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第六十三話 冒険者ギルドで受け取る報酬は、二人で分けるって決めただろ?

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。



 渋石料理が出来た二日後、ようやく俺の家に冒険者ギルドから連絡が入った。


 例の魔物討伐の報酬が確定したから受け取りに来て欲しいという事だけど、ヴィルナは今回の報酬を受け取りたくないとか言ってきたんだが。


「今から冒険者ギルドに行くわけじゃが、今回の報酬の半分をわらわが受け取る訳にはいかんのじゃ」


「冒険者ギルドで受け取る報酬は、二人で分けるって決めただろ? 以前の緊急討伐みたいにそれぞれに渡される場合は別だけどさ」


「今回わらわは何もしておらん。後ろで見ておっただけじゃ」


「オルネラを引き受けてくれただろ? ああいった行為も十分に必要なのさ。あの子を自由にさせておくと、想定外の事態が起こりかねないからな」


 ヴィルナが連れて下がらなければ、オルネラが下がり終わる前にあの魔物が行動を起こしていた可能性は高い。その場合はあの時以上に距離を詰められている訳で、ライジングブレイクは使えなくなる。かといって奴をシャイニングスラッシュモドキで倒せたとも思えない。


 素早く退避してくれたからこそあの距離を保てた訳で、その状況だからこそ俺は全力でライジングブレイクを叩きこめたんだしな。


「しかし、前回も今回もわらわはほとんど役に立っておらぬ」


「依頼中に誰もケガをしなかったからといって回復担当職が何もしなかったって言う奴は居ないし、他の担当でも同じだろう? 一度や二度そんな状況があっても気にしたらダメだよ。冒険者のパーティってそんな感じだろ?」


「それはそうなのじゃが……。最近のソウマは強すぎて、わらわの出来る事の方が少ないのじゃ」


「ひとりで生きてると辛いけど、誰かが傍にいたら違う。そう思わないか? そんな細かい事は置いといて、そろそろ冒険者ギルドに行くぞ」


「細かくはないのじゃがな……」


 本当に何もしないんだったら流石に俺も怒るけど、ヴィルナは森に行くといつも周りの気配を伺ってるし、剣猪(ソードボア)なんかも俺より早く確実に捕捉する。


 森や町で誰かから奇襲を受けない。これが精神的にどれだけ助かるか、ヴィルナは分かってないんだろうか? 前にもヴィルナにこれを説明したはずなんだけどね。


◇◇◇


「……なあ、俺たちマッアサイアの冒険者ギルド前にいる訳じゃないよな?」


「そのはずじゃが、これは異常じゃな」


 扉越しとはいえ、中から冒険者の声が聞こえない。いつもはうるさい位にここまで声が漏れてるし、こんなことはない筈なんだけど……。


「とりあえず中に入ってみないとな。お、何だ今日はみんなおとなしいだけなのか?」


「あ、クライドさんお待ちしておりました。あの、……領主のカロンドロ男爵様の使いの方が来ておりまして」


「あなたがクライド様ですね。私はカロンドロ様にお仕えするグリゼルダという者です」


 メイドさんだ!! ホントにメイドなんて存在してたんだ!! ちょっと表情はキツイけど、有能そうな人ではあるよな。あまり顔を見続けてるとヴィルナが怖いからこの辺りにするけど……。


「俺が鞍井門(くらいど)です。あの、何か用でしょうか?」


塩食い(ソルトイーター)と今回姿を見せた魔物の討伐の件で、カロンドロ様から書状を預かっております」


「ありがとうございます。今確認した方がいいですか?」


「お願いいたします」


 丸まった羊皮紙には、今回の討伐のねぎらいの言葉と、報酬を少し上乗せしたことがかかれていた。その部分は問題ないんだが。


「あの、ここに書いてある、晩餐会への招待って何ですか?」


塩食い(ソルトイーター)討伐の勇者への褒美と聞いております。期日は三日後の夕刻です」


 ああ、もう決定事項なのか。そうだよな、断る理由が無いんだけど、この世界の晩餐会ってあまり期待できそうにないんだよな……。スティーブンの知り合いっぽいから、ダメって事は無いんだろうけど。


「分かりました。その日の夕刻、屋敷に伺えばいいですか?」


「ご自宅まで馬車を向かわせます。先日借りられたあの家で間違いありませんか?」


「はい。間違いないです」


 もう住んでる事を調べてあるのか。最初のあの状況だとまだ住んでない可能性もあっただろうに。ああ、だから今の質問なのか。寝泊まりしてる場所が白うさぎ亭って可能性もあるから。


「では当日に、私はこれで失礼いたします」


「わざわざすみません。お疲れさまでした」


 後は振り向きもせずに冒険者ギルドから出て行った。なんというか、その瞬間冒険者ギルド内の空気が一気に緩んだ。今日は冒険者の数が少ないのも、あの人がいたからなんだろうな。いつもはもう少し多い冒険者が、全部で十人位しかいない。


「すいません、報酬の受け取りをお願いします」


「ああ、すいません。えっと」


「今回の報酬は六十万シェルです。こちらが金貨六枚になります」


 塩食い(ソルトイーター)の半値。とはいえ、塩の生産地で甚大な被害を出したあいつの半分って相当な評価だ。


「額から考えると、わりと深刻な状況だったんですか?」


「大きな村が幾つも壊滅していますし、もしこの町に現れた場合はその……」


「この町も壊滅していた可能性もあるって事ですか」


 そりゃこのくらいの額になるな。


 あの魔物がもう少し北ルートを通ってきていたら、あの森を通らずに北の街道沿いの村や町が壊滅してたって訳か。


「それに、あの西の森で森桃や岩栗を独占していた冒険者の方々も……」


「あいつらは全滅だろうな。そろそろ顔を出してもいい頃なのに見かけないし」


「そうなのか?」


「同じ冒険者とはいえ、あいつらの行動はあまり感心するやり方じゃないしな。東の森を拠点にするだけの実力もないうえに、割と安全な西の森を拠点にして見張ってる森桃の木に別の冒険者が近付けば攻撃してくる奴らだ」


 それは同業者からも嫌われるな。


 とはいえ、そいつらが逆にあの魔物を引き寄せる餌になった可能性は高い。もしあの森に誰もいなければ、嗜虐性の高いあの魔物は街道を進んだだろうし。


「もう故人だろうし、その位にしてやれよ。金貨六枚、確かに受け取りました。はい、ヴィルナ金貨三枚」


「まったく、ソウマは……」


 受け取ってくれたから良しとするか。実際、ヴィルナがいてくれないといろいろ困るんだけどね。あの状況でオルネラを助けるには絶対に必要だっただろうし。


 貴族の使いがいたから騒ぐのも控えていたのか、酒場にいたルッツァたちがエールブクを頼み始めた。


「しっかし、流石クライド。貴族の使い相手でもいつもと態度が変わらないとはな」


「貴族の晩餐会か、豪華な料理が出るんだろうぜ」


「料理に関してはあまり期待してないけどな。流石にここには無い物が多すぎる」


 塩や砂糖はあるだろうけど、チーズとかの乳製品は無い可能性が高い。もし仮に異世界転生者と接触した事があったとしても、料理の再現は無理だろうしね。


「あ、そういえば例の渋石。酒のつまみにはならないだろうけど、こんなのがあるぞ」


「何だこりゃ? これが渋石? こっちの白いのもか?」


「渋石のクッキーと、渋石餅、このデカいのがコンポートだな、あく抜きした渋石をワインで煮た物だ。砂糖が入ってるから結構甘いぞ」


 並べてみると、丸ごと煮たコンポートの存在感がすごいな。皿の上にデカい石でも乗ってるみたいだ。


「最初はクッキーってのから……。んっ!! おいしいっ!! サクサクしてて、上に乗ってる薄切りの実もいい感じ」


「こっちの渋石餅も柔らかくて美味しいですよ。ちょうどいい甘さですわ」


「クッキーは美味いな、このコンポートって奴は、煮る前のワインを飲みたくなっちまう」


 ラウロはコンポートより、材料のワインの方が気になるみたいだな。そうか。この世界のワインみたいに薄めてないから、かなりワインの味が濃いんだ。


「どれも凄いな。ヴィルナがクライドの料理がすごいといった意味が分かった」


「クライド様は料理がお得意なんですか?」


「うぉぉっ!! あんた、まだいたのか」


 帰ったと思ったグリゼルダがいつの間にか後ろに立っていた。


 俺やヴィルナにも悟られないとは、身体能力が高いな。


「ひとつ頂いてもよろしいですか?」


「ああ。どれでも食べてくれ」


「ではまずクッキーから……。これは、最近売り出された物とは違いますが、控えめな甘さが良いですね」


 ああ、俺がギルドに卸したバタークッキーを買ってるのか。幾らで売ってるのかは知らないけど、あれもかなり高額で売り出してるんだろうけど。


「ここに出ておるのはお菓子じゃな。ソウマの料理はもっとすごいのじゃ」


「……いや、まあそうなんだけど」


 視線が刺さる……。ヴィルナ、今そのセリフは控えて欲しかったかな~。


 ビーフシチューだったら大量にあるからいいかな? 寸胴に入ったビーフシチューと木の器を二十個ほど出してと……。お玉で木の器にビーフシチューを盛り付けてっと……。


「ビーフシチューです。あの、他の人もよかったらどうぞ」


 ルッツァ達だけでなく周りの冒険者はもちろん、匂いにつられたのかギルド職員まで集まってきた。仕事はいいのか?


 全員で二十人くらいだったし、器も小さいから余裕で全員分ある。まだ誰も鍋に手を出してこないのはグリゼルダが食べるのを待っているんだろうな。


「この香り……、んっ!! クライド様は普段からこのような料理を食べておられるのですか? 信じられません!!」


 恍惚の表情でビーフシチューを食べるグリゼルダを見て、ルッツァたちの視線がビーフシチューの鍋に釘付けだ。匂いも殺人的だろうしな。


「はい。ああ、ルッツァ達も食べてくれ」


 寸胴に入ったビーフシチューを器に注いで全員に手渡す。ルッツァが食べ始めると、周りの人も全員スプーンでビーフシチューを食べ始めた。


「うめぇぇぇぇっ!! こんな料理食った事が無い!! 実家にいる時でもこんな料理は食った事も無いぞ!!」


「蕩ける様なお肉、濃厚なコクのあるスープ、野菜にも味が浸み込んでたまりませんわ」


「おいっしぃぃぃっっ!! ナニコレ!! ヴィルナって、毎日こんな料理作って貰ってるの!! ずるくない?」


「他にもいろんな料理を作ってくれるのじゃ。どれも美味いのじゃがな」


 ヴィルナさん。この状況で火に油を注ぐような発言は控えて欲しいんだけどね。ミランダやダリアはまだ大丈夫だけど他の女性職員とかの視線はかなり危険なレベルだし。


 猛禽類の群れのど真ん中にいるウサギかリスの気分だよ?


「晩餐会の料理は最低でもこのレベルにしないといけないという事ですね。急いでカロンドロ様にお伝えしなくては!!」


 器を置いたグリゼルダは今度こそ帰ったみたいだな。


 今は居てくれた方がありがたかったんだが。ん? 冒険者が俺ではなく鍋に殺到し始めた。


「鍋の中にはまだあるじゃないか!! 俺が食う!!」


「ちょっと待ってよ。私もまだ食べたいってば!!」


「ちゃんと並べ!! 残りは公平に分けないとな。大丈夫まだ一人一杯ずつはある。器を持ってそこに並べ!!」


 なんだかルッツァがおかわりに来た冒険者や職員を仕切ってるんだけど……。ミランダがおかわりを配ってるし。


 あの寸胴を取り戻すのは無理だな。


「ヴィルナ帰るぞ」


「分かったのじゃ」


 めっちゃあの寸胴にヴィルナの視線が刺さってるよ。ビーフシチューは後で食べさせてやるから!!


 そっとギルドを後にした俺たちは、全速力で冒険者ギルドから遠ざかった。


 はあ、次に冒険者ギルドに顔を出す時が怖い気がする。




読んでいただきましてありがとうございます。

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