第五十四話 もしかしてそのつもりでリビングを掃除してたのか?
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楽しんでいただければ幸いです。
修繕作業を終え、さあ帰るぞと思ったらヴィルナが借家に戻ってきた。ん? なんだ? わざわざ俺を迎えに来てくれたのか?
「晩御飯はここで食べるのじゃ」
「……はい?」
「晩御飯は、ここで、食べるのじゃぁっ!! ソウマであればこの状況でも料理位できるはずなのじゃ」
「いや、確かにもう台所の魔道調理器は使えるから料理は出来るし、今作ってアイテムボックスに保管してる料理だけでも数日分くらいあるよ。でもこの家のどこで食べ……、そういえば、リビングだけやけに綺麗に掃除してあったな……」
鼻歌を歌いながら楽しそうに掃除してたからおかしいと思ったけど、これが目当てだったか。
「もしかしてそのつもりでリビングを掃除してたのか?」
「そ……そうなのじゃ。白うさぎ亭のご飯もおいしいとは思うのじゃが、流石にソウマの料理にはかなわないのじゃ」
「それは仕方がないだろ、俺が作る料理は売り物じゃないから採算度外視の味重視だ。それに材料とかが異次元レベルだからな。というか俺の元いた世界……、ここから見たら異世界の物を使ってるから異世界レベルだろうけどね」
牛肉は特にお気に入りらしく、最近はそこまで量を食べなくなったヴィルナがローストビーフを一キロも平らげた位だ。あれから二日に一回はローストビーフを出す羽目になったんだよな~。ローストビーフは確かに美味しいけど、俺はそろそろ飽きてきたぞ。
「あの香ばしい匂いのするローストビーフという料理がいけないのじゃ。あのような料理を出されては、白うさぎ亭で出てくる突撃駝鳥や剣猪の肉を普通に焼いたものでは物足りんのじゃ」
「牛肉が好きだったらローストビーフ以外に他の料理もあるし、まだ作ってない牛肉以外の肉料理もあるぞ」
「なん……じゃと?」
「俺のいた国は食に関しては本当に貪欲でな、家庭でもいろんな国の料理を作ったりするし、街に繰り出せばいろんな国の料理が食べられたんだ」
好みの問題もあるし、どの国の料理でも好きって訳じゃないけどね。
イタリア料理とか中華料理は割と好きな料理が多いんだけど、俺の腕の問題で作れない料理も多いんだよな~。作れる料理のレパートリーは割と多くて、バイトで作ってた料理は殆ど作れるけどね。
「ロ……ローストビーフの様な料理が他にもあるというのか?」
「ロースト系の料理も多いぞ。ラムチョップのローストとか美味しいと思うし……。鳥や豚でもローストすると美味しいしな。この家だとオーブンがあるからいろいろ作れるぞ。もちろん、それなりに時間が必要だから今日は無理だけど」
ラムの骨付き肉はステーキでもいいな。スペアリブもおいしいし……。
作りたいけど流石に今からだと夕飯が遅くなるし、その時間に白うさぎ亭に戻るのも大変だ。修繕作業をしたから風呂には入りたいしな。
「やはりここで食べるのじゃ!! 単純な煮込み料理や焼いただけの肉はもうたくさんなのじゃ!!」
「言いたい事は分かるけど、その煮込み料理も奥が深いんだぞ。本当は蒸す工程が必要なんだけど、以前出したトンポーロウもおいしいって言ってたじゃないか」
「煮込み料理……? あれも煮込み料理じゃと!! 煮込み料理とは、あの鍋で煮た料理を指すのではないのか? あれも肉がトロトロで最高じゃったのじゃが……」
ヴィルナ、よだれよだれ……。茹でて脂を落としてるとはいえ、割と脂身の多いトンポーロウをバクバク食べてたしな。というか、あれだけ大量に用意してたのに残した料理とかなかったよね? 野菜も割と食べるし。
「白うさぎ亭でよく出る、鍋系の料理だけが煮込み料理じゃないからな。むしろ煮込み料理なんて種類が多すぎだ」
「今日出せる料理もあるのか? 一品くらいあると嬉しいのじゃが」
「トンポーロウとローストビーフだったらまだあるし、唐揚げもまだあるな。今からだと流石に時間が無いから煮込み料理は作れないかな……」
【調合機能でしたら超短時間でビーフシチューが作成可能です】
そう来ると思ってたけど……。そういえば、調合機能の調理時間って明らかにおかしいよね?
飴とか塩の時もそうだけど、あの時間であの量を作るのは無理があるし……。
【調合世界は時間の流れが違います。短時間でも完璧な仕上がりを保証します】
ヴィルナが楽しみにしてるし、今回はビーフシチューを頼んでみるか。十人前くらい。残ったら次回に回せばいいし。
【作成を開始します。完成はニ十分後です】
は・え・ぇ・よ!! 絶対にそんな調理時間でできる料理じゃないからな!! ったく、これに頼ってるとそのうち料理は全部丸投げしそうで怖いな……。いやいや、調理機能に任せるのは二品までにしないとダメだ。それでも多いけどな。
「出来ぬのか?」
「……煮込み料理は一品だけな。ライスはチャーハンにするかな?」
「おお、できるのじゃな!! うむ。アレはスプーンでも食べやすくて好きなのじゃ」
他が肉ばかりだし、今日は蝦油を使った海鮮チャーハンにするか。下拵えが済んだ海老や貝類もあるし。中華料理は作るまで時間がかかるけど、下拵えが済んでたらチャーハンは割と短時間でできるしな。
それに帰りにイサイジュでキッチリ下処理をした鉄鍋もあるし……。鉄鍋を空焼きしてる時の他の商会の人のあの目は忘れない……。何やってんだこいつみたいな顔で煙をあげる鍋を見続けてたからね。この世界には鉄鍋が無いのか?
「俺の最高レベルの海鮮チャーハンを食べさせてやるよ。下準備は完璧だからすぐにできるぞ」
「それは楽しみなのじゃ。わらわにできる事は無いかの?」
「テーブルをその布で拭いておいてもらえるか? 三十分後には揃うと思う」
「分かったのじゃ!!」
さてと、全力でチャーハンを作りますかね……。
◇◇◇
盛り付けた料理は揃ったし、いつでも晩飯にできるな。調合ビーフシチューの出来が良すぎてちょっと凹むけど。
【他の素材はもちろん、最高レベルのフォン・ド・ボーを使用しています】
完全に専門店レベルだろ、それ。勝てる訳ないじゃん……。俺が使うのは缶詰のフォン・ド・ボーだしな。
テーブルにはステーキと見間違えそうなほど厚めに切ったローストビーフとその皿を彩るのはニンジンやブロッコリー。ビーフシチューがたっぷりと注がれた深皿、海鮮チャーハンがこんもりと盛られた皿、後は副菜のマッシュポテトとトマトとモツァレラチーズのカプレーゼ。ちょっと茶色が濃いけど彩的にはこんな物だろう。
「凄いのじゃ!! こんな短時間でこの様な豪華な料理が出来るのか?」
「幾つか反則メニューがあるけどね。ローストビーフは厚切りにしてみた、そこのナイフで切って食べてくれ」
「こうじゃな……。こ…この肉の旨味と絡み合うソースが堪らないのじゃよ!! やはりワインも全然違うのじゃ」
水で薄めてない赤ワインだしな……。比較的安いワインでもこの世界のワインより上なんだよな……。貴族が飲んでるのは違うのかもしれないけど。
「洋風と中華風がごっちゃな献立だけど、美味しいしこれもいいよね」
「このビーフシチューも凄いのじゃ!! 蕩ける様な肉と濃厚なスープが口いっぱいに広がるのじゃ。このチャーハンも以前の物より遥かに美味いのじゃが」
「今回のチャーハンはいろいろ手が込んでるからな。材料も道具も揃ってたし」
蝦油を使ってるから米の一粒まで海老の風味と旨味が浸み込んでるし、貝柱や細かく刻んだイカの食感も楽しめる。もちろん具の海老もぷりっぷりの新鮮な海老だ。
この家に設置されてる魔道調理器が高火力だったのも大きい。ほんと、誰が何の為にこんなオーバースペックなキッチンを作ったんだ?
「赤い野菜とチーズという物もおいしいのじゃ。ソウマの料理は本当に最高なのじゃ!!」
「ありがとう。作った甲斐があるよ」
美味しいを優先して作ってるからね。栄養バランスは知らない。
デザートは以前仕込んでいたイチジクの赤ワイン煮、……コンポートだ。果物のコンポートはこの世界にもあるっぽいけど、砂糖が高いからあまり甘くないらしい。これはしっかり甘みが付いてるから美味しいんだよな。他にもデザートは栗の渋皮煮とか数点を駅宿舎の調理場で作ってある。
「やはり我儘を言ってでもソウマに作って貰ってよかったのじゃ。ありがとう……なのじゃ」
「どういたしまして。忙しい時は手がかからないメニューになると思うけど、できるだけ作る事にするよ」
美味しんだけど、調合料理は控えめにしないとな。
さてと、念の為に傷薬も調合しておくか。なんだか今夜は幾つか必要になる気がする……。
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