第四十八話 奇遇だな。俺も同じ感想だ
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楽しんでいただければ幸いです。
白イルカ亭。外観はほぼ白うさぎ亭、っていうか、絶対同じ奴が建ててるだろ? ここまでそっくりだとチェーン店って言っても驚かないぞ?
「なんとなく別の町に来ておる気がせんのじゃが?」
「奇遇だな。俺も同じ感想だ」
一回のフロント部分は南国っぽい造りだったけど、客室というか居室の方は間取りなんかも含めて完全に白うさぎ亭と同じだ。宿泊料金も一日百シェルで、この昭和のホテルっぽい鍵まで同じときた。
違うといえばフロントや廊下を歩くときの潮の香りとか位? 窓から見える風景もかなり違うけどな。
「明日、塩食いと戦う訳じゃが、ソウマは作戦があるといっておったな」
「塩だ。用意している大量の塩を餌にして塩食いをおびき寄せる。そして動きが止まったところにフルバーストのライジングブレイクを叩き込む。単純だけど勝算は高いぞ」
フルバーストでも本来の威力には満たないだろうけど、シャイニングスラッシュよりは威力がある。これでダメだったら、X十七式小銃をチャージモードで撃ちまくるさ。
「上手く塩に食いついてくれればよいのじゃが」
「塩に変えられた村人がどのくらい残ってるかだな。食い尽くされてれば即食いつくと思うんだけどね」
「食いつかずともあの技で倒せる距離に居た場合、そのまま攻撃してもよいのではないか?」
「塩食いがどの位の速さで動くか次第だね。そこまで移動速度が早くはないと思うんだけど」
劇中の魔怪種ナメギラスは動きが鈍かった。その為にシャイニングブレイブの速度についてこれずあっさりと冒頭で倒された訳だけど、塩食いが同じ動きをすると考えない方がよさそうだしな。
「そこまで動きが鈍い魔物に村人が逃げる間もなく塩に変えられるじゃろうか? 命懸けであれば人も結構な速さで逃げるであろう?」
「さっき貰った情報を何度か読みなおしたんだけど、塩食いは背中に無数の瘤があってさ、そこから塩化毒を撒き散らすって事らしい。だから今回は近付かないで最大射程で撃ち込むし、風向きも計算に入れないといけないな」
「なるほどな……。で、今回の討伐でわらわは何をすればいいのじゃ?」
「塩食いの動向を見守って欲しいのと。可能であれば俺たちに向かって塩化毒が流れてこないように風を生み出して欲しいんだけど」
奴との戦いで怖いのは塩化毒だ。
正直、塩化毒さえ喰らわなければ最悪奴がライトニングブレイクを喰らって生き延びてても、X十七式小銃で撃ち続ければ多分倒すことができる。
過去に一度だけ、こっそりチャージモードを起動させて試射してみたんだけど、アレはかなりヤバい代物だった。武器としてのヤバさはライジングブレイクが使えるショートソード以上といっても過言じゃない。ホント何と戦う事を想定して作られてんだ?
「強風を使えば可能じゃが、あまり長時間はもたんのじゃ」
「ライジングブレイクを使った後と、その後奴が生きてるかどうか次第だな。ほら、爆散させても毒が無力化できないかもしれないだろ?」
フルバースト状態のライジングブレイクの射程距離は百メートルほど、奴の塩化毒が何処まで届くかわからないけど、爆散した後で塩化毒が風に流れてきたりして、それに俺たちが巻き込まれたりするのは絶対に避けなきゃいけない。
「その場合は魔法で焼いたほうが早いのではないかの。火炎嵐は無理じゃが、炎華菊は使えるのじゃ」
「炎華菊って魔法でどの位の威力なんだ?」
「わらわの実力であれば、この部屋を丸焼きにできる範囲じゃな。この魔法は攻撃手段として考えると、あの魔物相手ではおそらく牽制にもならんじゃろうて。塩化毒を焼く程度には役に立つと思うのじゃ」
「焼いた後で可能であれば風の方もお願いしたいな。爆散させるからそこまで長時間必要じゃないと思うんだけどね」
この辺りが特撮とかとリアルの差だよな……。
倒した後の処理というか、倒した後で発生する問題というかさ。最近はそっちも割と描写があったりするけど。
「慎重じゃな。じゃが倒せたとしても慢心せぬところがソウマらしくて良いのじゃ」
「そこまでじゃないよ。万が一の事態というよりも、後が無い状況だと最悪の事態を想定して動く方がいい。たとえそれより最悪の状況があったとしてもね」
「魔物を相手にするのじゃ。それ位の心構えでなければ容易に命を落とすのじゃよ」
その位の奴でなければ百万シェルも賞金がかかってないだろう。
というか、塩食いが本当に魔怪種ナメギラスだった場合、普通の人間にはどうにもできないだろうしな。
「貰った情報と地図で餌の塩を置く場所や技を仕掛けるポイントも決めたから、そろそろ飯にでも行かないか?」
「そうじゃな。海老も旨いと分かったのは大きいのじゃ」
「次は蟹に挑戦だな。調理法次第だけど相当旨いぞ」
個人的にはただ茹でただけと鍋が一番うまいと思う。食べるのは少々面倒だけど……。
◇◇◇
南国風の食堂は大勢の客で賑わっていた。白うさぎ亭と違う所といえば、この大勢の客の半分以上は宿泊客って事だろう。あの鍵もってる人が多いしな……。
「いらっしゃいませ~♪ こちらの席へどうぞ」
見慣れたメニュー表に見慣れないメニューが並んでいた。
流石に港町だけあって魚介類が多いな、って、白身魚の香草焼きとかだけじゃなくて、魚介のリゾットや海鮮ラビオリもあるぞ。お、海老の素揚げ? この町だと油を大量に使った料理も出るのか!!
「見た事も聞いた事もないメニューが多いのじゃ。海老のオーブン焼きや蟹の甲羅焼きは何となく想像できるのじゃが」
「リゾットやラビオリもおいしいぞ。お、デザートに岩桃のワイン煮とかある。飲み物にもワインがあるけど他の酒類は無しか。ウイスキーやラム酒があるとは思わないけど、エールブクが無いのは意外だな……」
むしろこんな気候だと冷やしたエールブクが馬鹿売れしそうなのにな。こう、新鮮な魚介を肴にキンキンに冷えたエールブクをグイっと一杯。うん、ここに無いのが信じられない。
「岩桃はこの辺りで採れる桃じゃが、その名の通り堅くて普通は食べないのじゃ」
「その為にワインで煮たんだろうな。よし俺は魚介のリゾットと海老のオーブン焼き、あとは蟹の甲羅焼きも頼もうかな。ヴィルナがスープを頼むんだったら、ミネストローネもおいしいぞ」
「ではスープはそれにするのじゃ。海老の素揚げと海鮮ラビオリも頼むとするかの」
「足りないときは後で追加すればいいさ。すいません、注文良いですか?」
ニ十分後、俺たちのテーブルを占拠したのはこれでもかという量の海鮮料理だった。追加なんてとんでもない。いや、カニの甲羅焼きって普通でかくてもタラバガニクラスだと思うじゃん。何この蟹? 幅が四十センチ以上あるんだけど? で、オーブンで焼いた海老もクルマエビじゃなくて伊勢海老みたいな馬鹿でかい海老だ……。しかも結構数が多いし、食べるのをヴィルナに手伝って貰おう。
「このリゾットもおいしいぞ、器がちょっと小さめの洗面器サイズじゃなければ、もっと喜んだんだけどな~。というかこの辺りにはバターがあるのか?」
どう考えてもそうとしか思えないんだけど、近い食材があるの? アツキサトだと見かけなかったからこの辺りで採れる何か?
「バターが何か知らぬが、ソウマの言う通り海老も蟹もおいしいのじゃ!!」
料理に頭を悩ます俺を横目に、俺が差し出した半分に割って焼かれた海老を、フォークでひとすくいして食べまくるヴィルナ。素揚げの海老も頭から丸かじりだ。素揚げの海老はクルマエビサイズだったけどね。
俺が限界まで頑張ってもこの量は食べきれないのが分かってるから、ヴィルナにも蟹の甲羅焼きを食べて貰ってる。シェアするのが一般的じゃないのか、最初あまりいい視線は感じなかったけど、右手の指輪を見た後はなぜかほほえましい物でも見るかのような生暖かい視線に変わった。ホントに何なのあれ?
「岩桃もこうして食べると美味しいのじゃ。少々甘みは足りぬがな」
「コンポートみたいなものかな? 流石にここでも高いだろうから砂糖はつかってると思えないけど、何か他の果物か何かの糖を使ってるのかもしれないな。だから若干甘みが弱いのかな?」
いや、ヴィルナは最近俺の出すアイスとかバタークッキーを食べてる。だから砂糖の甘さに慣れてるんだ。この世界の普通の人だったら、これでも十分に甘い筈なんだよな。
「美味しかったのじゃ……」
割と高かったけど豪華な夕食になった。
さて、明日は決戦だ!! 二度と塩食いの犠牲者を出さない為のな……。
絶対に奴を生かしておかない!!
読んでいただきましてありがとうございます。