第八十九話 あれだけの事に耐えられる奴がどの位いるのか知らないけどな。むしろ一日で回復した事に驚いてほしい位だ
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
一日の完全休養明け。気力体力も充実して実にさわやかな気分だ。
ヴィルナは既に元気いっぱいというか、昨日穀倉地帯に向かっても良さそうな感じだったけど流石に俺の体力が持たないと判断した。ヴィルナは回復したかもしれないけど、俺の方はヘロヘロだっつーの。
【超強力栄養ドリンクのレシピを表示しますか?】
昨日、頭に浮かんだこの文字がどれだけありがたかった事か……。というか、栄養ドリンク以外で食事でも亜鉛がいいらしいから昨日の昼飯はカキフライをはじめとした牡蠣料理にしたんだけどね。
「今日は大丈夫なようじゃな。まったくあれしきの事で……」
「あれだけの事に耐えられる奴がどの位いるのか知らないけどな。むしろ一日で回復した事に驚いてほしい位だ」
世の中にはいるんだろうが、俺はそこまで無限の体力がある訳じゃない。最近はそこそこ身体が昔並みに鍛えられてると思うんだけどな。
「そのおかげで今日は穀倉地帯に向かえる訳じゃしな。元々の依頼期限は今年中じゃし、後三ヶ月もあるから楽勝なのじゃ」
「普通の場所とかだとその位期限くれなきゃ無理だからだろ。期限が仮にひと月だったら、穀倉地帯と往復するだけでかなりヤバいし」
「普通じゃと高速馬車を手配してもらわねば無理じゃな。ソウマがあのクルマという乗り物を用意してくれたおかげじゃが」
「車……と言っていいのかどうかが微妙な感じだけどね。タイヤが無いしな……」
【分類上は車になります。変形して飛行形態を持つ飛空石製神力エンジン内蔵型魔導車も用意できますが】
それ、ひょっとして合体して巨大ロボットのコックピットになったりしない?
【オプションで巨大ロボットを購入していただければ……】
却下!! あの魔導車ってヤツも相当怪しかったけど、それは絶対にヤバいメカだろ?
なんだかたま~にとんでも兵器を薦めてくるんだよな。そんな物騒な物の在庫が余ってるの? ……平和になったら兵器は余るか。返事は無い、どうやらスルーされたようだな。
「タイヤとは車輪の事か? なくても動くのであれば問題ないじゃろう」
「そうなんだけどね。それじゃあ、穀倉地帯に向かうぞ」
「了解なのじゃ」
この魔導車はほぼフルオートというか、本気で衝突予測とかが優秀過ぎて怖い位なんだよな。
予測というより、ほとんど予知って感じな気はする。飛び出してくる動物なんかはもちろん、突然木の陰とかから飛んでくる鳥とか大き目の虫なんかも避けてるし……。
【大気などの状態や、生体センサーなどで進路上にある程度の大きさの生物がいた場合は衝突を回避します】
ある程度?
【車体に傷がつかないレベルで……。小さめの虫はバリアシステムで弾き飛ばしております】
あ、こいつそれが最優先の気がする。確かに重要ではあるけど、アイテムボックスに仕舞うごとに修復機能で新車同然に整備してるのにな。
確かに傷だらけの車とかは嫌だけどね。特にこんなスポーツカータイプは。
【あなたは理解あるオーナーです】
「ソウマもクッキーを食べぬか?」
「ありがとう。普通の車と違ってこういった面はいいよな。手放しでも安心だし」
【ノォォォォォォォッ!! 理解あるオーナーが車内でクッキーを? 欠片ッ!! クッキーの細かい欠片がぁぁぁっ!!】
後で綺麗に掃除されるからいいだろ。……キャンピングカータイプを買い直した方がいいのか?
【クッキーくらい大した事ありませんぜ旦那。あとで掃除さえしてくれれば大丈夫ですぜ】
この魔導車の人工知能ってほんとに人間臭いというか、人間みたいな反応だな。親しみがあっていいけど。アイテムボックスの能力経由なのかやっぱり音声は俺にしか聞こえてないっぽいんだけどね。
「もう半分以上進んでおるのではないか? これならば昼前には穀倉地帯に付きそうなのじゃ」
「そうは言うけど、穀倉地帯って広いだろ? 穀倉地帯の東の端には余裕で着くだろうけど、作る聖域は何処かにひとつで十分なのか?」
「穀倉地帯に禍々しき魔素が流れ込まぬように、聖域を作る必要はあるのじゃ。あの辺りの穀倉地帯であれば元々魔素はそこまで濃くはないし、何処かに大きめの聖域を作れば十分じゃろう」
なるほど、禍々しい魔素が濃かったら作物なんて作れないのか。それはこの世界ならではの問題だな。
魔法とかがある世界だと同じなのかもしれないけど。
「余裕で昼前には穀倉地帯に着きそうだな。風景を楽しむ余裕はないけどね」
「この様な速さで走る物があるのは驚きなのじゃ」
俺の記憶でも舗装もされてない道をこんな速さで走る車なんてないしな。
馬車が走るからそこそこ整備はされてるけど、やっぱり予算の関係なのかそこまで綺麗に舗装なんてされてないんだよね。アツキサト方面は雨が少ないってのあるのかもしれないけど。
「本当に昼前に穀倉地帯に着いたのじゃ。……この辺りではないようなのじゃ、もう少し西に向かうほかなかろう」
「例の禍々しい魔素の流れって奴か。この辺りもかなり汚染はされているのか?」
「そうじゃな。この辺りの作物であれば食べても問題ないじゃろうが、おそらく刈り入れをする人間もおらんのじゃろう。近くの村にも人の気配すらないしの」
「これだけ広いとそれも問題なのか……。食べても大丈夫な麦と、禍々しい魔素に汚染された麦の見分けもつきにくいだろうしな」
区画とかで収穫しても平気な麦を分けても、ヴィルナみたいにそれが分かる人間がいないと無理だろうし。間違ってヤバい麦を収穫する奴も出てきそうだしね。
「……おかしいのじゃ。異常に濃い魔素を感じるのじゃが」
「もしかして西の国で女性誘拐してた奴が来てるのか? 倒せれば問題解決なんだろけど」
「禍々しい気ではあるのじゃが、あの喋る魔物とは別じゃな。どちらかといえば、塩食いに近い感じかの」
この辺りの魔素の影響で魔物化したなにか?
なんにしてもあのクラスの魔物って事だったら、被害が出る前に倒さないとまずいな。
「ヴィルナ、正確な位置は分かるか?」
「この先じゃな……。アレで間違いないと思うのじゃが」
「元の魔物は何だ? なんとなくムカデっぽい……、いや、ヤスデの方か」
「切り株ヤスデが魔素を取り込んだようじゃな。元々のあ奴は丸まって地面に横たわっておるのじゃが、その姿が切り株に見えるのでそう言われておるらしいのじゃ」
「強いのか?」
「基本放置されるほど無害で価値の低い魔物なのじゃ。主に腐った木や腐葉土を食べるだけじゃしな」
無害じゃん。大きくなったけど倒さないで良さそう?
ん? 確かに食ってるのは木なんだけど、あいつの足下に歪な形の木が転がってるな。
「……いや。やっぱりここで倒さないとダメっぽいな。生木まで食ってるし、あれ」
「鳥の形をしておるな……。やはりそういう力を持つようじゃ」
「口から吐いてる毒で生き物を木に変えるみたいだ。射程外から倒すべきなんだろう」
ライジングブレイクで倒すとあれだけ周りに木がある状態だと森林火災が起きかねない。
となると、変身せずにシャイニングスラッシュモドキか銃で攻撃するかなんだけど……。
「変身せずに倒せるかな?」
「あのような魔物は初めてなのじゃ。持てる最大の力で倒すのが得策なんじゃが……」
「副作用があるけど、我慢できない程じゃないぞ。問題があるとすれば再変身の時間だけだ」
前回は再変身までの時間が半日程度で済んだ。
アルティメットクラッシュさえ使わなければ、そこまでエネルギーを消費しない筈。
「あの魔物は元々体が硬い上に魔法の抵抗力もすさまじいのじゃ。おそらくいつも使っておる武器ではまともに攻撃が通じぬじゃろう」
「疑問に思ってた事を聞いてもいいかな? 魔法に対する抵抗力が高いと、俺がいつも使ってる武器だと威力が落ちるのか?」
「あの武器が使っておるのはおそらく氣じゃろう。魔力が高い相手や魔法抵抗力の高い魔物にはおそらく通じぬ。竜との戦いの時にも話したと思うのじゃが」
「あの時は石とかで防御されるって事だったけど。そもそも通用しないのか」
「空間を抉る攻撃も魔法で防がれる可能性はあるのじゃ。なぜだかは知らぬが、あの武器は魔法を無効化する様な相手に特化しておる気はするのじゃ」
この世界だとそこそこ威力はあるし、剣猪とか普通の魔物には通用してるけど、そのままだときついって事か。
ナイトメアゴートの時は変身してたしな。
「変身せずにライジングブレイクを叩き込むのが一番か。もう少し近付かないといけないけど」
「それがいいかもしれぬ。わらわがもう少し早く聖域を作っておれば……」
「俺が一日伸ばしたのもあるしな……。やっぱりここは確実に変身して倒すよ」
森林火災とか起こしてもまずいしな。一応念の為にヴィルナからは距離をとる。
「セットブレス」
【セット、鞍井門颯真。アクセス。セットアップ完了】
敵が近くにいる為なのか、今回は変身用防護フィールドが展開された。
離れててよかった、危ない危ない。ヴィルナを吹っ飛ばすところだ。
「究極の勇気は此処に!! ブレイブ!!」
【アルティメットブレイブ。ベーシス!!】
「おお、あの時の姿になったのじゃ。おかしな結界のような物を展開しておったようじゃが」
「あの魔物がいるからだろうな。さて、あいつがどの位強いかだけど……」
ベーシスモードだから使える必殺技は限られる。
使いやすいのはやっぱりアレかな?
「アルティメットリッパー」
技名を叫びながら両手を左右に伸ばすと、その先に三日月型の光の刃が六枚生成される。音声認識システムだからこうするしかないんだよな。
テレビでは見慣れた光景だったけど、実はこの技も割と使われてない。一枚は首を切り落としてもう一枚で首を細切れにする。残りは身体を縦に切り裂かせるしかないか。
「いけ!!」
「おおっ、魔物がああも簡単に細切れになるとは……。なかなか倒せぬ蟲型の魔物がああもあっさり退治できるとは、やはり恐ろしい力じゃな」
「やっぱりこうなるよね。威力が高すぎるから牽制技としてもあまり使われなかったんだよな」
おもちゃとかも売る必要があるし、追加武装の方が活躍するよね。
「あの魔物も焼いたほうがいいと思うのじゃが……。少なくともこの辺りにはない方がいいのじゃ」
「一旦アイテムボックスに収納して、燃え移らない場所で焼くか……。冒険者ギルドに引き渡すって手もある」
「あれだけ細かく刻めば加工もできぬかもしれぬがな」
「廃品処理みたいで気が引けるけどね」
買取して貰わなくてもいいから、冒険者ギルドに引き渡すか。
あれでも鎧とかの材料になるかもしれないし……。
ちょっと想定外の遭遇があったけど、少し後始末をして聖域を作る場所を探すかな。
早くしないと他の場所でも魔物が出現するかもしれないしな……。
読んでいただきましてありがとうございます。