第六十話 加工して遊ぶには少し大きい気がするな。ドングリ位だったら可愛げがあるが、これは砲弾レベルだろう?
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楽しんでいただければ幸いです。
やってきました西の森。ここに来るのは鎧狐の一件以来だけど、あの時倒した木とかはすでに回収されているというか、誰かに持ち去られた後だった。
話に聞いていた通り誰もこれを拾わないのか、ちょっと歩くと渋石の実がゴロゴロしている。いくつか拾って鑑定してみたけど、やっぱりドングリと同じようにいろんな木の実を渋石と呼んでるっぽいな。渋石の実って言うとドングリの実っぽくてゴロが悪いけど、できるだけ渋石の実と呼ぶようにするか。渋石っていうと、なんだか石を拾ってる気分になるし。
「それを拾う冒険者の主な目的は子供のおもちゃじゃ。後は弓の練習に使う的代わりじゃな」
「加工して遊ぶには少し大きい気がするな。ドングリ位だったら可愛げがあるが、これは砲弾レベルだろう?」
いろんな木の実があるけど、だいたい直径約六センチ、高さ十センチの大きさの実だぞ。どんな玩具に加工するんだろ? コマを作るにはちょうどいいかもしれないけどな。
「中身をくりぬいてとんがった方に紐を通して遊ぶそうじゃ。他にもいろいろあるとは聞いておる」
「笛系とかの楽器にもなりそうだし、確かに遊び道具にはいいかもしれないな。今回は別目的だけどね」
どれが美味しいかわからないけど、とりあえず大量に拾って帰ろう。渋石はホントにゴミみたいに落ちてるな。形は多少違うけど、この中に岩栗が混ざってたらわかりにくいのは確かだろうな。
「この辺りには岩栗は無いのか?」
「岩栗を拾うのはこの辺りではだめじゃろう。木はいくつもあるが粗方採り尽くされた後じゃ」
「木の上の方にイガが幾つか見えるけど、アレはまだ熟してないって事か」
「そういう事じゃな。石胡桃と違って岩栗は熟して落ちた実を拾うのが良いのじゃ。風で落としてもよいのじゃが。アレは当たると痛いのじゃぞ」
見た感じ凶器だしな。アレが頭に直撃したらさぞかし痛い事だろう。風で横から飛んでくるとか考えたらぞっとするぜ。
当たった場合、痛いで済めばいいけどな。
「この時期の冒険者は森に入る時に頭を護る防具を身に着けるそうなのじゃ」
「ヘルメットとかあると安心って訳か。……防弾ヘルメットでも買って装備しておくよ。ヴィルナは大丈夫なのか?」
「わらわは落ちてくる木の実に当たるような真似はせんのじゃ」
そりゃそうか。ヴィルナは問題なさそうなので、問題のある俺は寿買で特殊繊維の防弾ヘルメットを買った。この特殊繊維は軽いのに鉄より丈夫らしい。並んでた装備はどれも氣対応って書いてあるんだけど、対応してないと問題でもあるのか?
「これで安心。今まで頭部を護ってなかったのも間抜けな話だった」
「怪我には気を付けて欲しいのじゃ」
「色々手に入れたから攻撃力は上がってるけど、俺自身の力は上がってないからな。火の魔法も……、発火!!」
練習の時と同じ感覚で発火を使ったんだけど、蝋燭の火どころかサッカーボール大の火の玉が掌の上でオレンジ色の炎を纏っていた。めちゃめちゃ熱そうだな。
「それを投げれば火炎弾じゃな。……ソウマの魔力が上がっておるようなのじゃ」
「敵を倒してレベルアップとかはない筈だし、なんで魔力があがったんだろう?」
「魔力は減らして回復を続ければ少しづつ増えていくのじゃが……。毎日魔力が尽きる位まで訓練を続けておったのか?」
「いや。そこまでは練習してないけど……」
魔法の練習は毎日続けてる。発火は危ないから、懐中電灯の代わりになる朧灯という魔法で練習してたけどね。
にしても、おかしいんだよな……。
「最近は戦う機会も多いし氣が上がっておるのかもしれんが、それにしては魔力の上がり方がおかしいのじゃ。ソウマに魔法の才能があったのかもしれんがの」
「俺に魔法の才能か……。強くなるために練習は続けてみるよ」
「それ以上強くなられると、わらわの立場が無いのじゃが……」
「俺はヴィルナが強いから一緒にいる訳じゃないぞ。誰かと一緒にいるって事はそんなもんだろ?」
「ソウマはそう言ってくれると信じておるが、わらわの問題なのじゃ」
理解したつもりでも女心ってのは分からんもんだな。もっとも、長い経験で男には女心なんて完全には理解できないと思っちゃいるが。
◇◇◇
小一時間ほどでかなりの量の渋石の実と、そこそこの量の岩栗を手に入れた。しかしデカい栗だ、マロングラッセを作ったらさぞかし食いでがあるだろうし、ロールケーキとかに砕いて入れても一個で相当な量になりそうだぜ。
「この辺りには岩栗も結構な数が落ちてるな。しかし、……いくらなんでもおかしくないか?」
「ソウマも気がついておったか? これは異常じゃ」
この辺り……、正確には岩栗が大量に落ちているこの近くに来たくらいから感じていた違和感。この辺りには獣……、剣猪だけじゃなくて、周りにはリスなんかの小動物の気配すらない。
これじゃあまるで。
「この状況、南の森と同じか……。まさか」
「西の森は地形的に南の森とは繋がっておらん。此処にあの竜がいる筈は無いのじゃ」
そう、この森の最大の特徴。この広大な森は丘の上にあるというか、森全体がそっくりそのまま十メートルほど隆起しているんだ。そして一部を除いて割とおおきめの地割れが発生しており、特定の場所からしか出入りができない。ただし、空を飛べるんだったら話は別だ。
「例の竜は飛べるんだろ? 可能性はゼロじゃない」
どうする? というか考えるまでもない。採集はいったん中止して、町に引き返すのが得策だろう。確実に勝てるんだったらまだしも、今の俺たちが勝てる保証はない。
ん? ヴィルナの様子がおかしい。
「この気配はあの竜と同じ……。でも、なんとなく違うのじゃが……」
「ヴィルナ!! 町に引き返すぞ。例の竜は流石に今の俺たちの手に余る」
「ああ、そうじゃな」
ヴィルナはまだ姿を現してない竜の気配を感じ取ってたのか。という事は割と近くにいる? 急いでここから離れないといけないな。敵の情報が揃っていれば勝てる可能性があるだろうけど、今のままだと勝つのはたぶん無理だろう。
「助け……ああぁっ!!」
「ライッ!!」
「今の声は? 他の冒険者か?」
「近いのじゃ!! この辺りはまだ浅い森じゃし、駆け出しの冒険者がいるかもしれん」
あの声……、どことなく聞き覚えがあったしな。どうする? このまま逃げるか? それとも……。
「ヴィルナ!! 助けに行くぞ!!」
「逃げぬのか? 強い魔物に出会って狩られるのは不運ではあるが、冒険者をしている以上仕方のない事なのじゃ」
「だからって、見殺しには出来ないだろ? 無衝炎斬!! 氣チャージ!!」
氣がチャージされた予備カートリッジをショートソードの宝石部分に押し付け、内蔵されている氣を送り込む。ここまでする必要があるかはわからないけど、できる事はしておいた方がいいしな。
【氣チャージを開始します。……チャージ完了しました】
「これでいつでも必殺技の発動が可能だ。もし例の竜だったら、倒せば南の森が解放される訳だしな」
「あの技か……、確かにあれだけの威力であれば、あの竜も倒せるかもしれんが」
「実は今の俺が使える必殺技は二種類ある。前回のあれは近くで撃つと俺も死にかねないからな」
俺は変身してる訳じゃないから、高威力の必殺技は至近距離だと使えないって問題があるんだ。
特撮物みたいに爆発のど真ん中で無事って身体じゃないからな。状況次第でどっちでも使うけど、ある程度の距離が無いと使えない。
「向こうから来たのじゃ!!」
「助けてください!! みんながあいつに!!」
「オルネラ!! あいつ?」
「みんながあの魔物に……」
森の奥から不気味な姿の魔物が姿を現した。
身体だけ見れば二メートルくらいの熊に見えなくもないんだろうけど、あいつの脇腹には蜘蛛の足のような物が無数に蠢いていた。
顔も熊というよりは蟲に近い。目は網目の入った複眼だし、口は大きく開いて周りに牙みたいな物がびっしりと生えている。なんだこいつ? こんな魔物がいたのか?
「ガキヲイタブッテイタラ、何ヤラ新シイ獲物ガ見ツカッタ」
「しゃべるのか!! ヴィルナこいつって例の竜じゃないよな?」
「あの竜ではないのじゃが、こやつから同じような気配を感じたのじゃ」
「クハハハハハハッ、ナニヲ喋ッテオルノカハ知ラヌガ、オ前達モコンナ姿ニシテ喰ロウテヤロウ」
魔物が手にしているのは歪な形の大きな木の実。なんとなくディフォルメされた人の形に見えなくもないけど、まさか!!
「ライ!! いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ウマイ、ウマイゾ。貴様ノ仲間ハナァ!!」
「クソ外道が……。ヴィルナ、オルネラを連れてもう少し後ろに下がってくれ」
「……分かったのじゃ」
奴との距離は四十メートルほど。この位置にいる俺に爆風のダメージがどの位はいるか知らないけど、もうひとつの必殺技よりはあれの方が確実だ。
「ニガストオモウタカ。ヌ?」
「唸れ雷光!! フルバ――――スト!! ひぃぃぃっさぁぁぁぁっ……」
虚空から雷が生み出され、目の前の魔物をその場に釘付けにする。これを見るのも二回目だけど出鱈目な現象だよな……。
「動ケヌ!! 何ダ!! コレハッ!!」
「ラァァァァイジィィィング、ブレイクッ!!」
大気を焦がす電が空を走り、周りの木には一切干渉もせずに目の前の魔物だけを貫いた。魔物に纏わり付いた雷はやがて収束し、激しい閃光と共に爆散する。何度見てもすさまじい光景だ。
ライジングブレイクを放った後で姿勢を低くしていたから怪我をしなくて済んだが、この距離で使うのは十分に危険だな。俺が安全に使う場合は最低五十メートルくらい離れてないとダメか……。
「流石に生きてないか……。なんだ? この光は?」
爆発で生じた煙が晴れると、魔物のいた場所にはまたしても三つも魔石……。正確には二つの魔石とひとつの怪しい何かが転がっていた。そしてなぜだかわからないが、魔物のいた場所から光の玉のような物が天に昇っていく。正確な数は分からないけど百以上はあるか? なんなんだろうな、あれ。
爆心地から直径二十メートルほどは酷い有様だが、延焼なんかは無い。よかった、森林火災とか洒落にもならないからな。
「あの魔物を倒したのか? 流石はソウマなのじゃ」
「た、助けていただいてありがとうございます……。でも、みんなが……」
「あんな魔物相手だと仕方がない。オルネラだけでも助かったのは幸いだった」
「そうじゃな。あやつが嗜虐癖をもっておったおかげで助かったようなものじゃがな」
そう。あの魔物は明らかにオルネラを嬲って愉しんでいた。捕まえて食うだけだったら、あいつがこんな小さな子供を逃がす訳がない。
「死体が残らなかったからあの魔物の情報は冒険者カードで確認してもらうしかないな。さて、今日はもう帰ろう」
「はい……」
「二度も仲間を失うのはつらいと思うけど、生き残れた幸運は大切にしてほしい」
九死に一生を得るというか、死に目に遭いながらこの短期間で二度も生き残れたこの子は幸運なのか? 今回の一件はこの子に罪は無いが、オルネラがこういう悪運を呼び込む体質なのかは俺にはわからない。もう二度とこの子がこんな目に遭わない事を祈るだけだ。
周りに獣の気配はない。
しばらくこの森では剣猪を見ないかもしれないな……。
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