第八十五話 やっぱりこれだけ生き物がいない森ってのも異様だよな。この広大な森のどこかにはいるのかもしれないけど
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
南の森。ヴィルナの故郷。
十年前の竜の襲撃でかなり大きな爪痕を残し、いまだに小動物すら見かけない異様な森。
「やっぱりこれだけ生き物がいない森ってのも異様だよな。この広大な森のどこかにはいるのかもしれないけど」
「この森に住むくらいであれば西の森まで逃げるじゃろうな。どれほど森の恵みが多かろうともここまであの竜の痕跡が残っておれば住もうなどと思わぬじゃろ」
「俺には分からないんだけど、そんなにはっきり痕跡が残ってるのか? 木とかが薙ぎ倒されてるのは流石に見りゃ分かるんだけど、動物とか感覚の鋭い者にしかわからないような体臭とかそんな物がある?」
「体臭というよりはあの竜の悪しき気配というか、浄化しきれておらぬ禍々しき魔素じゃな。聖域がわずかに残っておるだけでは十年かけても完全には浄化しきれぬのじゃ」
なるほどな……。そしてこれが何もしないで放置した場合の西の森と穀倉地帯の今後の姿って訳か。
こんな状況だと確かに獣とかの農作物への被害は減るだろうけど、出来上がった作物の禍々しい魔素が溜まっていくんだったら意味は無い。ん? この森で採った森桃とかは大丈夫なのか?
「以前ここで森桃とかモリヨモギを採ったんだけど、その辺は大丈夫かな?」
「この濃度であれば余程大量に摂取せぬ限り問題は無いじゃろう。モリヨモギなどは魔素が溜まりにくい植物じゃし、森桃も百や二百食べた程度でどうこうなる訳ではないのじゃ。これが穀物になると摂取量が跳ね上がるんじゃがな」
「粉にしたところで一度に食べる量が桁違いって訳か。生体濃縮されてるようなもんだろうしな」
「仮の話ではあるが、この森で狩った剣猪などを食べ続けるのは流石に危険じゃ。流石に禍々しき魔素の溜まった木の実などを大量に食べておるじゃろうし、もう一段階上の魔物に進化しておる可能性もあるじゃろうな」
なるほど……。でも鳥はそこそこ見かけるけど、魔物化した鳥は見なかったな。
グギャ鳥だっけ? 相変わらず癒されない鳴き声してるけど。
「鳥は大丈夫なのか? リスとかの小動物すらいないのに割と見かけるよな?」
「たまに魔物化すると思うのじゃが、魔物化しにくいのは確かじゃな。何故かは知らぬが……」
「身体の構造上の問題なのか、それとも大きさの問題? 突撃駝鳥は魔物だしな」
「それもあるやも知れんな。種族的に魔物化しにくい種もあるかもしれぬ」
学者でも何でもないから、そんな細かい事は分からないよな。
ダリアとかは詳しいのかもしれないんだけど。なんか学校とか行ってたみたいだしさ。
「ヴィルナの住んでいた聖域とかはもっと奥なのか?」
「割と森の深部じゃな。魔素や魔力の流れ次第でかなり変わるが、聖域を作れる条件も割と細かいのじゃぞ」
「なるほど。いろいろあるんだな」
今回は最初の時と違って完全装備でかためてるから、落ち葉の上を歩いてもそこそこ平気だ。
前回切り払った枝はそこそこ見かけるけど聖域の方向と違ったのか、またあの時と同じように鉈で切り開きながら進まないといけなくなった。
「確かにそうすれば通りやすいのじゃが、避けて進むのではだめなのか?」
「目印も兼ねてるからな……。それに、こうやるのはどうしても通りにくい場所だけだよ」
「十年前の傷跡も残っておるからの。割と近くまで木々は薙ぎ倒されたままじゃ」
「この後はあの竜がやったものなのか? それにしてはいろんな跡があるんだが」
「風穿波などの魔法を使った跡もあるのじゃ。あの魔法でも倒せなかったのか、躱されたかはわからぬが」
相当強いってのは間違いないんだろうな。だって割と広範囲に魔法跡があるのに、倒せてないってのはヤバい。
拘束して必殺技を叩きこむってのがヤッパリ鉄板なんだろうな。処刑用BGMが流れてると完璧、オープニングの曲でも可。
「ヴィルナの一族が強かったってのはこの跡を見ればわかるけど、そんな一族が束になっても勝てなかったのか」
「じゃから何度も言ったじゃろう。ソウマの力が分かっておらねば、今回の依頼を断っておったじゃろう」
「今の俺は変身すればそこそこ強いからな。俺自身はそこまで強くなってないのが残念だけど」
「魔力の上がり方は異常じゃがな。魔力的には穿波系の魔法そろそろ使えてもおかしくは無いのじゃ。その代わり一撃放てば魔力はしばらく空じゃろうが」
「それは避けたいな……。魔法はいざってときの切り札にしよう。そのうちその魔法も教えて貰わないといけないな」
「わらわは使えぬので、誰かに教えて貰うしかないのじゃ」
ヴィルナより魔法が強くなった?
いや、何故か知らないけどヴィルナは攻撃魔法をあまり覚えてない可能性がある。あの炎華菊の威力は凄まじかったし、もっと強力な魔法を使えてもおかしくは無いんだよな……。って、使わないのは近くに俺がいるからか。
「聖域まであとどのくらいだ?」
「聖域の中心はもう少し先じゃが、ここからが聖域じゃな。正確には聖域であった場所じゃが」
「例の竜に破壊されたからこの辺りはもう聖域じゃないって事か」
「禍々しき魔素というか、邪悪な魔力を一定以上受ければ聖域とて無事ではないのじゃ。闇魔法と呼ばれる魔法がいくつか存在するのじゃが、その魔法は邪悪な魔力を持たねば使えぬという話じゃな」
どんな結界やバリアも一定以上のダメージを受けたら壊れるだろうしな。結界が決壊するって訳だ。
【流石に寒いと思われます。タイムセール開催中、防寒グッズを多数品揃え】
そこ突っ込んでくるか? っていうか、そこまで寒くねえよ!! これみよがしに防寒グッズを薦めてくるな!!
「闇魔法ってどんな魔法なんだ?」
「人を石に変えたり、異界から魔物を呼び出したりする魔法じゃな。その名の通り碌な魔法が無いのじゃ」
「あの魔物の力もその魔法みたいな感じだったしな。嗜虐性の高い邪悪な奴にしか使えない魔法なのか」
「普通の神経であれば覚えたいとも思わぬ魔法じゃな。覚えようと思っても、覚える為の魔導書すら滅多に無かろう」
「禁呪みたいなものか」
「禁呪系とは別じゃぞ。あれは本当に使ってはならん魔法じゃ」
多分、黒龍種アスタロトをこの世界に呼び込んだ奴はその禁呪とやらに手を出してるんだろう。
あの化け物を十三年も放置してるのに、この世界が滅んでないのは不思議なんだけどな。あれだけの力を持ってれば、この世界に来てひと月位あれば余裕で世界を滅ぼせるだろうに。
ん?
「あれ? ここから空気というか気配が変わった」
「気が付いたか。ここが聖域じゃ。中心にあるあの水晶の樹が禍々しき魔素を浄化し、清らかな魔力へと変えておるのじゃ」
「本当に半透明な木なんだな。不思議というか」
木だけにな。
【寒いジョークは必要ありませんが、あの木の種は必要と思われます。入手可能であればお願いします】
最近その請求も増えてきたよな?
プラントで育ててるのかどうかは知らないけど……。
【入手された種子はファクトリーサービスの工場内で研究し、可能な場合はプラントで育成されます】
役に立つんだったら別にいいけど手に入るかどうかは状況次第だぞ。
「水晶の樹の種ってありそうか?」
「禍々しき魔素が濃かった様じゃな。めずらしい事に実までなっておる」
水晶の樹には小さな木の実が幾つも生っていた。見た感じサクランボっぽい?
「小さなガラスの工芸品みたいだな。これを使うのか?」
「種を使うより、実を使った方が効果は高いのじゃ。手に入ると思っておらなんだから、初めから諦めておったのじゃが」
「これだけあれば二ヶ所聖域を作るには十分だな。全部摘んでもいいのか?」
「三つほど残してあとは全部摘んでもいいじゃろう。といってもこの実は食えぬがな」
めちゃめちゃ堅そうだしな。本気で手触りもガラスというか水晶っぽい感じだ。
食べたらさぞシャリシャリする事だろうな。口の中傷だらけになりそうだけど。
【喫食可能かお調べしましょうか?】
いや、絶対食えないだろ。コレ。
腐らないんだったら飾っておきたいくらいだよ?
「この実、幾つか貰ってもいいか?」
「食えぬのじゃが」
「だろうな。ホントに水晶みたいな実だし、こんなのを食べたら歯がかけそうだ」
「あの時は乳歯じゃから仕方が無かったのじゃ……」
食ったのか? というか子供の頃に食おうとしたのか? それで乳歯が欠けたのか。今は大丈夫っぽいから生え変わったんだろうな。
「これで必要な物は揃ったな。帰るか? それとも……」
「集落の跡地に寄るのは、あの竜を倒した後でいいのじゃ」
「そうか……」
その日ができるだけ早く来て欲しいけど、まだ先になるんだろうな。
もし俺が出会ったら、全力で叩き潰す!! 死体すら残らない程に。
もう、最初にこの森にいた時の様に無力じゃないんだ。その力自体はその時から持ってたのは間抜けだったけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。




