第六十一話 大体何の事かは分かった気がするんだけど、西の森に変な魔物が出たって話か?
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楽しんでいただければ幸いです。
アツキサトの冒険者ギルド前まで無事に戻ってこれた。
オルネラをすぐに家に帰してやりたかったところなんだが、あの魔物の情報をここで話して貰わないといけない。もう二度とあんな魔物は出ないと思うが、新種の魔物の情報は冒険者ギルドに報告する義務がある。
「すまないがあの魔物に遭遇した経緯と能力なんかをここで話して貰わないといけない。つらいだろうが頼めるか?」
「はい……、わかりました」
「あの……。うわっ!!」
冒険者ギルド内は蜂の巣をつついた様な大騒ぎだ。受付の周囲にルッツァや割と活躍している冒険者が集まって職員から色々説明を受けている。
なんだ? また緊急事態か?
「西にあるニワクイナからの連絡では、既に幾つかの村が壊滅。迎撃に向かった数十人の冒険者も消息を断っています」
「こちらに向かっているという目撃情報が入った。そろそろ西の森に出現する可能性がある!!」
「前回の魔物とは別らしいが、今回も被害は甚大だ」
あ、なんか嫌な予感。
もしかして、さっきの魔物の情報がいまさら入った感じ? なんか、いまさらっと流れてる情報だけで、やっぱり相当やばい魔物だったってわかるんだけど……。
「おう、クライドもようやく来たか!! これで討伐メンバーは揃ったな」
「大体何の事かは分かった気がするんだけど、西の森に変な魔物が出たって話か?」
「はい。前回とは違う魔物という報告なんですが、西の国で発生した魔物がこちらに向かっているそうなんです。すでに多くの村が壊滅し、討伐に向かった冒険者が消息不明で……」
食われたんだろうな。あの魔物に。
「その魔物って、二メートルくらいの熊みたいな魔物で、顔が蟲っぽくて脇腹にも蜘蛛の足が生えてる奴か?」
「はい。その通りです。流石に情報が早いですね」
いや、情報が早いというか……。
「その魔物はついさっき西の森で遭遇したから倒したぞ。オルネラが先に遭遇してたらしいから、詳しい話を聞いてほしいんだが」
「……もう討伐されたんですか?」
「ああ。冒険者カードで確認してくれ」
「西にある貿易都市ニワクイナに所属する冒険者数十人が討伐に失敗した魔物ですよ?」
「その話は今聞いた。たぶん、正面から戦ったらヤバい相手だと思うぞ」
X十七式小銃のチャージモードで正面から撃ち続けても勝てたと思うけど、油断したら多分俺も食われていただろう。
はっきり言えば、確実にあいつに勝つにはわずかな隙というか、あの魔物が俺を警戒する前に、最強の一撃を食わらせるしかなかった。どんな攻撃をしてくるかわからない敵相手に、手加減なんてしたらこっちが食われるだけだ。
「あの魔物は、脇腹で生えている蜘蛛の足のような物で捕まえた動物とか人を、これくらいの木の実に変えて食べていました。その光景を目撃した私たちは一生懸命逃げたんですけど、ライも、ミルナも、ワーナーも木の実に変えられて……」
「襲われた村でも同様の報告があります。村人を捕まえて木の実に変えて食べていたそうなんですが、何といいますか木の実に変えた後でそれを家族や恋人にわざと見せつけて、嘲笑いながら貪っていたという話なんですよ」
「人を木の実に変えて喰らう魔物か……。聞いた事も無いぞ」
「私も聞いた事も無いよ。なんなのさ、ここ最近おかしな魔物ばかり見つかるんだけど」
それは俺も感じていた。少し前に西の国で発生した魔物とは別らしいけど、あいつも人を食うって話だったし……。塩食いもそうだけど、凶悪な魔物が多すぎるんだよな。まるで、人が苦しむのを楽しんでるかのような、そんな気がする……。
「やはり今回の魔物も新種なのか?」
「人を石に変えたりする魔物はいるけど、人を木の実に変えて食べる魔物なんて今まで聞いた事も無いよ。塩に変えて食べる塩食いもそうだけどさ」
「何かが起きていることは確かか……。そもそも原因となった事件は何だ? 新種の魔物が頻繁に姿を見せるようになった時期があるはずなんだ」
黒龍種アスタロトがいつこの世界に来たのかは知らないが、奴が元凶の一因である事は間違いないだろう。竜種を生み出す力といっても生み出せる竜種の形は様々だし、この世界で奴が竜種を生み出した場合、エラーというか奴が制御不能な魔物に変わる可能性もあるしな。
「この辺りだと十年前の竜が最初かな? あの頃は私たちもこの町に居なかったから詳しくは知らないんだけど」
「そうなのか……。他の場所だとどうなんだろう?」
「王都の近くにある都市で人を石に変える魔物の話は聞いた事がある。あの魔物も新種なのかもしれないな」
「いろんな場所で事件が起きてるんだな」
「新種の魔物はどいつも強敵で、倒せる冒険者の数が少ないのが問題だ」
実際、あの手の魔物を確実に倒せる人って、ライジングブレイブの雷牙勇慈くらいしかいないんじゃないのか? 他の人も来てれば話は別だろうけど。
正直、俺は必殺技を二つ持ってるだけだから、あの手の化け物の相手を続けるのは無理だしな。
「この町の周辺で新種が見つかったら、とりあえずクライドに任せるしかない」
「ちょっと待て。なぜ俺?」
「適任じゃないかな? 塩食いも今回の魔物もクライドが倒したんだよね?」
「たまたまうまく行っただけだ。毎回勝てる保証なんてないぞ」
あの技……ライジングブレイクだって毎回通用するわけじゃないだろう。もうひとつのシャイニングスラッシュモドキも相手次第だしな。
「クライドさん凄く強かった。まるでおとぎ話の勇者様みたいで……」
「オルネラ、冒険者の手の内はあまりしゃべらないようにね」
「おとぎ話の勇者様……、ねえ!! いったいどんな方法で魔物を倒してるのさ!! そのあたり詳しく聞かせて欲しいんだけどな~。ねっ、ねぇっ!!」
「離れるのじゃ!! まったく、おぬしはそうなると手におえぬのじゃな」
「面目ない。俺が手綱を握りきれてないんだ」
このやり取りも最近恒例になりかけてるな。まったく、ダリアのあの好奇心は何なんだ?
「ダリアはそのおとぎ話の勇者様にあこがれて冒険者になったそうだ。親兄弟の反対を押し切ってな」
「ルッツァ、それはいいっこ無しだよ!! 恥ずかしいからっ!!」
「冒険者になるきっかけなんて人それぞれだろう? 力を求める奴もいれば地位や名声が目当ての奴もいるだろうし」
「その通りだ。まったく、ルッツァも人が悪いな」
しかし、あのダリアがまさか勇者様にあこがれて冒険者になったとはね。以前魔法学校に通ってたって言ってたし、いいとこのお嬢ちゃんなのかもしれないな。
「クライドさん、討伐の確認が出来ました。照会の結果、依頼にあった魔物で間違いないという事です」
「それはよかった。あんな魔物がまだいるかと思ったらぞっとするぜ」
「討伐報酬なんですが、他の冒険者ギルドや貿易都市ニワクイナなどで話し合っている最中でして、数日中にはお支払いできるとおもいます」
こんなにすぐ討伐されるとは考えてなかったんだろうしな。
仕方がないか。
「大丈夫ですよ。報酬が確定しましたらお願いします」
「あのセリフをサラッと言えるクライドが異常なんだよな。冒険者なんて報酬の一部でもいいから先に支払えって奴ばかりなのにな」
「あれだけ稼いでるからじゃないかな? 今日西の森に言ってたのも渋石を取りに行ってたからでしょ?」
「子供用のおもちゃか? 気が早いな」
「断じて違う!! 渋石の実を使った料理は報酬を受け取る時に食わせてやるからな」
最低でも粉にしてクッキーくらいはできるだろう。あれだけ大きいといろいろ使い道は多そうだけどね。
「食べてみたいけど、なんだか食べたくない感じ? あ、先にルッツァが食べてくれれば大丈夫かな?」
「昔ならともかく今のリーダーの舌があてになるか。ミランダに味見して貰った方が確実じゃないか? 最初に食うのはリーダーでいいけど」
「お前ら。あとでちょっと話があるからな。あ、後、オルネラは俺たちが送っていくからクライドは帰ってもいいぞ」
「すまないな。頼んだ」
流石にルッツァでも言いたいことがあるようだな。
「ソウマの料理がまずい訳は無いのじゃ。食べて驚くがよいのじゃ」
「不味い物は持ってこないよ。渋石の実を使うとなると、あまり酒のつまみにはならないようなお菓子になると思うけどね」
「はいは~い。私食べる、一番最初に味見しま~す」
そしてダリアはめっちゃ正直だった。というか、周りの女性冒険者や職員からも妙な視線を感じるんだが。もしかして大量に作ってきた方がいいパターン?
甘露煮やコンポートは失敗しないと思うけど、粉にしてクッキーとかにした場合はどうかな? あのでかさだと甘露煮も難しそうだけど。中まで砂糖を滲み込ませるのに時間がかかるきがする。
とち餅ならぬ渋石餅は割とおいしい気がするけど、作ってみないと分からないしな。
とりあえず数日後だな。さて、どの位の量ができるか……。
読んでいただきましてありがとうございます。