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第七十六話 連れて行って巻き込むのが怖いからな……。今回は完全に俺の我儘だ

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 ヴィルナの為の食事は冷蔵庫に一日分保管しておいた。


 普通この冷蔵庫に一杯だと数日持つはずなんだけど、ヴィルナの場合よく食べるからな……。ビーフシチュー風の牛テールスープを寸胴分用意してコンロの上にセットしておいたし、アレを温めてくれれば温かいスープも飲めるはずだ。


「俺は絶対に帰ってくるけど、ご飯だけはちゃんと食べててくれよ」


「そこまで心配であれば、連れて行こうとは思わんのか?」


「連れて行って巻き込むのが怖いからな……。今回は完全に俺の我儘だ」


「ここでそれを言うてくるのか……。必ず帰ってくるのじゃぞ。絶対じゃからな」


 まるで今生の別れみたいじゃないか。大丈夫、ちゃんと帰ってくるさ。


「俺の移動手段だったら、オウダウまで半日もかからない。どんなに遅くても明日には帰ってくる。お土産は買ってこれないだろうけどな」


「ソウマの力は信じておる。じゃから……絶対に帰ってくるのじゃぞ」


 そこまで念を押される事じゃないんだけどな。最悪、取り巻きの針山羊(ニードルゴート)は無視して、ナイトメアゴートだけ倒して帰ってくればいいんだし。


「それじゃあ行ってくる、シチューはちゃんと温めて食べろよ」


「出かける間際に言う言葉がそれか? わかったのじゃ、ちゃんと温めて食べるからの」


 思わずヴィルナの頭に手を置いてしまった。子供扱いしてるみたいで悪いかな?


「のじゃ……」


「ん?」


「ダメなのじゃ!! 絶対帰ってこないとだめなのじゃ!! もう、あんな思いはごめんなのじゃぁぁぁっ!!」


 うわっ!! なんだ? 割とヴィルナはこういう事に理解があると思ってたんだけど、置いて行かれるのがそんなに嫌だったのか?


「どうしたんだ、急に。大丈夫、絶対に戻ってくるさ」


「あの時、父様も、母様も、同じ事を言って戻ってこなかったのじゃ。あの竜を……、南の森に招いたのはわらわのせいなのじゃ」


「あの時? 十年前の事か?」


「南の森で暮らしておったわらわは、父様や母様の言いつけを破って、一族が隠れておった聖域の結界の外に出て森の恵みを食べたり、小動物と遊んでおったのじゃ。そして十年前のあの日、わらわが残した匂いを辿ってあの竜が南の森へ来たのじゃ」


 前にダリアが魔素が濃いけど神聖な森とか言ってたし、ヴィルナはその神聖な力を持つ一族か何かなのか?


「一族の者は総出で魔物の討伐に向かった。今のわらわよりももっと強力な術を使える者も大勢いたのじゃ。それでも、誰一人として戻って来んかった。かすかに聞こえた父様と母様の断末魔の後に響いたあやつの笑い声を、わらわは生涯忘れぬ。父様と母様を生きたまま食い殺したに違いないのじゃ」


「ヴィルナはよく無事だったな」


「結界の奥に僅かに聖域が残っておったのじゃ。そこに籠って泣きながら三日ほど震えておった。奴の姿は遠目に一瞬だけ見えたのじゃが、結界のおかげでわらわは見つからずに済んだのじゃ。そして奴の気配が消えた四日目の朝に森へ行くと、木々が薙ぎ倒され森の小動物すらほとんどいなくなっておったのじゃ……」


 あの薙ぎ倒された木とかはその時の物か。たぶんヴィルナが何処かに隠れてると思って探してたんだろうな……。


「いまだにあの状態だしな……」


「聖域に身を隠しながらわらわは数年あの森で暮らしておった。あの竜に襲われたのかは知らぬが森の近くに商人の荷馬車が残されておってな、そこから服や食料などをアイテムボックスにしまってそれで凌いでいたのじゃ」


「最初にあった時の服とかか。その馬車も襲われたんだろうな……。アツキサトが襲われなかった理由があるんだろうけど、今となっては知るすべもないな」


「あの時、最後に父様と母様が結界を出る時、頭を撫でて必ず帰ると言ってくれたのじゃ。じゃが……」


 戻ってこなかった訳か。あのレベルの魔物相手だと無理ない事だろうけど……。ヴィルナはその一族って事は、魔物とかじゃない?


「俺は必ず戻ってくるよ。その時、俺の力の事を話す。だからヴィルナの事も教えて欲しい」


「分かったのじゃ。約束じゃぞ」


「ああ。指切りって知ってるか? こうして指を絡ませて……。約束だ!!」


 これで絶対に負けられなくなった。俺は必ずここに帰ってくる。もう二度と、ヴィルナにそんな悲しい思いをさせないために!!


◇◇◇


 特殊なバイクを走らせ、街道を北上する。オウダウが壊滅した話が伝わっているのか、王都方面に向かう商隊の馬車すら見かける事は無かった。


 最高時速で走ると俺が死ぬから可能な限りで走らせているけど、せいぜい時速百キロちょっとだ。


「くそ、オフロードバイクだからいいけど、この荒れた道は結構きついぞ。それにこの速度で飛んでる虫か何かにぶつかったら結構痛いだろうし」


(ヴリル)によるシールドが張られていますので、飛行物などとの衝突時のダメージはかなり軽減されます】


 流石に寿買(じゅかい)で買ったバイク。その辺のフォローは完璧ですってか?


 もう少し飛ばしてもいいか? 出来るだけ早くナイトメアゴートを倒したいしな!!


「四箇所目の駅舎を通過……、この辺りから速度を落とさないと危険か?」


 二時間ほどバイクを走らせてところで街道を南下してくる人を見かけるようになった。オウダウから逃げ出してきた人だと思うけど、徒歩だとこの辺りが限界なのか。


「オウダウから逃げてきた人はいますか? ナイトメアゴートの情報を知りたいんですけど」


「あんたあの化け物をどうするつもりだ? あの化け物はここから二つ先の駅舎まで迫ってる筈だ」


 二つ先の駅舎か。あと一時間ぐらいでなんとかなりそうか? 速度を落とした場合、倍くらいかかりそうだけどな。


「情報ありがとう。これにパンが入ってる、逃げてきた人で分けて食べてくれ」


「こんな大きな袋に……。いいのか? これだけの量のパンを貰っても?」


「とりあえずの食料だ。ここに辿り着いた人に配ってくれないか?」


 以前岩胡桃を集めた時と同じ麻製の袋の中にはバターロールが目一杯詰めてある。こんな状況も予測できたので用意してきたんだが、役に立ってよかった。問題は平等に分配されるかどうかなんだけどね。


「分かった、出来る限り協力させてもらう」


「頼んだぞ。……腹が減るのは辛いからな」


 ちゃんと配られてるかどうかは帰りに確認したらいいだろう。


 今は非常時だからな、人間の醜い面も割と出る状況だ。


 予測される接触時間は約二時間後、そこまで行かなくても接敵できるかもしれないな……。


◇◇◇


 避難してくる人を躱しながら街道を突き進む事、約二時間。


 ようやく目的のナイトメアゴートを発見した。といってもあの馬鹿でかい姿はもっと前から見えてたけどな。


 周りには食い散らかされた人の残骸が無数に転がっている。奴がここに留まっていたのは地面に滲み込んだ血を啜っていたからか……。


「この辺りにはもう生きてる人はいない。ここで変身して一気に奴を倒す!! セットブレス」


【セット、鞍井門(くらいど)颯真(そうま)。アクセス。セットアップ完了】


 敵が近くにいる為なのか、今回も変身用防護フィールドが展開された。


 シリーズ三作目あたりからいろいろツッコミが多かったのか、敵が近くにいた場合はこのシールドが張られるようになったんだよな。最初の変身の時の様に周りに敵がいないときには展開されないんだけど……。


「究極の勇気は此処に!! ブレイブ!!」


【アルティメットブレイブ。ベーシス!!】


 あれだけの針山羊(ニードルゴート)を従えてると思わなかったけど、少しは相手をしないといけないし……。そうだ!!


(エックス)十七式小銃!! これで数を減らしてナイトメアゴートだけ何とかすりゃいいんじゃないか?」


(エックス)十七式小銃に供給される(ヴリル)値が規定値を超えました。リミットを解除し、高出力の攻撃が可能となります】


 ……変身してるからか!!


 そういえば以前説明で使用者の(ヴリル)でなんとか言ってた気がするな。こっちの小銃じゃなくて、拳銃の方だった気もするけど……。


「まあいいや。針山羊(ニードルゴート)までの距離は二百メートルほど。威嚇射撃になるかな?」


 ここからじゃ当たらないだろうけど、試しに撃ってみるか……。って、なるほど。()()がこの銃の本来の威力って事か……。今までの威力って本当にかなり抑えられてたんだな。


 銃口から放たれた光弾はアニメとか特撮物で見るビーム兵器の様に一直線に突き進み、二百メートルは離れていた針山羊(ニードルゴート)を一撃で葬り去った。こんなもの町中どころか人工物が存在する場所ですら使えねえっての。


 取り巻きの針山羊(ニードルゴート)を壊滅させ、後は問題のナイトメアゴートと僅かな針山羊(ニードルゴート)を残すのみ。


「もしかして、変身してこの銃で攻撃すりゃナイトメアゴートも倒せる? 距離は十分、……いけるか?」


 無数の光弾がナイトメアゴートの巨躯を穿ち無数の穴をあけていく。


 でもおかしいな、さっきの威力だったら数発で倒せそうな威力の筈なのに、あいつに当たった時はかなり破壊力が落ちるぞ。場所によっては穴すら開かないし……。以前も感じてた違和感だけど、魔物に当たるとなんか威力が落ちる気がしてたんだよな……。


「とはいえ、百発以上撃ち続けたら流石に生きてないか」


 さっきまでは何とか立ち上がろうとしていたナイトメアゴートは完全に動きを止めた。念のために頭を完全に吹き飛ばしておいたからあれで生きてる事は無いだろう。魔眼の射程距離外だったのか、それとも変身してるから効かなかったのか、あまり強敵って感じはしなかったな。


 新種の魔物シリーズというか、人を貪欲に喰らってあのへんな喋り方をする魔物に比べて、このナイトメアゴートとか塩食い(ソルトイーター)は若干だけど弱い気がする……。


 系統が違うのか、それともほかに何か原因があるのかは知らないけど。


「ゲ!! エネルギー残量三十パーセント!! 変身した状態で今まで使ってた武器で攻撃しても、エネルギーを消費するって事か。これ、よく考えて変身しないと、ヤバい事になる可能性もあるな」


 ヒーロー物で主人公がギリギリまで変身しない理由もわかった気がする。


 さて、この大量の針山羊(ニードルゴート)の残骸と、ナイトメアゴートの死骸は回収して帰らないといけないだろうな……。


 適当に箱に詰めてからアイテムボックスに収納してさっさと帰るとするか……。この辺りはヒーロー物では映されない光景だよな……。




読んでいただきましてありがとうございます。

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