第六十四話 この世界の礼服とか持ってないし、とりあえずスーツとネクタイとかかな?
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三日後、カロンドロ男爵の館の晩餐会に行かないといけないんだが、どんな服装で行けばいいんだ?
どう考えても元貴族っぽいルッツァとかダリア辺りが詳しそうだが、奴らが確実にいる冒険者ギルドにはしばらく近付きたくない。というか、今の状況で会うのは奴らも十分すぎる程危険だ。
と、なると商人ギルドか……。問題はあそこに俺の料理の情報が伝わってるかどうかだが、冒険者ギルドの職員の中にはニコレッタがいたからパルミラ経由で話が伝わっている可能性は高い。多分スティーブンにも伝わってるだろうな。
「この世界の礼服とか持ってないし、とりあえずスーツとネクタイとかかな?」
【お得情報:高級スーツ一式を明日までに仕立てられます!!】
来たな、でも今回はありがたい。で、どの位だ? ……上から下まで一式で五百万円か。割と安くしてくれてる? 元はたかが布の癖に高級衣服ってほんと馬鹿みたいな値段なんだよな。
【布の品質が桁違いです。すべて熟練職人の作品ですので高くなりますが、元の世界基準でも格安で提供しております】
技術料がでかいのは分かってるよ。料理だって作る人の腕しだいで同じ食材が生ごみにも最高の料理にもなる訳だし。上から下までって革靴とかもセットみたいだ、これだけ高級品で揃えてればこの値段でも格安なのは間違いないだろう。流石にいつもの格好で行ったら失礼だろうしね。
「採寸とかはどうするんだ?」
【今までの購入データから基本データは揃っています。細かい身体情報もオートスキャンで終わらせてあります】
ちょっとまて。オートスキャン?
【異世界に転移した対象が身体に異常を起こさないように、転移当日から毎日オートで各種検査を行っています。現在異常は発見されていません】
なるほど。自動翻訳とかしてるから脳とかに負担が掛かってるのかもしれないし、大気成分なんかの違いや魔素や魔力の有無が身体に異常を起こさないか検査されてたのか。多分異常を起こしてたら何か情報がもらえたんだろうな。
大気成分……、魔力、俺の魔力の上昇……。もしかして、俺は今まで魔力の薄い場所から来てるから、身体の中に魔力や魔素を取り込みやすくなってる? 浸透圧的な感じで。
待てよ。この流れだともしかして、俺のステータスとか表示できたりするんじゃないか?
【ステータス表示などの機能はありません。身体情報としては血圧などのデータ以外は表示できません。現在の体温や血圧は正常値です】
表示してもらえるのは健康診断的な物だけか。採血無しだし血液データ以外って事だろうな。それでもこんな世界に来てるんだからありがたい。いまさらな気がするけど。
「まあいいや。とりあえずスーツ一式を注文。靴は念の為に二足」
【明日の朝までには仕上がります】
明日の朝か……。ホントどうなってるんだこの世界の時間の流れは。
待てよ、俺がこの世界に来る前に頼んでた商品。あの日に届く予定だったラム酒とかは別として、予約注文してた他のおもちゃは届いてない。
この世界に来て四ヶ月くらい経過しているんだから、発売時期とか考えたら他のおもちゃもとっくに届いていないとおかしんだよな。でも、この前確認してみたけどまだ出荷されてなかったみたいだった。注文もキャンセルされてなかったから、やっぱりあっちの世界では発売されてないと考えるべきなんだろうな。
「つまり向こうの世界ではあれが発売されてないって事か。いつ届くんだ?」
寿買アーカイブで最終話まで放送されてたし、ほんとに時間の流れが分からないんだよな。ライジングブレイブの新シリーズ配信はまだだったけど。
アレが届いた時に調べればいいか。いつ到着しましたってメール位来るだろう。
「とりあえず明日スーツを着て商人ギルドまで行って、その恰好でいいか聞くしかないか。後は散髪? 普段は電動式のセルフ散髪機で整えてるけど、これで問題ないかな?」
「髪を触って何をしておるのじゃ?」
「あ、ヴィルナ。髪っていつもどうやって整えてるんだ?」
「ソウマがおかしな魔道具でしておる散髪とか言う物か? わらわは自分で毛先を整えておるだけじゃな。髪を切るサービスを専門にしておる店もあるが、普通は皆それぞれの家で切りそろえておるようじゃぞ。ソウマの様な魔道具はみた事も無いがの」
そういう物かな。貴族とかはお抱えの業者がいるんだろうし、普通の町人は家で済ませるのか。この辺りにはバリカンで丸坊主なんて風習もないけどね。それはさておき。
「今度晩餐会に行くだろ? この髪型で問題ないかなと思って」
「問題などないのじゃ。男で髪型を気にする者は、髪の量を気にしておる者だけじゃろうて」
「それは気になるんだろうけど、そこに突っ込むのは野暮なんだぞ」
髪の問題は当人にとっては深刻なんだからな。元の世界には育毛剤とかも物凄く売ってたし。
……この世界にも育毛剤があったりするんだろうか? ファンタジー世界だし、魔法で何とかできそうな気もするんだけどね。こう、【毛根よ蘇るんだ~!】的な魔法とか薬とか。
「明日は商人ギルドに行くのじゃろ? 今日は早めに風呂を済ませて寝るとせんか?」
「そうだな……。いや、もう少し用意しないといけない物がある」
「まだ何かあるのか?」
「料理だよ。今日の一件で商人ギルドが俺の出す料理の情報を持ってるとして、何も言ってこないと思うか?」
「最低でも遠回しに食わせろと言って来るじゃろうな」
「そういう事だな。最低でもビーフシチューは必要だ。後はパンも用意しとくけどね」
そうなんだよな~、そうなるとビーフシチュー位は用意していた方がいいだろうね。でも、どうせ食べるんだったら美味しい方がいい。バゲットにシチューを滲み込ませて食べると旨いんだよね。ご飯にかけるとハヤシライスっぽくなるけどアレも旨い。
以前作った肉が牛テールのビーフシチューはまだ大量にあるけど、冒険者ギルドで出した料理の方がいい気もするし。別の料理を用意するんだったら、いっそのことクリームシチューも作っておくか? この際だ、この辺りで酪農を始めないか持ちかけてみるのもいいかもしれない。話の流れ的に出さない可能性もあるけど一応という事で。
【クリームシチューも作成可能です】
調合で対応してるのは分かってるけど、クリームシチューもいろいろ問題があるからな。チーズを入れたり、生クリームを入れたりと、細かいレシピの数も凄いだろ?
【好みの材料を指定されますと、それを使って一番良い状態に仕上げます】
流石に調合機能。かゆい所に手が届き過ぎるぜ。
それともうひとつ、ご飯にクリームシチューをかけたクリームシチューライスはありかなしか。そこまでするんだったらいっそのこと別の器に入れてチーズかけてオーブンで焼いてドリアにしろって話になる気もするけど、シチューライスはあれで美味しいと思うんだよね。ん? ヴィルナが何か言いたそうだな。
「そこまで用意するのであれば、いっそのこと昼食を全部用意したほうが早いのではないか?」
「向こうから切り出してきたならともかく、押しかけて飯を振舞うってのも割と失礼な話なんだけどな。それにだ、俺の料理に慣れるとこの町での食事がつらくなる気はしないか?」
「……そうじゃな。わらわは既にこの町でパンを買うのも躊躇するほどじゃ。露店の料理もおいしいと思うんじゃがな」
「露店の料理は普通の食事と別枠というか、アレはあれって感じだからな。最近は塩味が強くなってるけど」
海の家とかお祭りとか屋台で食べる料理って、特別感があるからね。旨いとか不味いじゃない何かがそこには存在するんだよな~。
塩が安くなってるから、最近の露店の料理はかなり塩を効かせてあるんだよね。保存食も作り方の書いた紙とセットで幾つか用意しておくか? ソーセージとかハムとか……。
【ファクトリーサービスを使いますと、明日までに最低千キロのソーセージを作成可能です】
そんなにいらないんだよね。籠城とかしてる訳じゃないんだから。
でも十キロくらいは作っておくか? 俺が保存する分はアイテムボックスがあるからいいけど、売る分は冷蔵保存でも三週間程度しかもたないし売り物にするのは難しいよな。
干し肉の方がマシか? あっちは冷蔵保存だと数ヶ月は持つし……。塩田の時と同じようにレシピを売る方法もあるけど、あまりやりたくはないんだよね。でも、情報だけ流すのもアレだし。
「ではわらわは先に風呂に行ってくるとするかの」
「俺も後から行くよ。入れ違いになったらマズいから聞くけど、鍵は持ってるよな?」
「アイテムボックスの中にあるのじゃ。ほらこの様にの」
この家の鍵は寿買で買った特注なんだよな。元からある鍵はなんというか、金鋸があれば切って無力化できそうだったので、簡単には切れない素材の物を選んでいる。留守にする時は万が一の時に備えて防犯用ロボを起動させるけどね。
「それじゃあ安心だな。今日はどっちに行くんだ?」
「今日は大衆浴場の方じゃな。白うさぎ亭の風呂もよいのじゃが、あの大衆浴場の風呂もなかなかの物じゃしな」
大衆浴場の方は高級というよりも憩いの空間を売りにしているようで、あそこを使うと何とな~く落ち着くんだよね。あそこに電気マッサージチェアか何かあれば完璧って感じだ。
俺も準備が済んだら風呂に行くとするかな……。
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