第八十三話 穀倉地帯に魔素が溜まると何か悪い影響があるのか?
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スティーブンの話では西の森と穀倉地帯によくない魔素が溜まり始めているらしい。その件で冒険者ギルドから直接依頼が来たんだが、依頼主は当然カロンドロ男爵で、グレートアーク商会からも報酬が出る形にされていた。
西の森の方はそこまで深刻ではないが、穀倉地帯の方は今後の事もあるのでできるだけ早めに対応しないといけないそうだ。既に冬小麦の作付けは諦めたらしいけど、このまま放置したら春小麦まで作付けできない事態になりかねないという話だった。そりゃ一大事だな。
禍々しい魔素が溜まった原因はもちろんあの魔物そのものと、魔物によって食い殺された人の怨念だそうだ。そうなるとマッアサイヤの方も気になるところだが、塩食いは塩と一緒に念入りに焼いたし大丈夫だったのかな?
「穀倉地帯に魔素が溜まると何か悪い影響があるのか?」
「収穫する作物に禍々しき魔素が溜まっておると、それを食べた人間に禍々しき魔素が大量に溜まる事となる。人や亜人種が魔物化しにくいとはいえ、当然一定量を超えると魔物化する訳じゃ。人が魔物化した場合はどんな魔物に化けるかわからんのでな、厄介な事この上ないのじゃ。それでわらわに聖域の構築を頼みに来たのか。……依頼人は男爵じゃが、本当の依頼主はあの男じゃろうな」
「協賛みたいな感じだけど、実のところはそうだろうね。聖魔族の評判をあげる事と、悪い噂の払拭。しかも男爵からの依頼となると、他の者も口出しできないし箔が付く」
「報酬も多いのじゃが、あの儀式には必要な物も多いのじゃぞ。水晶の樹の種や絹蔓で作った縄が無いのじゃ。儀式を行うわらわの服はあるのじゃが……」
「必要な物は用意してもらうしかないだろう。その水晶の樹の種とかは希少な物なのか?」
「南の森の聖域に行けば入手可能じゃが、相応のリスクがあるのじゃ」
例の竜か……。
今だったら倒せる気はするんだけど、ヴィルナがいると巻き込む可能性も高いしな……。その竜もいつかは倒さないといけないんだろうけど。
「冒険者ギルドとカロンドロ男爵に話を通して用意してもらうか、それとも冒険者ギルドかどこかで南の森への侵入許可を貰うしかないだろう」
「そうする他ないの。流石に水晶の種は無いじゃろうしな」
「聖域ってのも見てみたい気はするな。ヴィルナのふるさとなんだろ?」
「今は見る影もないのじゃ……。住んでいた場所は聖域の外れにあったのじゃが、家などはあの竜に跡形もなく破壊されておったしの……」
なるほど。
竜に襲われた時、ヴィルナは聖域の結界に隠れてたって言ってたけど、住んでる家とかは聖域のどこかほかの場所にあったのか……。
「水晶の樹の種が聖域でしか採れないんだったら、実がなる時期まで待たないとダメなのか?」
「種は特殊な条件が揃わんと発芽せぬので、結界の中を探せば見つかると思うのじゃ」
結界の中に隠してたのかな? ん? 俺と出会うまでそこに住んでたんだったら、種の場所位わかるはずだよな?
「……今まで不思議に思ってた事を聞いてもいいか? 俺と出会う前のヴィルナってどこに住んでたんだ?」
「何を突然……。冒険者をしながらいろんな場所で寝泊まりしておった。ソウマに逢う少し前は、南の森と西の森の中間にある洞窟じゃったかの」
「それ、ダンジョンとか言わないよな?」
「ダンジョンではないぞ。地下迷宮にいきたければ、結構遠出しないと無理じゃな。この辺りは辺境といっておったじゃろう、ダンジョンがあるのは古代王国の遺跡か、もっと禍々しき魔素の濃い場所だけなのじゃ」
あるんだ、ダンジョン。
「ダンジョンに潜ると金銀財宝がざっくざくとか?」
「そんな話などある訳なかろう。古の王国が作り上げたというダンジョンには莫大な財宝が眠っておると言われておるが、確かめた者はおらんのじゃ。それ以外のダンジョンとなると、多少は珍しい物は手に入るかもしれぬがソウマが行くほどの物ではないぞ?」
「余程希少なものでない限り、買った方が早いって事か。……古代王国のダンジョンに関しては、宝を見つけても黙ってるからじゃないのか?」
「一度遺跡タイプのダンジョンに潜ると、余程浅い場所で引き返さぬ限り数ヶ月かかると言われておるからの。深層まで潜って帰還するものがおれば、すぐにその噂は広まるのじゃ」
数ヶ月って、食料とかどうするんだろ? 遺跡だから中に何かあるのか?
「食事とか休む場所とかあるのか?」
「よくは知らんが、割と食える魔物がいるそうじゃな。極限状態であれば、どんな魔物でも美味しく食えることじゃろう」
「流石に魔物をって……、剣猪クラスの魔物を倒せばしばらく持ちそうだし、アレを魔物だって考えるとアリなのか?」
最初は魔物を食料ってインパクトだけで考えたけど、そういえば俺も割と魔物食ってるよな。
突撃駝鳥は柔らかくなるまで煮込んでも味が完全に抜けないから、シチューとかにホント重宝するんだよね。
「ダンジョンの話はいいじゃろう。今はそれどころではないしの」
「そうだな。とりあえず俺はダンジョンに行くことはなさそうだしな。金を稼ぐだけだったら商人で稼げばいい」
それに、ダンジョンの中がどの位広いかは知らないが、必殺技を使ったらダンジョンごと破壊しそうな気がするしな。
「話は戻すのじゃが、水晶の樹の種を手に入れる為に南の森に行く許可を取らねばならんじゃろう」
「そうだな。以前だったら無視していくところなんだけど、色々しがらみが増えちまったからな……」
「わらわたちが短時間足を踏み入れただけであの竜が来るとは思わんが、あの竜を再び呼び込むような真似は避けたいのじゃ。今回は仕方がない事じゃが」
「という事は、ヴィルナは十年前から南の森にはいってないのか?」
「南の森にはいっておらぬな。西の森……、といっても隆起しておらぬ場所じゃが、南の森と繋がっておる場所があるのじゃ。そこまでしかいっておらぬの」
そういえば、このアツキサトはもともと森のど真ん中にある平地か何かだったって聞いた記憶がある。
だから一部は繋がってるっぽいけど、それぞれの森にいる魔物は行動範囲が限られてるって話だ。それぞれの群れの縄張りみたいなものだろう。
「俺は南の森に飛ばされたけど、半日程度だったからよかったのかな? あの廃村には朝までいたけど」
「何日も歩き回っておらねば大丈夫じゃと思うのじゃがな」
「いざとなったら変身して何とかしてみるよ。勝てると思うけど、最悪の状況でも二度と南の森に近付かない位トラウマを植え付けてやれるだろうし」
トドメをさせなかったとしても、ズタボロになるまで斬り刻めるだろうしな。
余程いい餌場でなけりゃ、もう二度と近付いてこないだろう。
そもそもその竜の目的が分からないんだよな……。単に生き物を食い殺す目的だったら、十年前にアツキサトを襲わなかったのも謎だしな……。
「あの竜を倒す時は、傍に居させて欲しいのじゃ。父様と母様の敵が討たれる瞬間は、この目に焼き付けておきたいのじゃ」
「可能な限り対処するけど、ヴィルナがいないときにいきなり遭遇した時は諦めてくれよ」
「その時は仕方ないとあきらめるのじゃ。仇を討てただけでも良しとせねばならんじゃろう」
アルティメットクラッシュを放った場合、ヴィルナが傍にいたら巻き込むだろうしな……。他の技で倒せればいいんだけど、確実にとどめを刺せる技はヤッパリあれしかないだろう。
「とりあえず冒険者ギルドにいって、必要な物が揃うかどうかの確認?」
「いや、依頼を受けた以上は南の森への侵入許可以外はこちらで用意するのが筋じゃ。絹蔓で作った縄であれば、雑貨や建材を扱っておるそこそこ大きめの商会であれば何処でも売っておるじゃろう」
「それもそうか。受ける前だったらまだしも、受けた後で色々要求するのは筋違いだな。入手が無理な物は仕方が無いんだろうけど」
「手に入れられるかわかりもせぬのに依頼を受けるのは愚か者なのじゃ。石胡桃などの依頼でよく見かける光景じゃな」
あいたたたたっ、なんかこう……、刺さったような気がするな。あの時ヴィルナがいなかったら苦労したと思うし。
「あの時は結果的に手に入っただろ。東の森の奥まで行かなきゃいけなかったけどな」
「あの広大な東の森にある石胡桃の木を見つけるのは苦労するのじゃ。ソウマであればわらわがおらずとも見つけたと思うのじゃがな」
「期限は無かったから数日かけただろうな。あの状況だったら一週間くらいは猶予がありそうだったし」
石胡桃もプラントに植えてあるから、今は最高品質の物が入手できる。それを納品するのもどうかと思うし、いまさら石胡桃の納品をする必要もない気がするけどね。新米冒険者の仕事を奪うのは良くない。
「そういう事じゃな。冒険者ギルドに南の森へ入る許可を貰う事と、町で絹蔓の縄などを手に入れる事じゃ」
「すぐに許可は出ると思うけどね」
男爵からの依頼だしな。
さて、後の問題はどこの商会で絹蔓の縄を買うかだ。商人ギルドで買ってもいいけど、たまには他の商会で買ったりするのもいいだろうしな。
となると、あそこか?
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告、いつもありがとうございます。チェックしきれていない部分もありますので本当に助かっています。




