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第九十一話 それで、売り上げが落ちたという話ではないんですね?

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 久しぶりの商人ギルド。今日も俺一人での仕事になるけど、いつもと違ってヴィルナの方も単独で冒険者ギルドに報告に行っている。


 報告位は二人が揃っていく必要が無いってヴィルナが言うし、俺の冒険者カードも持たせたからあの魔物の報告もできると思うし、それでもいいんだけど。


 こんな状況だし商人ギルドからの呼び出しだったので、今後の取引量が減るって話だと思えば……。


「それで、売り上げが落ちたという話ではないんですね?」


「王都の貴族たちは魔物が暴れていた事など知らないみたいですな。王都の城壁は五重ですし、最終防衛ラインである最後の城壁まで敵が迫ったことなどありませんから」


「五重って、そこまでする必要があるんですか?」


「いえ、王都を広げた時に前の城壁をそのまま残したからだと聞いておりますよ。それどころか、一番古い城壁すら定期的に強化しているそうですね」


 王都の連中ってどれだけ敵抱えてんだよ。


 そういえばカロンドロ男爵も辺境に飛ばされてここにいるんだっけ? 他にも大勢いるって言ってたし、この国の王って割と暗君なのか? 税金は安いし割といい王様な気がするんだけどな。


「そこまで防御を固めるって事は、戦争とか多いんですか?」


「ここ百年はありませんな。小競り合いは何度かありますが」


「それなのにそこまで防御を固めるんですか?」


「災害やそれこそ魔物の被害を防ぐためでしょう。魔道砲と呼ばれる最終兵器もあるそうですよ」


 魔導砲って、なんだそれ……。


 なんだか、そこにも異世界人が関わってる気がするな。


「そのおかげで王都に関しては今まで通りに贅沢品が売れまくってる訳ですね」


「そうなんですよ。あのクッキーも相変わらず売れているのですが、マドレーヌの方が飛ぶように売れていまして。それ自体はうれしい悲鳴なのですが、売れすぎているのが大問題なんですよ」


「飛ぶように売れて問題が発生ですか?」


「あまりに品薄な為に、貴族が囲っている料理人に再現させようとしたそうですが思ったようなものは作れず、粗悪な模造品が横行したそうです。バタークッキーの方は何とか我慢ができるレベルなんだそうですが」


 作るのが難しい菓子じゃないけど、いろいろ必要な物は多いしな。


 今まで砂糖が高価な事もあって、そこまで試作してこなかったのも大きいんだろう。時間をかけたら同じレベルの物を作れるんだろうけど。


「粗悪な模造品はどうなったんですか?」


「そこそこ売れたそうですが、結果的に本物の価値を上げるだけだったそうです。晩餐会やお茶会で本物のマドレーヌを出すだけで立場的に優位にたてるとあって、王都の商人ギルドには連日問い合わせが来ているそうなんですよ」


「それも凄いですね。それで、今回はどのくらい必要なんですか?」


「最低五千箱。できれば一万箱欲しいのですが」


 一万箱って。合計一千万シェル? 十億円?


 いや、どれだけ売るつもりだよ?


「用意できますが、本当に大丈夫ですか? 置く場所も問題ですが」


「倉庫の一角を開けています。塩も売れているのですが、今はマドレーヌの方が需要が高いのですよ。大貴族の晩餐会ですと、それこそ百人近く呼ぶこともあるそうで、そうなると一人ひとつずつでも最低五箱必要です。ひとつだけというのも問題がありますので、結果的に二十箱くらい使いますので……」


「王都に送っている量だとあっという間ですね……」


「嬉しい悲鳴ですが、つい最近は例の魔物の出現で街道が封鎖されていましたので、王都の商人ギルドからも要求が届かなかったのですが」


「一応通行可能なくらいには復旧したから、即座に要求が来たと?」


「その通りです。それも可能な限り迅速にという事で、今日納品されれば即座に馬車への積み込みが始まります」


 ……王都の貴族って凄いな。


 値段的に言えば銀貨食ってるようなものなのに、そんなにバクバク食えるのか? ああ、見栄って部分も大きいか。


「前回と同じ箱で出しますけど、倉庫に積んでも大丈夫ですか?」


「はい。受領後に積みなおしますので」


「では……」


 倉庫がマドレーヌが詰まった木箱に占領されていく。というか、さっきの話が本当だったらこの量でもあっという間な気がする。晩餐会一回でニ十箱使われたら一万箱でも五百回分。お土産とかで幾つか持たせたら、それこそあっという間に消えそうだな。王都に売るといっても周辺の地方都市からも買いに来るんだろうし。


「大型の木箱が百、これで一万箱です。確認しますか?」


「いえ、今までに一度たりともそんなことはありませんでしたし、問題ありませんよ」


「これを確認するのもひと仕事ですしね。ひと箱多い分はおまけですよ」


「すいません。おまけ分も馬鹿にならない額の筈ですがいいんですか?」


「木箱ひとつで百箱ですしね。このくらいでしたら問題はありませんよ」


 とはいえこのデカい木箱ひとつで十万シェル、一千万円だからな。原価が安いとはいえ、これ一つでひと財産だろう。


「そう言えるのは、このアツキサトでもクライドさんだけですよ……。こちらが一千万シェル、大金貨で十枚です」


「大金貨はやはり大きいですね。こう、持つとずっしり来る感じですね」


「商人ギルドもおかげさまで大金貨を扱えるようになりましたからね。ここまで取り扱える額が大きくなるとは一年前ですと考えられませんでしたよ」


「王都の商人ギルド本部並みの待遇でしたっけ? もしかして雇って欲しいって人が増えたりしました?」


「他の都市からの転属希望が凄い数です。しかもギルマスクラスやベテラン勢ばかりが……」


 そりゃあ、出世するんだったらここの方が将来有望だろうしな。


 ギルマスクラスだと、ここで実績出せば王都勤務になれるかもしれないんだろうし、地方よりは王都の方が格上だろうからね。この世界だとそのあたりがどうかは知らないけど。


「そういえば、ダニエラさんはどうしたんですか? 姿が見えませんが?」


「ギルマスは王都勤務が決まりました、役員待遇だそうで。今回の高速馬車に乗ってそのまま王都へ転属だそうです」


「凄い出世なんですか?」


「ほぼ前例のない大出世ですね。今は家族と一緒に引っ越しの準備をしているところです」


 大栄転だな、あれだけ実績積み重ねたら、こんなに短期間で王都からお呼びがかかったりするのか。


「次のギルマスは誰なんですか?」


「一応私という事になっていますね。私も異例の出世で、まさかこんなに早くギルマスになるとは思ってもいませんでしたよ」


「おめでとうございます」


「クライドさんのおかげですよ。そういった経緯もあって、転属希望が多い訳ですが」


「そりゃ、みんなここに来たがりますね」


 ここの商人ギルドは売り上げが馬鹿みたいに高いから多分給料も多いんだろう。


 王都の本部にも回してるんだろうけど、稼ぎが他の商人ギルドなんて話にならないレベルだろうしな。 


「年明けから春にかけての良い商品がありましたらお願いします」


「日持ちしそうな商品をいくつか考えておきますね」


「ありがとうございます」


 正月とか春向けのお菓子か……。


 いつもの茶色一色じゃなくて、華やかなお菓子がいいかもしれないな。


 しかし、商人ギルドは平常運転だな。他も復興御特需が始まってるから、そこまで大きな混乱もなく復興できたりするのか? 失われた命は戻らないけど、生きてる人は先を目指さないといけないしな。




読んでいただきましてありがとうございます。

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