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第八十六話 ……確かに見てるだけってのは確かに辛いな。いや、いつも悪いと思ってるんだよ?

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。



 今日はヴィルナの提案で朝から西の森に出向いている。穀倉地帯に聖域を作る前に、西の森に小さめの聖域を作っておきたいという話らしい。穀倉地帯の方が規模がデカくなるんだろうしな。


 それにしてもこれだけ連日冒険者として活動しているのは久しぶりな気がする。最近は例の魔物関係以外俺が出る様な依頼とかもなかったし、それ以外には俺やルッツァたちが受ける様な依頼が無いのも問題なんだよね。


 あれでもルッツァたちは定期的に東の森で剣猪(ソードボア)を討伐して稼いでるそうだけど……。


「聖銀製の短剣でこうして決められた場所にある木に傷を付け、絹蔓の縄で囲ってゆくのじゃ」


「木が無い時はどうするんだ?」


「本来であればこの杭を使うのじゃが、森の中では杭を打つよりもこうして木に傷を付ける方が効果が高いのじゃ」


 アイテムボックスから取り出された白木の杭のような物には不思議な文様が刻んであった。


 あれは多分穀倉地帯用に用意した物だろうね。いつの間にって感じだけど。


「こうして白砂で地面に印をつけ、中心部に種を植える場所が分かるように白砂で輪を作っておくのじゃ」


「俺が手伝わなくていいのか?」


「むしろそれ以上近付いてはダメなのじゃ。獣の気配はないが一応周りを警戒しておいてほしいのじゃが……。今日はソウマが見ておるだけの番なのじゃよ」


「……確かに見てるだけってのは確かに辛いな。いや、いつも悪いと思ってるんだよ?」


「これでこの後で報酬を半額渡されるのじゃぞ。今回はソウマがそれを味わうのじゃ」


 塩食い(ソルトイーター)とかこの森で出た魔物の時の意趣返しじゃないんだろうけど、思ってた以上にキツイなこれ。


 ただ見てるだけで金が手に入る~って喜べるのは、相当神経太くないとできないしな。


「穀倉地帯に行く際には、快適な移動手段を用意するよ」


「それは楽しみじゃな。こうして木を利用して縄を張り巡らせ、その中心に水晶の木の実を埋めて聖域を作るのじゃ」


「結構広い範囲に複雑に縄を渡してるけど、これってもしかして魔法陣か何かなのか?」


「そういう事じゃ。よく気が付いたの」


 絹蔓の縄で魔法陣を構築するってのは分かった。


 聖銀製の短剣で付けた方があの文様というか、傷が効力を発揮しやすいからなのかな? 普通の短剣でもいい気はするんだが。


「これで、後はこの服に着替えて……」


「いや。ここには俺しかいないけど、目の前で脱がれても」


「悪いと思うのであれば、あっちを向いておれ。うむ、もうよいぞ。……最初からこの服で作業をしてもよいのじゃが、色々と問題があるのでな」


「巫女装束? というよりはアラビアンな踊り子の服っぽいけど」


 なんかそっち方面の作品で見た事がある衣装だよな。


「踊り子か。いい得て妙じゃがな」


「え? なるほど、その短剣を両手に持って舞うのか……」


「しばらく話しかけるでないぞ」


 ヴィルナは複雑に張り巡らされた縄に触らぬように、それなのに軽快でスピード感のある特殊な舞いを踊り続けた。


 あの手にした短剣を振る度に小さな光の粒のような物が空を舞い、やがてその光の粒がヴィルナの動きに合わせるように舞い始めた。光の輪舞って感じの幻想的な光景だな。


 舞いは一時間ほど続き、最後にヴィルナは中心に水晶の樹の実を埋めて、そこに聖銀製の短剣を突き立てた……、って、大丈夫なのかあれ?


「これで儀式は終わりじゃ。張り巡らされた縄の中心部分、ここが聖域となって最終的に縄を張った一番端の木の辺りまで聖域化するのじゃ」


「なるほど、その水晶の樹が禍々しい魔素を吸い上げて成長するのか。で、それを浄化する事で聖域が広がっていくと」


「その通りなのじゃ。水晶の樹自体はそこまで大きく成長せぬが、地面の下に根を張ってそこがすべて聖域となるといった感じかの」


 ……南の森でもかなり広い範囲で木が生えてなかったのはそのせいか? って、穀倉地帯はそのあたりうまくしないと作物が植えられない畑ができるぞ。


「穀倉地帯は大丈夫なのか。その、この縄張ってる範囲の木って全部枯れるんだろ?」


「禍々しい魔素を水晶の樹に吸い上げられた事により、一時的にこの周辺の魔素が濃くなる過程で枯れるようじゃな」


「一時的ってどのくらい?」


「この程度の濃度であればひと月ほどかの。その後はこの森全体に邪気が減って、多くの実りを齎す事じゃろうて。とはいえ、別の意味で聖域に出来た作物は食べぬ方がよいじゃろう。浄化されたとはいえ魔素が濃い作物になってしまうからの」


 この森でひと月って……。穀倉地帯はどの位必要なんだろう……。春までに浄化が終わらないと、いろいろまずい気はするんだけどな。


 ん? ヤッパリ魔素が濃いものは食べない方がいいのか?


「禍々しくない魔素でも、魔素が多いものは食べない方がいいのか?」


「そこまで問題は無いんじゃが、人によっては様々な影響が出るのは間違いないのじゃ。いい影響も多いのじゃが、人によっては困るじゃろうしの」


「ん? どういう事?」


「女性であれば、胸の成長や魔力の増加などじゃな。どちらも大きくなりすぎても困るじゃろ? 特に魔力は制御するのにひと苦労じゃし」


 ……どこのギルドに持って行っても歓迎されそうな情報だな。


 魔法使い志望の子にも、そっち方面で悩んでる子にも重要過ぎる情報だ。もう知られてる可能性もあるけどね。


「男の方にも影響あるのか?」


「男の場合は特に影響ない様じゃな。女に比べて男は元々魔力が上がりにくい体質じゃし、胸が大きくなる事も無いしの……。髪が生えやすくなるくらいか?」


 めっちゃ重要な情報来ました!!


 それ、バレたら聖域内の作物が奪い合いになりそうな話だぞ。どのくらい食べたら影響があるのかは知らないけど。


「たくさん食べないと影響ないんだろ?」


「食べる者次第ではあるのじゃがな。少量でも影響が出る者は出るのじゃ。禍々しき魔素でなければ魔物化する事は無いが、皆が皆、魔素の濃い食べ物を求めればそういった食べ物も出回る可能性があるからの」


「魔素を貯めこみやすい人もいるって事か。逆に言えば、そういった人は魔物化しやすかったりする訳だ」


「その通りなのじゃ。じゃから、下手に魔素の濃い食料を取り続けると、禍々しき魔素も取り込んでしまう可能性もあるからの。それでも魔物化するには相当な量を食わねばならんじゃろうが」


 人間や亜人種は魔物化しにくいけど、体質的に魔素を貯めこみやすくて魔物化しやすい人もいるってことか。


「穀倉地帯は大丈夫か?」


「行ってみなければわからぬのじゃが、例の魔物を倒した場所の近くにも聖域を作った方がいいじゃろうな。作物が心配なのであろう?」


「その通りさ。流石ヴィルナ、そこは考えてたんだな」


「最低でも二ヶ所といったのは、禍々しき魔素の溜まった場所と、そこから流れる魔素の動き次第じゃったからなんじゃ。この森であればここに作るのが一番で、ここ以外に作ってもそれほど効率は変わらぬ」


 聖銀製の短剣を四本買っておいてよかった。


 両手に持って舞を踊った後で一本消費するから、四本だと本当にギリギリだ。という事は、二本しかない場合はまた別の方法があったんだろうな……。


「しかし、これだけ禍々しい魔素を身体に溜めた、あの魔物の正体ってほんとに何だろうな?」


「わらわもあそこまで禍々しき魔物を見るのは十年前のあの竜以来だったのじゃ。塩食い(ソルトイーター)とかいう魔物はそこまで禍々しき気配が無かったのでな」


「やっぱり塩食い(ソルトイーター)とナイトメアゴートはあの魔物とは別系統なのかな? あのへんな喋り方をする魔物には何か秘密みたいなものがあると思うんだ」


「それはわらわにもわからぬ。しかし、あのような魔物はこの世界には存在しておらぬ筈なのじゃ」


 そこまで言うって事は、聖魔族もそれなりに魔物には詳しいんだろうな。


 しかし、本来この世界には存在しない筈の魔物……。黒龍種アスタロトもそうだろうけど、そんな魔物というか存在をこの世界に呼び出してる誰かがいる? そいつが本当の黒幕なのか?


「考えても答えは出ないか。とりあえず町に戻って次の場所へ向かうか?」


「このまま次の場所に向かってもいいのじゃが。もう一ヶ所くらいであれば聖域を作れるのじゃ」


「そうなると、いったん森を出た方がいいな。あれは流石にここで走らせるのはキツイ」


 五千万円もした飛空石(ひくうせき)神力(プラーナ)エンジン内蔵型魔導車。


 神力(プラーナ)ってのがよくわからなかったけど、大型のカートリッジみたいなものに充填されてるらしい。買ってから一度だけ試乗したけど、ヤバい性能だったのは間違いないぞ。


「それは楽しみじゃな。それであれば穀倉地帯まで今日中に行けそうなのか?」


「余裕だな。あの魔物を倒した場所まで十分もかからないだろうぜ」


「……話を聞いた限りでは結構距離があったと記憶しておるのじゃが、十分で着くのか?」


「そのくらいで着くだろうな」


 最高時速は魔導車よりもあのバイクの方がはるかに速いんだけど、俺はあのバイクの性能を欠片も引き出せてない。というか、普通のバイク並みの性能しか使ってないという方が正しいのか?


 あんなのを音速で走らせたら確実に死ぬって。それなのに最高速度はマッハ十だもんな……。どんな化け物が走らせる前提なんだよ。


「にわかには信じられぬのじゃが、ソウマが言う事であれば本当なんじゃろう」


「こういう嘘は言わないからな。世の中にはついていい嘘と悪い嘘があるしね。それだけ早くてもかなり快適だぞ」


「それは楽しみじゃな。遠くへ行くのはいいのじゃが、高速馬車でも時間がかかりすぎるのが問題なのじゃ」


「全力で走らせたら一日でマッアサイヤでも行けるぞ。うまくいけば今日中に穀倉地帯に着くけどどうする?」


「それは凄まじいの。魔物を倒した場所の近くに聖域を作ったら今日は町に帰りたいのじゃ。流石に魔力や色々な力を使うのでな」


 これだけ広大な森を浄化させる聖域を作るんだから、やっぱりそれなりに力を使うみたいだな。


「了解、とりあえず着替えたら森を出て、そこからあそこに向かおう」 





読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告いつもありがとうございます。


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[一言] どのくらい食べたら影響がるのかは知らないけど。 →どのくらい食べたら影響が有るのかは知ら無いけど。
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