第四十五話 高速馬車も停まる駅宿舎だから他よりはまともって言ってたよな?
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楽しんでいただければ幸いです。
イサイジュ……。馬車の通る割と広い街道沿いにある小さな町……、なのか? 確かに家はそこそこあるけど周りにはまだ荒れ地が広がってるし、近くにある割と広めの森だってほぼ手付かずっぽい。で、これで町を名乗っていいの? ちょっと大きめの村じゃないのか?
「一応ここは町じゃが、正直期待せん方がよいぞ。昨日の駅宿舎とほぼ同規模じゃ」
「あそこも酷かったけど、高速馬車も停まる駅宿舎だから他よりはまともって言ってたよな? 他ってもっとアレなのか?」
昨日泊まった駅宿舎。街道に申し訳程度の宿屋があって、百人程度の小さな集落があるだけだった。
一応あれでも交易品というか、宝石の原石っぽい何かとか価値があるのかないのかわからない物を売る雑貨屋なんかは存在してたけどね。胡散臭すぎて何も買わなかったけど。
それに飯屋のレベルも最悪だった。食材は傷みかけてたし、冒険者ギルド周辺の屋台がまともに見えるレベルだぜ。アレは飯屋として許していいレベルじゃないぞ。
「宿舎なぞ屋根があるだけマシというレベルじゃな。冒険者の普段泊まっておる宿はそのレベルなんじゃ。そのような宿でもあのような臭いのする変な魔道具を設置する者などおらんのじゃぞ?」
「流石に虫と仲良くする気は無いぞ? 殺虫剤とかが効いてくれてマジで助かったよ」
俺は白うさぎ亭が高級宿泊施設ってのを昨日ようやく理解したからな。ホントにあそこはこの世界の宿屋としては異常に清潔で快適な空間だったんだ。虫なんて一匹も見かけなかったしな。
昨日泊まった宿だと最初の廃村の家の方がマシな感じだった。思わず置き型の殺虫蚊取り器と、置くだけの虫よけを部屋に設置する羽目になった位だ。
「それはそうと、今日もソウマの作るご飯を楽しみにしているのじゃ」
「任せてくれ。今からだと十分時間もあるからな」
駅宿舎はかなり広めの炊事場が解放されてて、各自好きな料理を作ってもいい。水も使い放題なんだけど、俺の場合煮炊きの水は寿買で買ったモノを使ってる。炊事場の隣は食堂になっていて、作られた料理は皆そこで食べるそうだ。
駅宿舎には魔道調理器が割と揃ってるけど、どんな魔道調理器があるかどうかは運しだいなんだそうだ。今回の駅宿舎には残念ながらオーブン型の魔道調理器は無かった。
理由は何となくわかるんだけど、設置されていても使用する人がほとんどいないというか、そもそもまともな料理を作ってる人をほとんど見ない。昨日の駅宿舎で作られてた他の商人とかの食事も酷いありさまだったしな。
「他の人は殆どお湯を沸かして簡単なスープとかで済ませてるんだよな……。アイテムボックスとか無いと、材料の運搬もできないから仕方ないのか? 塩が高いってのがやっぱりかなりネックか……」
当然高速馬車だけじゃなくて、普通の馬車や商隊の馬車も駅宿舎を利用しているんだけど、作ってる料理はほんとに粗末というか簡単な物だ。
この辺りでは塩が高いから保存食もあまり作られていないらしく、当然作成可能なメニューはかなり限られる。町に食料品を売る店はあるし、この駅宿舎近くまで物売りは来るけど、あからさまに値段を吊り上げてるから、買いたくはないよな。
スパイス類は結構あるから、保存食に関してはもう少しマシだと思ったんだけどね。
【保存食をお探しですか?】
探してねえよ……。っていうか、塩売って四億円分の金貨手に入れたあたりから、反応速度早くなってるよね? 高額商品もバンバン勧めてくるし。
【お客様の資産状況内で、より良い物をお勧めしています】
いつもお世話になってるけど今はいいよ。また後で利用すると思うけど……。食材とか。ん? 向こうが騒がしいな。
「今日は豪華にこの町で買った肉を使った料理ですよ~」
「おお、久し振りにまともな料理が食べられそうだ……」
隣の商隊はこの町の商店か物売りから肉を買ってきたっぽいね。人数は十人くらいか? かなり規模のデカい商会の商隊なのかもしれないな。
買って来たのは大兎の肉らしいけど美味しいのか? 俺にも売りに来たけど三キロくらいありそうな肉の塊が五十シェルだった。当然断ったけどな。アツキサトだと同じくらいの大きさの肉が十シェル位で売られてたはずだ。流石に五倍はボり過ぎだろ。
「あいつこっち見てないか?」
「俺たちの料理がうらやましいのかもしれないな」
食堂で待ってる男どもの声が何か聞こえたな。そっちの料理してる人が何を作るか興味はあるけど、うらやましいとは欠片も思わないよ?
「こちらを使わせてもらいますね」
少し離れた反対側の魔道調理器を使うとするか。何つくろっかな~♪ 昨日作ったのはチャーハン、春巻き、トンポーロウ、鳥団子のスープで、デザートは杏仁豆腐だった。杏仁豆腐は調合で作ったけど、後は全部俺が手作りしたんだよな。
蒸してないなんちゃってトンポーロウだし、若干煮込み時間が少し足りなかったからちょっと不本意だったけど、ヴィルナは美味しいと言いながらバクバク食べてたし結果オーライだ。
「唐揚げにするかな。寿買でおいしそうな地鶏も売ってるし、今からだったら十分に下味も浸み込むだろう。肉ばかりだと彩も悪いし、ついでにブロッコリーとカリフラワーも茹でるか」
ひと口大に切った大量の鶏肉を醤油とか料理酒とかウィスキーとかナツメグの粉とかが入ってる調味料の袋に突っ込んでよく揉み込んでっと、あとは三十分くらいこのまま放置して片栗粉をまぶして揚げるだけ!! 漬け込んでる間にカリフラワーとブロッコリーを茹でてアイテムボックスに一時的に収納した。この辺りは盛り付ける時に出せばいいし……。
仕込む量がキロ単位になると、揚げ物屋でバイトしてた時みたいになるぜ……。流石にこの量だと袋よりもでっかいボールで混ぜた方が楽な気がする……。熱した油の傍はあっちいし割と苦行だけど、おいしい唐揚げを食べるためには仕方がないんだよな~♪
「おおぉっ!! あんなに大量の油を使う料理だと!! 信じられん!! 何者だあいつ!!」
「あの黒い液体はなんだ? この匂い……、いったい何を作ってるんだ!!」
唐揚げが揚がる時の匂いってのは殺人級だよな……。この鶏が揚がる音も食欲をそそるぜ。
キッチンペーパーの上で油を切ったら、ある程度の量を纏めてアイテムボックスへと収納。ひとつずつ収納すると出す時が面倒だからな。
「消えた!! あの男、アイテムボックスまで持ってるのか」
「それにしても、どれだけ作るんだ? あの量、普通じゃないぞ?」
仕込んでる鶏肉は四キロくらいだ。一度揚げてしまえばいつでも食べられるから、こういった機会に一度に纏めて作っておくほうがいいんだよな。他の場所だとまともな調理場が無いし……。
俺のアイテムボックスは半径一メートル程度だったら目標に向かって手をかざせば、直接触れなくても収納できるのが便利だ!! 取り込みたい物の選択は脳内でコントロールできる。ホント便利だよね。
メインの料理が唐揚げだけだと寂しいし、汁物の他にもう一品くらいは欲しい。昨日の朝に出した具の少ないみそ汁はあまり喜ばれなかったし、汁物も割と悩むんだよな~。
「汁物は具だくさんの方がいいのは今までの傾向で分かってるし、……豚汁?」
汁物は豚汁にするとして、さて、もう一品を何にするかだけど……。マッシュポテトあたりとメインがもう一品欲しいぞ。マッシュポテトは時間かかるし、今回は調合機能で済ませるか。
【ライブラリーからおすすめメニューを表示しますか?】
主夫の味方か!! 何作ろっかな~ってときにその機能は死ぬほど助かるぞ。お、材料とか調理法からいろいろ選べるのか。材料は寿買で買えって事だよな?
とはいえ、ここには限られた調理器具しかないし、焼くか煮るか茹でるかするくらいしかできないんだよな。
【調合メニューで各種対応しています】
いや……、それ使ったらマッシュポテトや昨日の杏仁豆腐みたいに、材料揃えて最後まで全部作っちゃうよね?
うん、美味しいよ。調合で作った料理って確かに美味しいんだけど、なんかちがわくない? 店屋物とは別だけど自炊してる気がしないっていうか……。そうすると直接寿買のオードブルセットでいいやってなるから。マッシュポテトの他にさらに一品任せたら、俺の立場が無いというか……。
「家庭の味じゃないけど、自分好みの味にするにはやっぱり最低限自分で作らないとな。オーブン系の料理は魔道具調理器が手に入ってからだ」
……オーブン料理で思いついたけど、ローストビーフとか作ってみる? ローストビーフはオーブンの方が一般的だけど、あれはフライパンでも作れない事は無い。
牛肉のブロックは売ってるし、必要な物は当然寿買で揃う。
「もう一品はローストビーフに決定!! 問題は量か」
ヴィルナはよく食べる。平均すると毎食五人前くらいは食べる計算だ。白うさぎ亭で割と注文量が少なかったのは、あそこのメニューは値段の割に量が多いからだしな……。
【牛肉ブロックのお勧めを表示します】
おいおい、それはステーキ用じゃないの? A5和牛とか……、ローストビーフ用もあるのか? 流石に最低五桁の肉が並んでる画面は壮観だな。
一キロ……。いや、二キロくらい仕込んでおくか? 余ってもアイテムボックスの中に収納しておけばいいし。
「このローストビーフ用を二キロ!! 値段は考えない……」
この世界に来てないと食えないレベルの肉だ。こんな肉でローストビーフを作る日が来るなんてね……。
さて、作りますか。
「さっき無造作に使ってた白い粉は、あれ……塩か? 贅沢な。それになんだあの肉の塊は? いったい何人分作るつもりなんだ?」
「あの金属製の布みたいなものも凄いぞ……。本当にあいつは何者なんだ?」
この世界にアルミホイルはないだろうしね。流石にオーブンが無い時はこれが無いと話にならない。
完成まで一時間程度、これだけ仕込んでおけばいつでもローストビーフが食べられる。ソースは市販のでいいし。
「デザートはアイスクリームでいいよな。これで豪華な夕食の出来上がりだ!!」
一時間後、無事に料理が揃った。隣の商隊は既に晩飯を済ませてどこかに行ったみたいだ。
そこまで時間のかかる料理じゃなかったし、パンは出来たのを用意してたみたいだしな。俺もご飯は既に炊いてある物だけどね。
「ほう、完成したみたいじゃな」
「あ、ヴィルナ。出来たから晩御飯にするか?」
テーブルとかイスは酒場にある物よりはいい物が揃ってるんだよな。テーブルに料理を並べて晩御飯の時間だ!!
ヴィルナの前に並べるのは皿に盛ったライス、大皿にこんもり盛った唐揚げと付け合わせのカリフラワーとブロッコリー。同じく大皿に切って並べたローストビーフ。そしてスープ皿に注いだ豚汁。豚汁を汁椀じゃなくてスープ皿に注ぐとちょっと洋食風に見えるような気がする。
俺の方は茶碗にご飯&汁椀に豚汁だ。ヴィルナは箸を使えないからあのスタイルの方がいいんだよな~。皿に盛ってる唐揚げとローストビーフも一人前だ。
「今日の食べ物もおいしいのじゃ。不満を言ってよいならば、このライスがやはり少し食べ辛いんじゃが。昨日のチャーハンとやらは食べやすかったのじゃ」
「確かに、チャーハンはスプーンでも食べやすいけど、白米は皿に盛るとスプーンでもフォークでも割と食べにくいよな……。俺みたいに茶碗にするか?」
「その箸とやらが使い辛いのじゃ。フォークで食べられぬ訳ではないしの」
おにぎりにしたら食べやすいけど、皿に盛ると苦労してるみたいなんだよな。まだご飯を出し始めて二回目だからかもしれないけどね。今日の方が最初の時よりかなり早いし。
「どの料理も旨いのじゃ!! ソウマは食べ物屋でも成功しそうじゃな」
「流石にこれで商売はしたくないかな……。冒険者と普通の商売で手一杯だよ」
料理屋で働くのはバイト時代で十分です、はい。料理人になる気はないしな。それにこの世界でこんな料理を作っても、高すぎて売り物にはならないだろう。
「あいつ、あれだけの料理を作れてどこかのシェフじゃないだと!!」
「それも驚きだが、あれだけの料理を一度で食べるとかどこの貴族だ?」
なんか周りが騒いでるけど気にしない。あのウサギ肉食べてた人たちには悪い事をした気がするけど、こっちはこれが普通なんだし仕方ない。せっかく高い兎肉買って来てたのに、すごいテンション落ちてたもんな……。
「食後のデザートにはアイスがあるぞ」
「それは凄いのじゃ!!」
アイスクリームを出したら何か遠くからすっごい視線を感じたけど、流石にこれは売らないよ?
調合とかファクトリー機能で作った料理だったら転売にならないし売ってもいいんだけど、流石にこんな料理は値段が付けにくいしな……。
「ごちそうさまでしたのじゃ」
「どういたしまして」
本当は割と面倒な片付けが、アイテムボックスに収納して修復機能で出来るのもでかいよな……。
流石にアレだけ揚げた油は再利用できないし、処理してくれるのはほんとに助かる。
読んでいただきましてありがとうございます。