第五十話 流石に今日くらいは起きてると思ったんだけどな……
連続投稿中。
楽しんでいただければ幸いです。
今俺たちは港町マッアサイアの冒険者ギルド前まで戻ってきている。相変わらず今日もギルドの周りに冒険者の姿は見えない。この町にまだ活動している冒険者がいるのか怪しい位だ。というか依頼が無いから冒険者やってると生活できないのかもしれない。
塩食いの討伐後、火事にならないように十分な水と砂を撒き、さらに消火剤を撒き散らしていたら結構時間がかかってしまった。二時間かけてこの町に着いた時にはとっくに昼を回って、昼飯どころかおやつの時間の方が近いんじゃないかってくらいだった。流石に飯を優先したりしないけどな。
で、意気揚々と冒険者ギルドに辿り着いたら、今回は流石に床で寝てはいなかったが、ロザリンダは机に肘をついて気持ちよさそうに船を漕いでいた。
こ・こ・は・港・町・だ・し・な・っ!!
船を漕ぐのは得意ですってか!!
「流石に今日くらいは起きてると思ったんだけどな……。起きろ!!」
「はひぃっ!! 頭!! ちゃんと起きて……、あれ? クライドさん?」
頭ときたか……。最初にあった時から怪しいと思ってたけど、ここの冒険者ギルドってもしかしてあの人に乗っ取られてたりする? あまり意味はない気がするけど?
「討伐完了の手続きをしてほしいんだけどな」
「討伐完了ってぇ、もしかしてぇ?」
「俺が町に帰ってきた理由が他にあるかな? あいつの身体は完全に消滅したから、冒険者カードで確認してくれ」
ドロップアイテムというか、塩食いから出た魔石はあるけど、少し調べたいんだよな。ひとつ怪しい魔石が混ざってたし……。というか、一つは確実に魔石じゃなさそうだった。
「わわわっわかりましたぁっっ!! すぐ確認しまぁすぅ」
「アレでよく冒険者ギルドの職員が務まるものじゃな」
「いや。ああ見えてかなり有能だと思うぞ。ひとりでこの冒険者ギルドを運営するのは並み大抵じゃないだろうし」
よく見ると埃をかぶってたり、掃除に手が抜かれてたのは食堂や誰も使ってないスペースだけで、机の周りや仕事で必要な魔道具なんかは綺麗に整備されている。
入り口周辺とか目に見えるところくらいは掃除しといて欲しいけど、ひとりだと大変だろうしな……。
「依頼は張り出されておらんし、ここでの仕事なぞ掃除くらいじゃろう?」
「情報取集とかはかなりしてると思うぞ。でないと塩食いの情報をあそこまで詳しく知らないだろうし」
どこでどうやって……、というかあの情報は間違いなくグレートアーク商会経由だろうね。新しく作ろうとしてる塩田の方に来られても困るだろうし、この町が襲われたら洒落にもならないからな。
ここは塩の生産拠点ってだけじゃなくて砂糖の貿易港なんだからあそこの商会が本腰入れて守らないといけないのに、塩食いを放置してたのは今一つ理解できないんだよね。この町がつぶされたらどうするつもりだったんだろうか?
「かっ確認できましたぁ~。ホントに討伐成功したんですねぇ!! あのぉ、報酬なんですけどぉ」
「流石にここで受け取ろうと思ってないよ。この状態だと百万シェルなんて用意できないでしょ?」
「はいぃ……、受け取りはアツキサトの冒険者ギルドでお願いしますぅ……」
こんな状態の冒険者ギルドにそんな金があったら、その金を狙った盗賊とかが盗む可能性もあるだろうしね。
「これで塩問題の半分は解決か。流石にナイトメアゴートの方は他の誰かに任せるけど」
「あの魔物がいなくなったとしても、塩田が再生するまで塩の供給量は戻らんじゃろう。何年かかる事じゃろうかの?」
「多分数ヶ月程度さ。供給量が需要を上回れば塩が今よりずっと安くなると思うけど、しばらくはそんな事は無いんだろうな」
塩の生産量が増えればこの男爵領内だけで消費しきれなくなるだろうし、他の貴族の領地にまで販売先を増やしていくだろう。もう一つある岩塩の採掘場も問題があるとか言ってたし、最悪ここの塩田が国全体の塩の生産拠点になる可能性すらある。というか、ここの塩田に今までの数倍の供給能力を持たせる目論見は成功しそうだ。
「このままアツキサトへ戻るんじゃろうか?」
「アツキサトに向かうのは明日の朝だろうな……。海産物を少し買って帰りたいし」
ルッツァたちへの土産くらい買って帰ってもいいし、雑貨屋を回って怪しい魔道具が売ってないか確認もしたいしな。
「早くこの潮臭い町から出たかったのじゃが仕方がないのじゃ」
「とりあえず白イルカ亭で部屋をとったら、町を少し歩いてみないか?」
「そうじゃな。アツキサトにはない物もみれそうじゃ」
南国の町並みとか歩いてるだけでも楽しそうだしね。
討伐任務も終わったし、観光位してもいいだろうさ。
◇◇◇
無事に白イルカ亭で部屋をとれたので、ちょっと遅い昼食を軽く食べる事にした。白うさぎ亭みたいにガラガラって事は無いけど、常に満室って事も無いみたいだ。
「食堂の数も多いし、こんな時間なのに客の入りもそこそこあるのか」
「アツキサトとは人の数が桁違いじゃな」
港がある事を考慮に入れてもかなり広いし、ここって人口が十万人超えてないか? というか、いっそのこと過疎ってる上に竜の脅威のあるアツキサトから領都をここに移した方が、いろいろ有利な気はするんだけどね。遷都は大変だろうけど。
「ハマガイのワイン蒸しはいかがですか~。焼きハマガイもありますよ~」
「焼かれてる海産物が良い匂いをさせてるな……。露店で食べるのもいいかもしれない」
「そこのハマガイじゃな。向こうの魚もよいぞ」
「このハマガイはひとつ五十ビタ? という事は二つで一シェルか。何個食べる?」
「ここは一つずつでいいのじゃ。色々食べてみるのもいいじゃろう」
最近はヴィルナの食欲が落ち着いてきたというか、最初にあった時のように十人前近く食べるという事は無くなった。それでも二人前くらいは食べてるけど、俺もそのくらい食べるしな……。
この露店でワイン蒸しと焼きハマガイをひとつずつ食べ、続いてサザエっぽい巻貝の塩焼き、小魚の串焼き、少し辛目な海鮮スープといろんな屋台で料理を食べてみた。どれもおいしいけどやっぱり小魚は骨が面倒だな……。ヴィルナは気にせず骨ごと食べてたけど。
「肉料理が見当たらないようじゃが」
「港町だし、露店で売るなら入手しやすい魚介料理になるんだろうな。ガリンの実焼きってのはなんとなくバター焼きっぽいんだけど」
こうして実際に食べ歩かないと分からない事も多いよな。この町にはハマガイと呼ばれるハマグリっぽい貝のワイン蒸しやパスタ系の料理がある事が分かったし、アボガドよりもさらにバターというかマーガリンに近い風味のガリンという木の実がある事も分かった。ガリンの実は日持ちがしないらしくてこの辺りでしか使われてないそうだが……。
「めずらしい食べ物が多いのじゃ。これでこの臭いが無ければここに住んでもいいほどなんじゃが」
「アツキサトより料理の質は遥かに上だしな。いろんな国から物が入ってくるってのはやっぱり強い」
「あの蜂蜜という物は甘そうじゃったのじゃ。何故かソウマに買うのを止められたのじゃが」
「一キロ近い壺で千シェルだぞ? 蜂蜜が欲しいんだったら俺があとで探してやるよ」
露店に並ぶ貿易品の中には蜂蜜があった。あったんだけど、やはりこの辺りではかなり希少な存在らしくて、一キロほどの蜂蜜が小さな壺に入って千シェルもしていた。十万だぞ?
寿買で買うとキロ四千円位だしな。この世界の経済を回す為にはこの世界にある物を買った方がいいんだろうけど、どっちかというとここよりもアツキサトの方で経済を回したいんだよな……。ここは十分に潤ってるっぽいし。
「頼むのじゃ。ひとくちに露店といってもいろんな店があるのじゃな」
「この町の露店は並びがカオスというか、ほんとにごちゃまぜだけどね」
食べ物を扱ってる店にもおみやげ物っぽい小物などが売ってるし……。というかおみやげ物なんて買う人がいるのか? お。船乗りっぽい人がひとつ五シェル位するのに結構買ってるぞ。
「おそらく家族の為の異国土産じゃな」
「船乗りだと下手すると数年ぶりとかになるんだろうし、お土産はたくさん買って帰るのかな?」
「流石にわらわもそこまでは知らぬが、久し振りに家族に会うのじゃ。喜ぶ顔は見たいじゃろう」
「そりゃそうか……。思い出にもなるし買っておくのはいいかもしれない。……一応ルッツァ達とリタ辺りにお土産でも買っておくかな」
他のギルド関係者にはいいだろう。あいつらには塩食い討伐報告が一番いい土産だろうし。
「一緒に依頼を受けた事のあるルッツァたちはともかく、リタにも買うのはどうかと思うのじゃ?」
「白うさぎ亭ってほぼ家だしな……。リタだけだと問題ありそうだったら、全員分買って帰るけど」
確かあそこの従業員って二十人くらいだよな? 食堂や売店のバイト的な子もいたような気はする。
「それならば問題ないじゃろう。特別扱いはいかんのじゃ」
「そのあたりのお土産は適当に買い漁っておくか。買い過ぎてもアイテムボックスに入れておけばいいし」
足りないよりは余る方がましだ。ひとりだけ足りないとかって状況になると悲しいしな。
「色々あるようじゃな。これは魚の歯を加工した装飾品じゃろうか?」
「鮫の歯っぽいな……。同じ様な魚がこの辺りにもいるのかもしれない。こっちは貝殻を加工した物だな。小さな巻貝を加工した物と、大きな二枚貝を加工して磨いた物だ」
「へぇ。あんた詳しいね。この辺りの出身かい?」
「いや。違うけどこういった海辺で加工するものって似てるだろ? 珊瑚の指輪とか真珠の指輪とかさ」
「南方で手に入る珊瑚はともかく、真珠は運だからまず無いね~。少なくともこんな露店だと売ってないよ」
真珠は元の世界でも高かった気がするしな。
「いろんなものを売って……、このデザイン、もしかして?」
「なんだい? ああ、それは十三年位前に海に出た魔物を退治してくれた人が使ってた武器を元にデザインしてるんだよ。海から出てきた魔物を退治してたし、槍というか銛?」
「馬鹿でかいけど元は弓だよこれ。その魔物を倒す時にライジングファルコンって言ってなかったです?」
「言ってた!! なに? 君もあの時この町にいたの?」
……初代ライジングブレイブの必殺技に武器……。まさか……な。
「いえ、以前聞いた話をなんとなく思い出しただけですよ。あ、これください。あるだけ……」
「え? いいのかい?」
「ひとつ五シェルですよね? 大丈夫ですよ」
四十個くらいありそうだけど、全部で二百シェルだろ? 余裕余裕……。
「いや~ほんとに全部買ってもらえるなんて……」
「物凄い数じゃな」
「はははははっ」
ぜんぶっつったけど、バックヤードの分は普通出さないだろ!! その木箱なんだよ!! しかも同じ飾りが山ほど入ってるし!!
「…百九十八、百九十九、ちょうど二百個。千シェルだよ」
「千シェル……。はい、大銀貨一枚」
「へぇ。ホントにこれだけの金をポンと出せるなんて、双翼の指輪をはめてる男は違うね~。あんたもいい男捕まえたもんだね!!」
「当然なのじゃ!! わらわのソウマじゃからな」
この店員、指輪見てバックヤードの分も出しやがったな。抜け目が無いというか、したたかというか……。これって金持ってるって言ってるようなものだしな……。
でも、ちょうどいいというか、これだけあればお土産としては十分すぎる数だし、これを見せた時の反応で十三年前に居たやつの情報が手に入るかもしれない。
しかし、アレを使ってた奴って、いったい誰なんだ?
読んでいただきましてありがとうございます。