第五十三話 やっぱりプロに頼んでリフォームして貰った方がよかったのか? でも、ここ借家だしな……
ここから新章になります。
楽しんでいただければ幸いです。
塩食いを討伐して既に一週間が経過した。しかし、この一週間は商人としても冒険者としてもまともに活動をしていない。というのが……。
「ソウマ。この壁も少しじゃが修繕が必要なのじゃ。隠れておるが、この棚の裏にヒビが入っておるようじゃな」
「そこもか!! やっぱりプロに頼んでリフォームして貰った方がよかったのか? でも、ここ借家だしな……」
【人の手より安全確実!! ナノマシン拡散型無人修繕ロボを取り揃えてます】
……最終的には買うかもしれないけど今は却下。というかオーバーテクノロジー過ぎるだろ。
【家屋の壁や床などの修復道具のお勧めを表示しています】
それはおとといも買っただろ!! 足りなくなったら買い足すけど……。
流石に家を買うと馬鹿高いので、割とこじんまりとした家を借りる事にした。そう、したんだが、これが廃村の家の方がましな状態で放置されており、家のリフォームは自由、ただしその代金は自腹という酷い内容だった。賃料が月に僅か百シェルだったからおかしいと思ったんだよな……。
ここまで安いと安宿を拠点にしている冒険者が借りるんじゃないかと思ったけど、流石にある程度信用が無いと貸してくれないらしい。俺の場合は顔パスだったけど、普通は冒険者カードとかの提示を求められるんだそうだ。
悪人が住み着いて、盗賊宿とかにされても困るって事なんだろうな。
「建物はそこまで悪くないのじゃが、内装などは大昔に建てられたままだったようじゃな。築三十年は軽く経っておるじゃろう」
「この町に人が増え始めてた時代に乱造された家のひとつって事か。そりゃそうだろうな」
十年前にあの竜が目撃されるまでは移住者の数も多かったらしく、その時代の建物はかなり多い。
この家はその中でもマシな部類らしいが、いかんせん内装までは手が回らなかったみたいだ。あっちこちに細かいガタが来ていた。
その為にこの数日、白うさぎ亭を拠点にしてこの家の改修作業に従事している訳だけど、一度手を出し始めると細かい所が目に付くっていうか、気になる事ってあるじゃん。
「いっそのこと新築を買った方がよかったのではないかの?」
「家買うと最低でも五万シェルだぞ? しかもかなり小さい家だ」
「ここを手直しするよりはマシじゃろう。ここまで手を入れた後では遅いがの。下見に来た時には巧妙に隠されておったし仕方ないのじゃが」
そう、最初に見た感じではかなりいい状態に見えたんだ。ある程度掃除もされてたしね。
でも、内装を詳しく調べると、壁に小さいけど穴が開いてたりヒビが入ってる場所が何箇所も見つかったんだよな~。しかも重そうな棚で隠してたり、小物とかで巧妙に隠されてたんだよ。よくある手だけどね。
「決め手はキッチンの状態だったから仕方が無いのかもしれないぞ。アレは流石にこの家には過ぎた設備だ」
「そうじゃの。魔道調理器があそこまで一式揃っておる家など他にはあるまいて」
この家のキッチンには魔道調理器が三口の高火力魔導コンロだけではなくて、大型の魔導オーブンまで揃っていた。他にもキッチンには魔導換気扇にでかいシンクが備え付けられており、戸棚や収納スペースも大きいうえに使いやすい。だれが何の目的で作ったのかも謎だが、家の規模にしてはやけにキッチンが広く作られている。
料理人が使っていたにしては壁とか床の状態がいいし、いろいろ謎が多い家なんだよな~。
「同じ規模の台所がある家の値段を聞いたけど、この規模になるとかなり大きな家になるらしくて、最低でも月一万シェル。しかも部屋数が二十以上ある大豪邸になるそうだ。あんな家なんて、掃除なんかの維持の方が大変だよ」
「そうじゃろうな。この家はこじんまりとしておるし、住むにはちょうど良いかもしれんしの」
部屋数は二階建てなのにキッチンを除けば残りの部屋はわずかに五部屋。一階のリビングと客間、それに寝室を除けば二階に小さな部屋が二つある位だ。この世界の家にしてはやけに少ない。廃村の家でも部屋数は倍以上あったぞ? 俺としてはこのくらいの家の方が落ち着くんだけどね。
台所で作ったご飯は居間で食べるとして普段くつろぐのは客間という事か。ヴィルナは寝室で寝てる事が多いから問題ない?
「割りとこの町が潤ってた時期らしいから窓もスライム板だし、いい家を紹介してくれたのは間違いないぞ」
「もっと良い条件の家はもう既に誰か住んでおるらしいから仕方が無いの。そう考えればここは借家の中でもいい方じゃろう」
この家の借り手が少なかった理由は、あのでかすぎるキッチンがネックになったとしか考えられないけどな。
この辺りの食糧事情から考えて料理人が家で新作料理の研究でもしない限り、これだけの設備は必要とされない筈だ。キッチンに結構なスペースを割かれてるおかげで、この家には風呂が無いしな……。
「人気の借家は大手の商会が押さえてるらしいし、商人ギルドが管理してる借家ってほとんどないそうだしね」
「ここの貴族と繋がりの強い商会が押さえておるのじゃろう。許可さえとれば畑なども作れるとは聞いたがの」
「西方面はもう穀倉地帯だし、畑作る人は北か東を選ぶしかないんじゃないの? どっちも水で苦労しそうだけどね」
この辺りは雨もあまり降らないから水はかなり苦労すると思うぞ。地下から汲み上げる方法もあるけど。
「水は魔道具でなんとかする事も多いのじゃ」
「この世界にはそれがあったか。水がなんとかなるんだったら苦労が少しは減るな」
【農作物の生産をお考えですか? プラントの作成を開始しますか? 今使用していないファクトリーサービスと組み合わせれば、原材料の生産から商品開発まで一括で全てを行えます】
来たよ……。特定のワードに反応してすぐ対応するって凄いよな。
プラント作ってフルオートにするとして、経費がいくらかかるって話になるよな? そんな機能は利用できないぞ。
【プラントを作成しますと、一番最初に購入する作物の種代以外は無料になります。商品化させる場合は、梱包材などの購入か納品が必要になります。また、プラントを複数作成する事でその問題が解決する場合もあります】
無料って……。麻とか木とかをプラントとかで育てて、それを麻袋にしたり木箱にするって事か。
この機能、プラントの作成数は無制限っぽいし、使い方次第でとんでもない事態になるぞ。
「ん? 突然どうしたのじゃ? 難しい顔をしておるのじゃが」
「あ、何でもないぞ。色々考えて、流石に農業までは手が回らないなと思ったんだ」
「あれだけ稼いでまだ事業拡大を考えておったのか? 普通の者であれば引退して後は悠々自適に暮らすのじゃ」
いや、流石に農業なんて片手間にできないからこっちではやらないよ。そんな暇もないし。
「悠々自適か……。なにもない人生なんてつまらないさ。のんびり暮らすのは爺さんになってからでいい」
「そうじゃな。……今日はこのくらいにして、また明日にせぬか?」
「後少しだけ補修したら今日の作業は終わるから、ヴィルナは先に白うさぎ亭に帰っててもいいぞ。あまりのんびりしてると、いつまでもこの家で暮らせないしな」
修繕を始めて今日で三日目。いい加減ある程度めどをつけたい。
「分かったのじゃ。ソウマもできるだけ早く戻ってきて欲しいのじゃが」
「ある程度修繕して、明後日位からはここで暮らしたいからな。まだ時間はあるし、作業を続けてみるよ」
この手の作業は昔家で手伝わされたことがある。ド田舎住まいだと色々できる事が増えるんだよな……。いい事も多いけど悪い事も多いが。
「では任せるのじゃ。任せっきりで申し訳ないのじゃが」
「適材適所じゃないけど、流石にこういった補修作業は経験が無いと難しいし、補修といってもある程度の補強と見栄えを治すだけだから」
業者レベルではできないけど、普通に住める程度にはするつもりだ。
「明後日からここで暮らすんだ。白うさぎ亭の食事で我慢するんだぞ」
「分かっておるのじゃ。何度も言うでない。先に戻っておるからの」
白うさぎ亭の食事も悪くないけど、流石に俺が作った採算度外視の料理に敵う筈もなくヴィルナはぼそっと不満を漏らしてたんだよな~。
流石に味が薄いのじゃは仕方ないと思うぞ。
さて、急いで修復させるかな……。
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