第九十二話 これで寒いのか? 外気温は昼間でこの辺りだと下手すると二十度超えるよな?
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楽しんでいただければ幸いです。
聖域の構築が終わってはや二週間。
今は十一月半ばで、少しずつ冬らしくなる。という話だった。そう、寒くなるって話だったよね?
「これで寒いのか? この辺りの外気温は昼間だと下手すると二十度超えるよな?」
「あの吹き抜ける風の音を聞くだけで寒くなるのじゃ。ほれ、窓越しに見える者の服装が物語っておるのじゃ」
「今までよりはちょっと厚着になってるな。割と脱いだ上着を小脇に抱えてるけど」
これだけ日差しがきつかったら暑いだろうしな。
この辺りの気候って十一月でこれか? 確か今年は寒いって言ってたよな。このレベルで寒いのか?
「驚くがいいのじゃ。なんと朝になっておると桶の水に氷が張る事もあるのじゃ!!」
「冬になると普通の光景だな。というか、その口調だともしかして毎朝は凍らないって事か?」
「どんな地獄なのじゃ!! そのような極寒の地に人が住める訳なかろう」
「王都とかここより北らしいけど、もっと寒いんじゃないのか? この辺って割と南の方だよな?」
「知らぬのじゃ。ここより寒いなど、考えたくもないのじゃ」
あ、ヴィルナってこたつ出したら絶対にこたつむりになるタイプだぞ。普段もどことな~く猫っぽい所があると思ったけど、こたつで丸くなるタイプだな。
「冒険者の仕事は休んでもいいけど、緊急依頼が来たら行くからな」
「ルッツァ達に任せればいいのじゃ。ソウマが出るような魔物であれば、初めからソウマ宛に依頼が来るのじゃ」
「そりゃそうだろうけど、今まで冬の間はどうしてたんだ? 町にはいなかったんだよな?」
「わらわが住処にしておった洞窟の奥には、地熱で温かい場所があったのじゃ。結界を張ってそこで春まで寝ておったのじゃよ」
結界って、聖域の簡易版みたいなものか? というか、もしかしてヴィルナって冬眠もできる?
「食事とかはどうしてたんだ?」
「アイテムボックス内に果物や岩胡桃などを貯めこんでいたのじゃ。割と広い洞窟でな、わらわひとりが住むには十分すぎる広さじゃったな」
それ、やっぱり小さめのダンジョンとか遺跡じゃないのか?
普通の洞窟はそこまで大きくもないだろうし、そこまで快適でもないだろう。
「冬眠する熊じゃあるまいし、俺たちは冬の間もキッチリ活動するぞ」
「余程の事が無い限りわらわは家から出んのじゃ。この最新型魔石ファンヒーターとやらがわらわを寒さから守ってくれるのじゃ」
「風呂はどうするんだ? この家にはついてないぞ」
「……大き目の桶に湯を入れて、それで身体を拭くのじゃ。そもそも普通の家はそうするのが当たり前なのじゃが」
風呂代わりに清拭で済ませてる訳か。確かに経済的だろうし、家族が多いと風呂代も馬鹿にならないだろうしな。
「朝夕に行こうとは言わないから、昼間に風呂に行けばいいだろ? 日中はそこまで寒くないだろうし、この間のカイロもある」
「湯冷めしそうなのじゃ。無理をしていく必要は無いのじゃが」
「仕方がない。ホームサウナか何かでも買うか……。寒くなる前にいろいろ考えなきゃいけないな」
「流石はソウマなのじゃ!! 寒さに弱いわらわの事を分かってくれたのじゃ」
いざとなったら嫌がってるヴィルナを風呂に連れていくつもりだけどな。
【増改築用の簡易浴室を取り扱っています】
そこまでヴィルナを甘やかせるのはどうなのかなって思うんだよな。アレをした日は風呂に入りたいし、そうでなくても俺は出来るだけ毎日風呂に入りたい。
壁壊して風呂増築してもいいんだけど、いろいろ問題があるしな……。借家ってのが最大の問題だ。
【この家には庭がありますし、そこに増築用の浴室を作るのが一番です。少し段差ができますが、浄化水槽機能付きで階段を数段上がるだけです】
えっと……値段は五百万か……。最近は平気でこのクラスの商品を薦めてくるよな? 確かにそれを買うのが一番いいけど、あのヴィルナが少しとはいえ外を歩くか?
大衆浴場に行くよりはましだけど……。考えても埒があかない、仕方ない聞いてくるか。
「ちょっと出かけてくる。どこまで改築していいか聞いてくるから少しかかるぞ」
「分かったのじゃ。わらわは何処にも行かぬので安心するといいのじゃ」
「寒いのはホントに苦手なんだな」
というか、今日は割と暖かいレベルだぞ?
日差しはキツイけど風が気持ちいいレベルだし、上着なんて必要ない位だ。
「増改築の相談は商人ギルドか。一応仲介人だし、あそこの借家管理してるの商人ギルドの筈だしな」
◇◇◇
「あの借家ですか? もうとっくにクライドさんの持ち家になってますけど」
商人ギルドで担当してくれたのは、こういった借家などの建築物関係を担当しているモレナという女性職員。他の職員と違って俺への対応がやや冷たいのが特徴? というかこの商人ギルドでこんな態度の職員はこの人だけだ。
こんな態度をとられる心当たりはあるっちゃある。モレナは運悪くビーフシチューを食べられなかった職員の一人で、いまだにその事を根に持っているっぽい。代わりにバタークッキーあげたのにな……。
「初耳なんですが。いつからですか?」
「カロンドロ男爵の晩餐会に呼ばれた頃からですね」
殆ど初日からじゃねえか!! この町に永住するつもりはあまりなかったから借家にしたのに、男爵とかは流石に俺がこの町を離れてどこかに行くのを阻止したかった訳だ。
あれ? でも、以前名前を書いた契約書にはちゃんと借家になってたよな?
「説明されてませんよね?」
「毎月家賃の請求が無いのはおかしいと思いませんでしたか? あと、周りの土地も結構広めに譲渡されていますよ。この辺りまでそうですし」
「ちょっと確認……。家の周りの空き地全部? というか結構広い範囲に庭って書かれてるんですけど」
あんな庭は要らんよ? 雑草だらけだし植物の手入れだって大変だ。家庭菜園の真似事だってそんな規模じゃないの運営してるし。
【プラントを追加しますか?】
もう十分すぎる規模で農地があるだろ!! 更に農地増やして他に何を育てろって言うんだよ?
【プラントの他に、鉱山などの購入も可能です。異世界に存在する無人小惑星の開発権を購入できます】
鉄とかの入手ができるって事か……。その話は後で詳しくな。
「私有地として登録されていますので、自由に使われて問題ありませんよ。クライドさんの屋敷という事でしたら、この数倍の規模でもおかしくありませんが」
「あまり広くても持て余しますから」
とりあえず、外壁の一部を壊して浴室の追加だな。
勝手口から浴室に繋がる通路を作ろうと思ったけど、その方が早そうだし。
【簡単増築プラン! 手間いらずのスペシャルセットがお薦めです】
増築用の浴室だけじゃなくてそういった商品もあると思ったけど、その辺の詳しい話は家に帰ってからな。
「住民税も免除にされていますし、扱いとしては準貴族っぽい感じですね。申請すればおそらく領地くらいは割譲して貰えますよ? 近くに管理されてない荒れ地も結構ありますから」
「領地は必要ないですね」
広大な農地も工場もすでにあるしな。領地経営なんて面倒ごとが増えるだけだ。
「ホントにクライドさんって欲が無いですよね……」
「欲が無い訳じゃないんですけどね」
必要な物は殆ど揃ってるだけだよ。欲の皮を突っ張らせると、その先に破滅が待ってる事くらい理解してるから。
「この町でクライドさんに苦情を入れる人はいないと思いますし、好きなように改築していいと思います。申請なんかも必要ありませんので」
「分かりました。お手数をおかけしましたね」
「仕事ですので」
さてと、こうなってくると改築自体に問題はない。むしろ問題はいつの間にか俺が準貴族扱いされてる事だな。
とりあえず家に帰ったら浴室を増築するとして、その後でいろいろしないといけない気はする……。
俺は貴族になったつもりも、この町に永住するって決めた訳でもないからな。
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