィルナ用のお椀だよ」
お椀というより殆どドンブリだけどね。鍋の方も小さい鍋じゃなくて、八人くらいが食べる為のかなり大きめの鍋だ。
この鍋を作る前に一回米を煮て目止めをしてるぞ。調理器具って割と最初の一回目にしないといけない事が多いよな。鉄鍋にしてもスキレットにしても結構面倒だし。
イチョウ切りにした大根とか食べやすいサイズに切った白菜も大量に用意したし、葛切りとか鳥のつみれなんかもある。今日は鳥が中心だから魚とか他の肉はないけどね。
ヴィルナのお椀に肉を中心に色々よそってみる……。今までの経験からこの中には食べられない物は入ってない筈だ。
「ありがとうなのじゃ。この鶏肉は骨付きなんじゃな」
「骨はこっちの皿に出してね。骨付き肉だと良い出汁が出るんだよ」
「確かに凄く美味しいのじゃ。……ちと味が薄い気がするのじゃが」
「小皿の中にこの辺りの調味料で味付けしてもおいしいぞ。味ぽんにごまだれに柚子胡椒、それに七味唐辛子だ」
他にもいろいろ用意して机の上に並べてある。今回が初めてだし色々試してもらうのもいいしな。
「このゴマダレを入れると美味しい気がするのじゃが、これに他の物を混ぜるのは良くないのか?」
「取り皿をもうひとつ別に用意するよ。色々試してみるのもいいと思うし」
「そうじゃな。いろいろな食べ方があるのであれば、試してみたいのじゃ」
「この七味とか辛いのもあるから気を付けてな。あ、梅ダレは俺の分しか用意してないからこっちに置いてあるぞ。確か苦手だったよな?」
「あの酸っぱいのはまだ苦手なのじゃ。ソウマはちゃんと苦手な物はわかってくれるからうれしいのじゃ」
食べたくない物を強要するのは良くない。自分の食べるものと他人の食べるものに口出ししないといけないのは、本気で命の危険がある時だけでいい。
「寒い時にはこうして鍋を囲むのもいいもんだね。ヴィルナは鍋だけでいいのか? 流石にパンはあわないかなと思って出してないけど……。ご飯も別に用意したんだけど食べるんだったら皿に盛るよ」
「パンでも問題ないのじゃがな。鳥の煮込みの時とそこまで変わらぬであろう」
「そういえばそうか。バゲットでいいか?」
「大丈夫なのじゃ。このスープはパンにもよく合うのじゃ!!」
割とその感覚が分からなかったりする。鍋料理にパンは割とない気がするしな。いわないけど……。
鍋の時には〆の時以外にはご飯も食べない人もいるって話だし、白ご飯の代わりに鍋の中に餅を入れたりするって話も聞くんだけど、この辺りは本当にその家庭それぞれだろうな。
「野菜もおいしいのじゃが、中に見た事も無い物が割とあるのじゃ。それにこのきのこ類は大丈夫なんじゃろうか?」
「きくらげとか? エリンギとか舞茸とかキノコ類もわりと入れてるね」
「茸の類は危険な物も多いのじゃが、これだけのキノコを扱えるのも凄い事なのじゃぞ」
「毒の強い茸も多いからな。ここに入ってるのは全部食用だから問題ないぞ。俺が元いた世界でも食べられていた茸だし」
割と茸食べて中毒起こす事件があるからね。しかも割と危ないキノコも多いし。
アイテムボックスの鑑定で食用かどうかわかるけど、この世界のキノコはあまり食べる事は無い気がする。店で売ってる茸でも調理法が分からないし……。今度この辺りで売られてる食材の食べ方を聞いてもいいかもしれないな。
「食感は良いし、美味しいキノコも多いの。昔キノコを食べようとして何度か怒られた事があったのでな」
「茸の場合、見た目が似てても危険な物が割とあるしね。よっぽど詳しくないと食べたりするのは危険だと思うぞ」
「母様も同じことを言ったのじゃ。解毒魔法があるといっても、危険なのは変わらぬと言われたしの」
「魔法も万能じゃないんだろうしな。茸はともかく他の具はどうだ? この葛切りとかも面白いと思うんだけど」
「プルプルとした食感は楽しいがそれだけじゃな。こっちの鳥団子は美味しいのじゃ」
おろしたショウガとかも入ってるしな。身体がポッカポカに温まっていいぞ。
このデカい鍋の具が見る間に減っていくから、アイテムボックスに保管しておいた追加の鶏肉とかを鍋に投入する。野菜類は端の方のスペースでゆっくり煮ればいいんだけど、肉の消費速度が半端ないからな。作ったものを残されたりされると悲しいし、こうして思いっきり食べて貰えた方が作り甲斐はある。
さて、追加投入分も含めて割と食べたし、そろそろヴィルナの食欲も落ちてきた頃か。
「鍋を雑炊にしようと思うけどいいかな?」
「この鍋を雑炊にするのか?」
「鍋は最後に雑炊にしたり、うどんを入れたりいろんな〆方があるんだけどね。今日は雑炊にしてみようと思うんだ」
「この鍋分の雑炊ができるのであれば問題ないのじゃ」
俺は既に雑炊を茶碗一杯分くらい食べたら十分だけどね。
少し出汁と鶏肉を足してひと煮立ちしたらご飯ととき卵を入れて……、蓋をしてすこし待つ。
待ってる間にヴィルナはローストビーフとかを食べてるな。ホントに凄い食欲だ。
「ここに少し刻んだネギをちらして完成!! 〆の鶏雑炊だ!!」
「おおっ、確かにおいしそうなのじゃ」
「俺はこのくらいでいいから、後はヴィルナが食べてくれ」
「わかったのじゃ♪」
鍋の〆の雑炊はやっぱりおいしいな。うどんもいいけど、俺はどっちかというと〆は雑炊派なんだよな。
大きな鍋一杯に作られた雑炊を、スプーン片手にどんどん平らげていくヴィルナ。
用意していた他のおかずもなくなったし、体の芯から温まる晩飯になったな。寒い日はこれに限る。
◇◇◇
「この家の風呂なのじゃ。遠慮する事は無いじゃろう」
「いや、そうなんだけどね。ここは男湯と女湯が分かれてる訳じゃないし」
「貴族の屋敷や大豪邸でもあるまいし、家の風呂が二つに分かれておったら驚きじゃ。いまさらわらわとソウマが風呂に入る位問題ないじゃろう」
まあ確かにそうなんだけどな。
今日は増築とはいえ我が家の初風呂だし、ゆっくりつかろうと思っていろいろ用意してたんだよ。お盆に乗った日本酒とか。
「今日は湯船に浸かってゆったり気分だったから、酒とか用意したんだけど」
「わらわも付き合うのじゃ」
まあいいか……。
一緒に家に住んでるんだし、戸締りさえしてれば問題ないだろう。
という訳でヴィルナの髪を洗ったり、肩までちゃんと浸かろうって話したり、いろんな事があった風呂になった。これ、アヒルのおもちゃとかあげたら湯船に浮かべ始めるパターン?
こうして何とか風呂問題は片付いたけど、まだまだ問題は山積みだな……。
読んでいただきましてありがとうございます。