第九十話 この辺りだけ? 禍々しい魔素の流れとかとは別にしてか?
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楽しんでいただければ幸いです。
「この辺りの汚染が何故かひどいのじゃ。あの魔物が出現した原因はこれであろうが……。いや、それにしては……」
「この辺りだけ? 禍々しい魔素の流れとかとは別にしてか?」
「別じゃな。しかしおかしいのじゃ、この森やその周囲の魔素ではこの辺りで魔物が生まれる筈が無いのじゃが……。禍々しいというよりはむしろ聖域に近い物を感じるのじゃ」
「もしかして、他に原因がある? まだ時間もあるし、少しこの森を調べてみるか?」
「そうじゃな。その方がいいじゃろう」
外的要因が何かあったのか。それとも、意図的にそれを引き起こす誰かがいたか。その痕跡が見つかればいいんだけど。
「食われなかった小動物の木像が結構落ちてるな。いくつか拾って帰って調べて貰った方がいいかも」
「それもそうじゃな。森の奥に向かうにつれ、食い残しが増えておるな」
「あの魔物に変化して、まだ力を制御できなかったって事? となるとこの辺りが怪しいのか?」
あの姿になる前にどの位の力を持ってたか知らないけどあれだけの力を手にしたんだ、色々影響は出てる筈なんだよな。
「変わったものがあるのじゃ。傷薬の瓶か何かか?」
「何かあったのか? これって、……魔怪種用強化ボトル!! まさか」
「これが何か知っておるのか?」
「設定では存在してたけど、実際に作中に出なかったアイテムの一つさ。魔怪種の能力を限界を超えて引き出す危険なアイテムって事だった筈」
前の年に流行った別作品とデザインや効果含めてモロ被りだったから商品化されなかったし、作中だと別のアイテムに差し替えられたんだよな。
でも、なんでこれがこの世界に?
「それから禍々しい何かを感じるのじゃ。おそらくそれに禍々しき魔素が詰められておったのじゃろう」
「だろうな。問題はなんでこれが存在するかなんだよな。実際には作られなかったはずだし、存在しないから他の世界から紛れ込んできた可能性もない筈」
もしかして、これが作中で使われて、販売された世界も存在した?
いや、開発されて運用された世界があったのか? 俺の知らないブレイブシリーズの世界。そしてそれがあの魔怪種ナメギラスであり、ナイトメアゴートであり、さっきの魔物だった? この世界の魔物が変質した可能性も高いけど。
「倒すのが早かったためか、この辺りにはまだ禍々しき魔素が満ちておらぬ。この辺りに聖域を作る必要はないじゃろう。先ほどの魔素であれば、どこかに聖域を作れば一緒に浄化されるじゃろう」
「それじゃあ、車に戻って一旦昼食、それから聖域を作る場所を探すか」
「そうじゃな。聖域を作るにも力を使うし、その方がいいじゃろう」
聖域を作る事には昼を回ると思ってたし、車で食べる為にいろいろ用意してきたからな。
ただ、お弁当形式だとヴィルナが食べにくいと思ったから、サンドイッチとかハンバーガーなんだけどね。
「このハンバーガーは美味しいのじゃ!! 懐かしいホットドックもあるのじゃよ!!」
「最初に食べさせたのがホットドックだったよな。今回はちゃんと作ったものだから少し違うけど」
「どれもおいしいのじゃ!! ここじゃと食べにくいのが難点じゃがな」
【車外で食べたらいいんじゃないですかね? ほら、こんなにいい天気ですぜ旦那。降水確率はゼロですし】
こぼれ落ちるパンクズがそこまで気になるか? ヴィルナは割と凄い事になってるけど……。
【ちょちょちょっ!! せめて彼女のスカートの上に落ちたパンクズは車外に!! あああああっ!! 足元に!! マットの上にパンクズがっ!! ほら、周りの小鳥も食べたがってますよ】
この状況で外に出たら、鳥にパンを持って行かれるよな?
もうすぐ冬だからあまり食べ物が無いのかもしれないが、だからといってこいつらにパンを食わせる気はないぞ。
【タイムセール!! 野鳥の餌が三十キロ入りの袋で大サービス!!】
……そういえば、最初に脳内とリンクさせたらいろいろ響くって言ってたな。
車とかのナビと同調するとこんな感じになるのか……。
「ソウマは食べぬのか?」
「いや、食べるよ。なんとなくピクニック気分だよね。外で食べるとどうなるか予測できるからここで食べるけど」
「鳥も腹を空かせておるじゃろうしの。一生懸命に窓をつついておる、こ奴らには悪いと思うのじゃが」
【ピクニック気分を味わうのであれば、車外がお勧めですぜ旦那。車外の気温は十五度もありますし。動物と触れ合うって素敵じゃありませんか?】
風が吹いてるから十分寒いだろ?
俺はそのくらい平気だけど、ヴィルナが寒がるから却下だ。
【車外でも快適!! 使い捨てカイロから暖房器具まで大特価!!】
この連係プレイが酷過ぎる……。大丈夫、俺はスルーが出来る男だ。
……でも、使い捨てカイロは買っておくかな。使い捨てじゃないカイロの方がいいんだけど……。
【使い捨てよりも魔石型携帯カイロが断然お得!! 魔石ひとつで一年は使用可能】
値段はひとつ十万円か……。ホントに最近は高い商品を薦めてくるな。でも、この値段だったら買うのが正解か。とりあえず予備含めて五つ購入。
【サービスで火傷防止のカイロ入れをお付けしておきます】
ありがたい。とりあえずヴィルナの分だけセットしておくか。ああ、外では食べないからな。
【後で洗車と車内清掃をお願いします……】
その位は了解。アイテムボックス任せだけどね。
「ごちそうさまじゃったのじゃ。魔素の流れじゃが、もう少し北寄りの様じゃな」
「了解。しかし、これだけ広大な穀倉地帯なのにその一ヶ所でいいなんて凄い」
「普通はその一ヶ所の聖域すらないのじゃがな。聖域を作れる聖魔族やハイエルフの数にも限りがあるし、そもそも滅多な事では聖域から出たりせぬからな」
ヴィルナの場合は割と特殊なケースって訳か。
そうなると、新しく聖域を作る事なんてほとんどないんだろうな。ん? まてよ。
「聖域ってだれかが管理しなくてもいいのか? 誰も管理してないと悪用されたりしない?」
「普通の人間は聖域に近付こうとせぬし、水晶の樹は悪用できぬ。基本管理は無用じゃが、ハイエルフや故郷を失った聖魔族が住みつく可能性はあるやも知れぬ」
「安心した。それだったら作って放置で問題ないのか」
「問題ないのじゃ。この辺りに作るとするならば、あの小さな森じゃな。湖や川からほど近いああいった場所も魔素の流れを浄化しやすくて聖域にしやすいのじゃ」
なるほどな……。
もしかして魔素の流れって龍脈とか地脈とか呼ばれてる場所の事かな?
「魔物の気配は少ないが、見張りを頼むのじゃ」
「さっきの事もあるからな。一応武装しておくよ。あ、それとこれはカイロ。小さいけど割と温かいぞ」
「流石はソウマなのじゃ!! この心遣いがたまらぬのじゃ♪」
スキップしそうな勢いで歩いて行ったな。あ、カイロに頬擦りしてる……。
俺の方はといえば、さっきの戦闘で使用したエネルギーが少なかったのか、すぐに再変身する事も可能だ。
ただ、その時はまる一日変身できなくなるだろうけど。
「頼むのじゃ。問題は無いと思うのじゃがな」
「念の為さ」
縄が今までより広域に張り巡らされ、白砂も大量に消費したようだ。今までよりはるかに長い時間舞が続き、無事に聖域の構築は終わった。これでこの穀倉地帯全域の浄化は進んでいくらしい。
「それで、この全域を浄化するのにどのくらいかかりそうなんだ?」
「最低でも年を越すじゃろうな。春の小麦を植える頃にはこの穀倉地帯全域が浄化されておるじゃろう」
「凄いな。あの聖域って今までの聖域と少し感じが違うんだけど」
「あの短剣を二本とも使ったのじゃ。あと、水晶の樹の実も四ヶ所植えておる。そうでなければこの広大な穀倉地帯全体を浄化などできぬのじゃ」
四本買っててよかったけど、全部使ったし赤字になる気はする。
今後、この領内の食糧事情を考えたら仕方ないんだけど、ヴィルナの実入りが減るのが困るんだよね。俺の方は商人ギルドでの稼ぎもあるからな。
「これで完了報告していいのか?」
「問題ないのじゃ。聖域を壊すとなればあの魔物クラスの力が必要じゃし、その場合は理解されるであろう」
「さっきみたいに魔物が出現する可能性もあるけどな」
「裏で誰かが暗躍しておるのは間違いないであろう。先ほどの瓶も提供すれば、冒険者ギルドの方でも情報を流すじゃろうて」
目撃情報が集まれば、真犯人も見つけやすくなるか。
さて、問題はそいつに勝てるかどうかだな……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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