第八十八話 大丈夫さ。このメニューはそこまで手間がかかってないし、暇な時に作り置きしてるから
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楽しんでいただければ幸いです。
さて、家に帰っての昼ごはんタ~イム♪
メインの一つである鶏のクリーム煮は既に調合で作ってある。反則だと思ったけど、帰る時間を利用して一品できるってのは大きい。
二品目は油淋鶏。既に鳥を揚げた状態で保管してるから、切ってネギソースをかけるだけで完成だ。パンに挟んで食べてもおいしいから割と好き。
バターロールとハーフバケット、それにプレーンのオムレツと温野菜のサラダを用意して完成。スープが無いけど鶏のクリーム煮がスープ替わりでもいいと思うんだけどどうだろう? ほぼクリームシチューみたいな感じにしたし。
「おおっ、本当に鳥料理なのじゃ。わらわが料理が出来ぬのでいつもすまぬとおもっておるのじゃが」
「大丈夫さ。このメニューはそこまで手間がかかってないし、暇な時に作り置きしてるから」
「アイテムボックスはそういった時に便利なのじゃ。食料の保存ができるという事は生存率が上がる訳で、冒険者などからも重宝されるのじゃよ」
「料理を作るのにはホントに便利だよな。熟成が必要な物は冷蔵庫を使うしかないけど」
「あの冷たい大きな箱じゃな。寒くなってくるとあれにはあまり近付きたくないのじゃ」
そこまで寒いのが苦手か?
……ここが自宅だったら改築してこたつとか出すところなんだけどな。
【超強力!! 最新型魔石ファンヒーターが超特価!! 他にも設置が超簡単なエアコンもご用意】
エアコンは流石に借家だからな……。壁に穴をあける訳にもいかないし。
とりあえず最新型魔石ファンヒーターとやらを買って様子を見るか? 台数は……五台いるよな。
「後で暖房器具を渡すよ。部屋に置いて使うといい」
「おおっ、流石はソウマなのじゃ!! ……パンとこの鶏のクリーム煮をおかわりしたいのじゃが」
「大丈夫だぞ。……これでいいか?」
「ありがとうなのじゃ。流石に今日は二ヶ所も聖域を作ったのでな。少々力を使い過ぎたのじゃ」
……ん? 力を使い過ぎた? そしてこの食欲……。
「晩御飯はもっと豪華なメニューにするからたくさん食べてくれ。鰻や牛肉なんかの料理をたくさん用意するぞ」
「それは楽しみじゃがどうしたのじゃ?」
「昼もデザートに甘い物があるからな。疲れた時には甘い物がいいんだ」
「そういう事か。そこまで疲れてはおらぬが心配してくれるのはうれしいのじゃ」
いや、今の姿で最初の頃のような絞られ方なんてしたら明日は俺が動けねえっての。
俺の魔力がどんどん上がるのって、ヴィルナが吸い上げてるからなんじゃないのか? 消費して回復させてる訳じゃないけど、同じような効果があるのかもしれないし。
「甘い物はクリームパイだ。パイ生地にちょっと甘めのババロアとクリームがこれでもかってくらい盛り付けられたデザート。季節感はあまりないけど、果物もトッピングしてあるぞ」
「こ……、これは凄いのじゃ。このババロアという物はプリンの様ではあるが確かに別物なのじゃ。そこにクリームと果物と……、最高なのじゃが!!」
「日持ちしないからな。ここでしか食べられないデザートさ。気に入ってくれたんだったらいくつか渡しておくから、おやつとかで食べるといいよ」
「このデザート以上にソウマは甘々なのじゃ♪」
いや、沢山食べて魔力とか色々回復させてもらわないとさ、俺の身体がヤバいんだよ。
ヴィルナの事は好きだけどさ、モノには何でも限度があるんだから……。俺の体力とか。
◇◇◇
「最新型魔石ファンヒーター!!」
「おお、それが言っておった暖房器具か? 暖炉の様に薪などを使用せぬのじゃな」
「どっちかというと形は石油ファンヒーターっぽいけど、セラミックファンヒーターの魔石版なのか? ここに水を入れると加湿器にもなるっぽいな」
【別売りの魔石をセットしますと、加湿器もフルオートにできます】
魔石の別売りパターンは初めてだな。ひとつ千円でひと月持つのか……。当然買うけど。
「この魔石をセットして……。おっ、割と高火力だな。この広さの部屋でも大丈夫そうだし」
「これは……、凄いのじゃ!! 暖かいのじゃ!! この様な物があると、冬は部屋から出られなくなるのじゃ」
「いいたいことは分かるけど、ほどほどにな。冬の間は冒険者の仕事を少なくしてもいいけど」
「今回の稼ぎでこの冬分は十分でるのじゃ。ソウマは冬の怖さを舐めすぎなのじゃ!!」
いや、そりゃ冬の山や森は怖いだろうけど、今の所その怖さの片鱗も見せてないんだけどな。
とはいえ、今はまだ十月末。十一月とか十二月になったらそれなりに寒い可能性はある。
「あまり寒くて動きが鈍るようだったら依頼は受けないけど、冬の依頼って何かあるのか?」
「魔物も多くは冬眠しておるのじゃ。剣猪の討伐依頼は割とあるのじゃが、アレを狩るのは流石に問題じゃろう」
「他の冒険者は多分東の森へ剣猪狩りに行くだろうから、この辺りの剣猪は狩り放題だと思うぞ」
「それならばこの辺りの剣猪を狩る必要はないじゃろう。あまり数を減らしすぎると、来年以降は大変じゃと思うぞ」
西の森の剣猪は壊滅してるからな。
北方面にある森は小さい上にあっち方面は真っ先に開発されたんだろうから、あまり剣猪の話すら聞かないし。
「状況次第って感じかな。毎日遊んでても仕方ないし、ある程度は仕事しないと」
「これだけ稼いでその考えのソウマは異常なのじゃ。緊急依頼や商人ギルドの仕事は続けてもよいと思うのじゃが」
「何か他にあればいいんだけどな。とりあえず色々進めたい話はあるし」
スティーブンはいったん王都に戻ったみたいだし、砂糖の値段を下げるのは来年になりそうだ。
レシピは渡したけど現状出回ってる食材を搔き集めても再現できる料理はあまりないし、すぐにこっちに帰ってきそうな気はする。一度舌が肥えたら普通の料理だと満足できないだろう。
「それじゃあ俺はこれから晩御飯を作り始めるよ。色々準備に時間のかかる食材もあるし」
「ほう、それは楽しみなのじゃ」
ウナギや鰻裂き包丁も用意したし、後は捌いて焼くだけなんだけど。ウナギの蒲焼ってどうなんだろ? 美味しいのは間違いないけど結構癖があるよな。
他にもメインでラムチョップのステーキもあるし、固形を使わずに一から全部作ったコンソメスープもある。しかもこのコンソメスープにはたっぷりと野菜や鶏肉が入ってるから身体も温まるぞ。
「凄い匂いと煙なのじゃが大丈夫なのか?」
「流石にこの量の鰻を焼くとこうなるよな。下手すると火事を疑われる勢いだろうけど……」
「流石に火が出ておらねば誰も来ぬじゃろう。しかし、良い匂いじゃな」
「焼いてるのが鰻だからな……。これはもう焼けた串だけど食べてみるか?」
串を二本打った鰻をそのまま渡してみる。
ヴィルナが食べないんだったら俺の分だけでいいしな。
「これは魚か? はむ……、魚とは思えぬ食感と物凄い旨味なのじゃ。蕩ける様な魚というのは初めてなのじゃ」
「脂が多いからな。この鰻の食感については他に似た魚がちょっと思いつかない」
「これは晩御飯が楽しみなのじゃ!!」
「ヴィルナが鰻が食べれる様なので安心したよ。ご飯の上に乗せて鰻丼にしてもおいしいけどどうする?」
「それも頼むのじゃ」
「了解。もう少し煙が凄いかもしれないけど、鰻を焼いたら収まるから」
「分かったのじゃ」
後始末というか、汚れた台所は掃除用ロボットに任せればいいし、こういった面はこの世界にきてホントによかったと思うよ。
生きてるウナギも何故か信じられないような価格だったけど、これもどこかほかの世界からの取り寄せなんだろうな。
◇◇◇
さて、晩御飯の時間だ。
メニューは錦糸卵を乗せた鰻丼、ラムチョップステーキ、鶏と野菜のたっぷり入ったコンソメスープ、バターコーン、トマトのサラダ。
蒲焼にした鰻は大量に用意したので、後で鰻丼や鰻重にしてもいいしそのまま食べて貰ってもいい。牛肉の予定だったけど子羊肉になったけどいいよね。
「豪華なメニューじゃな。この骨が付いた肉も凄くおいしそうなのじゃ」
「ラム肉、子羊の肉だな。臭みがあまりなくて俺は好きだよ。牛肉もいいけどたまには他の肉もいいだろ?」
「これは牛肉とは違うが美味しいのじゃ。骨が付いておるのが邪魔じゃと思ったが、これを持って食べればいいのじゃな」
「ナイフとフォークを使わずにその食べ方もあるよね。スペアリブとかはそうやって食べるし」
でも、流石にラム肉のステーキは手で持つと食べにくいと思うんだけどな。
一応濡れ布巾は用意してるし、手が汚れても大丈夫なようにしてるけど。
「わらわがまだ箸を美味く使えぬので、こうしてスプーンを用意してくれるのも嬉しいのじゃ。……確かにこうして白米の上に乗せるとまた違った美味しさになるのじゃな」
「鰻丼は旨いよな。元の世界だと割と高級品だったけど、なぜか安く手に入ったしな」
【異世界産鰻ですが、元の世界基準でも一級品です】
やっぱりね。
というか、買う前に産地が書かれてないのは全部そうだろ?
【表記しにくい物や元の世界と似た世界産もありますので、一括で異世界産として表記しない事にしております】
産地が書かれてるのが俺が元いた世界産って事か。問題が無いんだったら別にいいよ。
「今日もおいしかったのじゃ。デザートはヨーグルトか?」
「刻んだフルーツがたっぷり入ったヨーグルトだな。シンプルだけどおいしいだろ?」
「そうじゃな。味の濃い物が多かったから、こういったデザートの方がいいかもしれぬのじゃ」
作るのには苦労したけど、こうして喜んでもらえると嬉しいよな。
特に鰻は試食してもらったけど、割と不安な部分も大きかったからな~。あれだけ食べて貰えば十分だろ……。
◇◇◇
結果発表。ウナギを食べさせて精力付けさせる作戦は今後封印するものとする。
そうだよな、俺だけ回復する訳じゃないんだし、ヴィルナに精力を付けさせたら逆効果になるって結果を考えなかった俺の失敗だ。
と、いう事で穀倉地帯に向かうのは明日という事になった。そう、ウナギを食べさせた日の二日後という意味だね……。
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