第八十七話 流石に町中だと使わないぞ。ある程度は歩いたほうがいいしね
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
飛空石製神力エンジン内蔵型魔導車。
見た目は普通のスポーツカータイプの車なんだけど、普通の車と決定的に違う点はタイヤが無い事だ。走らせる時は空中に浮き上がるし、浮いてる筈なのに急ブレーキも効くという謎テクノロジー。こんな車があったら雪道でも安心だ!!
「確かに乗り心地は良いな。今度から何処かに行くときはこれがいいのじゃ」
「流石に町中だと使わないぞ。ある程度は歩いたほうがいいしね」
「そこまで楽をしようとは思っておらんのじゃ。……本格的な冬になったら、考えたりするかもしれぬが」
「どの位寒いかにもよるな。そこまで寒くなかったら、厚着すればいいだろ?」
この世界に来てから今までの雨が降る率から考えて、歩けないほど雪が降るとは思えないんだよな……。
雨だって月に数度降るだけだったぞ。
「ソウマは冬を甘く見ているのじゃ。寒いのじゃぞ、吐く息が白くなるのじゃ」
「冬になったら普通の光景だな。この辺りはどの位雪が降るんだ?」
「雪? ああ、あの空から降ってくる雪か。この辺りでは滅多に降らぬな。北の方に行くと凄いらしいのじゃが」
ほほう。それで寒いとか言いますか? 屋根の形から考えて豪雪地帯じゃないと思ったけど、雪が滅多に降らないのにそれで寒い?
ヴィルナが寒さに弱いって事を考えに入れても、この辺りってそこまで寒くないんじゃないか? 俺がもともと住んでた所は冬が割と厳しいってのもあるんだけど。
「その時次第だな。体を温める魔法とかないのか?」
「身体強化系の魔法は割と多いし、耐性を付けて夏の猛暑を何とかする魔法はいくつかあるが、都合よく丁度いい感じに体を温める魔法など存在しないのじゃ」
「寒い場所に行く為の魔法とかないのか? そういったダンジョンとか場所もあるんだろ?」
「あるのかもしれぬがわらわは知らぬのじゃ。そもそも、そういった魔法はあまり広まりはせんのじゃ。考えてもみよ、戦争をしておる国もあるじゃぞ。そんな魔法があったとして、わざわざ敵が攻め込みやすくなる便利な魔法を広めると思うか?」
「確かに。そこに住んでる人は知ってても、誰かに教えようとは思わないか」
地の利をわざわざ捨てるようなものだしな。
「そういう事じゃ。……本当にすぐ着いたのじゃが……、何をどうすればここまで破壊できるのじゃ?」
「ちょっとした必殺技の跡さ。……この辺りは整備されずに放置されてるな。別に地面が抉れてる訳じゃないから馬車とかの通行に不備が無いからか?」
「そうじゃな……。もし仮に敵対する国がこの光景を見れば、回れ右をして兵を引き揚げさせることじゃろう」
こんな攻撃力を持つ人間は相手にしたくないって事か。
常識的に考えりゃそうなるよな……。俺だって相手にしたくないもん。
「それで、どのあたりに聖域を作らないといけないんだ?」
「まっておれ、今魔素の流れをよんでおる……。何をしたかは知らぬが、禍々しき魔素がほとんど浄化されておるな。これならば規模の小さな聖域をあの林の辺りに作ればよかろう」
「あの辺り? 街道からはかなり離れてるし、一応小さな林だしな。あそこだったら問題ないだろう」
しかし……、まさかアルティメットクラッシュで倒すと、禍々しい魔素とかそんな感じの物を浄化できるのか?
【使用された氣や神力の影響と考えられます。特に神力の浄化能力は絶大です】
解説ありがとう。しかし、氣は何度も聞いた事あるけど、神力ってなんだ?
【神力は神もしくはそれに近しい存在が使う力です。アルティメットクラッシュにはわずかではありますが神力が使われていると推測されます】
神か……。ホントにいるのかそんな存在が?
異世界だし、いてもおかしくはないんだろうけどね……。
「それでは準備をするのじゃ。……この林を利用すれば杭を打つ必要はなさそうじゃな」
「あ、着替える為の簡易型の仕切りを用意したぞ。こうやって引っ張ると周りから見えない」
「おお、ソウマのアイテムボックスの店ではこんな物も扱っておるのか? これも買ったのじゃろ?」
「安かったしね。外で着替えるんだったらあった方がいいだろ? ヴィルナのアイテムボックスに保管してくれ」
「これは助かるのじゃ」
俺だってヴィルナが着替えているところを誰かに見られたりするのは嫌だしな。
周りが見えなくなるけど、俺が見張ってたらいいわけだし。
「それで安心して着替えられるだろ? 覗こうとする奴は俺が許さん」
「ソウマがいてくれるなら安心じゃな。あの姿にならずとも、まともに戦って勝てる者などそうはおらぬ」
「そこまで強くはないけどな」
「……あれだけの武器を手にしてそこまでとはの。あの変身した姿に比べればそうなのじゃろうが」
装備については超が付くほど強力になってるけど、俺自身はそこまで強くなってないからな。
魔法についてはそこそこ使えるようになったけど、使う機会すらないし。
「変身しなくてもこの辺りの魔物だったら大丈夫だろう。……いるかどうかは別にしてな」
「そうじゃな、この辺りも獣の気配を感じぬのじゃ。獣が戻ってくるにはしばらくかかるやも知れぬの」
「冒険者が苦労しそうだ。その代わり来年の森桃や岩栗は争奪戦になるぞ」
なにせ、問題だった剣猪や独占していた冒険者たちがいなくなったんだ。
早い者勝ちではあるけど、誰が先に見つけるかが勝負だな。
「そろそろ支度を始めるのじゃ。縄と短剣は持ったし……、白砂もあるのじゃ」
「アイテムボックスがあるとこういう時に便利だよな」
「聖魔族は基本全員アイテムボックス持ちなのじゃ。それも僻まれておった原因かもしれぬ」
「そういう事もあるか。色々大変だよな」
なるほど、アイテムボックスを持ってる種族とかもいるのか。
もしかしたらだけど、エルフとかドワーフなんかでもアイテムボックス持ちは多いのかもしれないな。
「しばらくかかるのでそこで待っていて欲しいのじゃ。誰も来ぬとは思うのじゃがな」
「アツキサトの冒険者はこっちに来ないだろうしな。向こうからは……、誰か来たら怖い位だ」
「流石にもう避難してくるものはおらんじゃろう。町の近くに避難所は作り始めておるし、そこが完成するまでは仮の宿舎におるはずじゃ」
運よく生き延びた人の救助はもう終わっているんだよね。ある程度の金があって簡単に社会復帰できそうな人は町の借家を拠点にして既に生活を再開している。
働き手を失って自力でどうにもならない人や、逃げてきた農民などは避難所に集まってもらい、穀倉地帯再建後に色々と再編するそうだ。
「万が一何かあればこっちでなんとかするよ」
「では、頼んだのじゃ」
ヴィルナも強いし、そうそうなにかは起きないだろう。
順調に縄が張られて白砂で文様がかかれ、準備が終わったところでヴィルナがさっきの踊り子姿になる為に仕切りを出して着替え始めた。覗いたりしそうな人影は近くにはないし、警戒する必要もなさそうだな。そこまで気は抜かないけど。
「あ、鳥が着替える為の仕切りの中に……、クッキーを咥えて飛んでったみたいだな」
「あーっ!! それはわらわの物なのじゃぁぁぁ!!」
「油断してクッキーとられたのか。昼ご飯も食べずに聖域を作ってたからおなかが空いたのかな?」
ヴィルナに関しては最近割と気が抜けてる気はしないでもないか? 最初にあった頃のヴィルナだったら少なくとも鳥にクッキーはとられなかったと思う。
危険な気配だけを察知してるんだったら、鳥なんかは無視してたんだろうな。
「散々じゃったのじゃ。まったく……」
話しかけない方がいいんだったか。
昼飯の時間を少し過ぎたし、小腹を満たすのに何か用意してくればよかったな。
「では行くのじゃ」
これを見るのは二度目だけど、幻想的というか不思議な光景だよな。
そもそもあの光の粒がなんなのかわからない。精霊? 妖精? 人の姿はしてないけど、あれも一種の生命体なのか?
ヴィルナの動きに合わせて舞ってるし、何か意思の様なものがあるのは間違いないんだよなね。
「これで大丈夫なのじゃ。この林は聖域となって、やがて人の侵入を拒むかもしれぬが」
「それは侵入しようとした人が弾かれるって事?」
「この林の中にはなんとなく入りたくなくなるという事じゃな。暗い路地裏とかに入りたくならぬであろう? そんな感じになるのじゃ」
なるほど、なんとなく近付きたくなくなるって訳だ。
怖い場所もそうだけど、あまりにも綺麗すぎる場所って足を踏み入れるのに躊躇するしな。
「それじゃあ、急いで家に帰ってご飯にするか。何かリクエストはある?」
「そうじゃな。今日は鳥が良いのじゃ。唐揚げでもクリーム煮でもよいのじゃが」
「……若干私情が入ってないか? 鳥料理は了解したけど」
クッキーを盗られた腹いせなんだろうな。
なんか、たまに子供っぽい一面を見せるんだけど、ヴィルナの歳を聞いてなかったよね? 十年前に子供。それでも一人で生きていける位だから、俺とほとんど変わらない年齢と考えてもおかしくない筈なんだけど。
考えすぎると怖いから、気にしないでおこう。
読んでいただきましてありがとうございます。




