第四十四話 空いてるというか、俺たちの貸し切りなんだけど大丈夫なのか?
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楽しんでいただければ幸いです。
思い立ったが吉日。
今、俺とヴィルナは冒険者ギルドで塩食い討伐依頼を受けてマッアサイアに向かっている。一応商人ギルドにも連絡を入れたし、白うさぎ亭の支払いもすべて終わらせた。
注文しているヴィルナの服はまだ受け取ってないけど、戻ってきてから受け取ればいいと言ってくれた。ありがたい、お礼に塩食いの報酬が入ったらもう一着頼むとするかな。
「馬車ってもっとこう、情緒があるというかゆっくり進むものだと思っていたよ」
「普通の馬車はそうじゃな。高速馬車は元々金持ちや貴族専用じゃったし、これだけの速度で移動しても乗り心地は最高なのじゃ」
高速馬車……、幾つも魔道具を使って強化しまくってる超特殊な馬車で、全力で走り続けられるように馬にも様々な魔法がかけられているんだとか。
馬車馬のように働かされるってことわざもあるけど、流石にこの姿は少し遠慮したい。ここまでドーピングして働くとか……、いや、現在の日本にも似たような光景があちこちで見られる気がするぞ。栄養ドリンクとか色々飲んでる人も多いしな。
「空いてるというか、俺たちの貸し切りなんだけど大丈夫なのか?」
「普通の馬車と違って高速馬車の代金は人数割りじゃ。問題なかろう」
「それであんなに高かったのか。片道分の代金にしては高すぎると思ったんだよな」
支払った額はヴィルナと二人分で三千シェル。三十万だぞ?
このデカい馬車に最大で二十人くらい乗れるらしいから、その時は一人辺り百五十シェルになる訳だ。元の世界の値段で一万五千円か……。
「普通の馬車は三分の一くらいじゃ。しかも固定料金じゃな」
「そうすると一人五十シェルか。まあ、片道半月近い運賃でその値段は安い方かな?」
「普通に暮らしておる者は旅行なぞ一生に一度あるかないかじゃぞ」
「結婚した後に旅行とかしないのか? 俺の元いた世界だと新婚旅行とかあったんだけどな」
「なななななっ!! まさかソウマはその為に今回の依頼を受けおったのか?」
いや、まだ結婚してないよな? それに流石に俺でも楽しい新婚旅行に仕事なんて捻じ込まないって。
「流石に今回のは討伐目的さ。旅行は楽しむものだし、その時はどこかいい所に行こうぜ。王都とか」
「うむ、大きく出たものじゃな。その時を楽しみにしておるのじゃ」
中間にあるイサイジュには明日着くとして、マッアサイアまでとりあえず片道四日か……。
「塩食いを討伐するのはいいのじゃが、何か作戦は考えておるのか?」
「いい作戦を思いついたんだ。誰でも考えつくだろうけど、この状況下だとこの作戦は俺くらいしかできない。作戦に必要不可欠な物に入手不可能な物も多いし」
作戦自体はシンプルなんだよ。でも、実行するのは難しいだろう。用意するものが結構あるし、致命的なのは普通の冒険者はライジングブレイクが使用できない点だ。
もし仮に塩食いが魔怪種ナメギラスの場合、今の俺だったらフルバーストのライジングブレイクで一撃の筈。劇中だと数段下の威力しかないシャイニングスラッシュで倒してるしな……。
「往復八日かけてまで討伐に向かう必要はないと思うんじゃがな」
「この世界の海産物を食べてみたいってのもあるけどね。海老とか食わないんだったらでかいのがゴロゴロいそうだし……」
「……ゲテモノ食いは感心しないのじゃ」
「海老とか蟹は旨いんだって。鮮度とか下拵えとか色々条件は確かに必要だけど」
こんな話してたら海老の天ぷらとか食いたくなるだろ……、蟹鍋、蟹クリームコロッケもいいな。駅宿場で何度か泊まらないといけないし、その時に寿買で買ってこっそり食うか?
「魚や貝は楽しみなのじゃ。海から遠いアツキサトじゃと、魚なんぞ見もせんからな」
「魚の長期保存だったら塩漬けとかで……、ああ、その塩が問題なのか。そういえば保存食もあまり見かけなかったもんな」
「昔は魚の干物とやらは売られていたんじゃがな。高価なので今は一部の物好きしか食わぬようじゃ」
「干物はあるのか。元の世界だと朝食の定番だったりするけどな。後は卵とみそ汁……、明太子もいい」
卵焼きとアジの干物、それに納豆と海苔……。これに熱々のご飯とみそ汁で…、って、おかず多い? なんだか旅館の朝食っぽくなったな。
「明太子が何か知らぬが、朝から卵など何処の御大尽なのじゃ。そのような朝食など、誰かを招待した貴族が振舞う時くらいな物じゃぞ」
「そういえば醤油もないのに干物とか食べるのか? ないよな? 醤油」
「港町では魚醤という調味料があるという話じゃ。売りに出されるほど作られてはおらんぞ」
「塩が手に入りやすい状況だったらいろいろあるかもしれない訳か。ここまで塩が高くなったらそのまま塩を売った方が利益になるんだろうけど」
今の塩と砂糖が無いって状況はかなり無理ゲーだよな。穀倉地帯があって小麦が潤沢な状況でなければ完全に詰んでるぞ。小麦をどこかに売ってその金で買ってこれるだけマシだし……。ん? 小麦とかあるんだったら他の麦とか育てて酒とか造ったりしてないのか? そういえば酒場で酒といえばワイン以外にはエールブクとライトブクしか見なかったし、ウィスキーとか作ってないのかな?
「駅宿場の食事は自炊じゃが、ソウマは料理ができるのか? わらわはあまり得意ではないのじゃが……」
「人並みには作れるぞ。金の無い若い頃のバイトといえば、賄い付きの飯屋って相場が決まってるもんさ」
定食屋のバイトで色々作ってたからな。あそこは何でも出す節操のない飯屋で、何故か中華料理が多かったけど……。って、ここにはあの育て上げられた鉄鍋はないか、鉄鍋は準備に時間がかかるから使うんだったら普通のフライパン使うしかない。それでもいろいろ作れるけどな。
「それは楽しみじゃな」
「適材適所じゃないけど、料理は俺が作るよ。ヴィルナは米とか平気? やっぱりパンとかの方がいいかな?」
「ライスか。何度か食べた事はあるが、別に苦手ではないぞ」
「……これ食べてみるか? 米を使ったおにぎりって料理なんだけど」
「変わった形じゃな……。ほう、塩がよくきいておるし、これは中に魚が入ってるのか? 贅沢な食べ物じゃ」
それは寿買で今買った、ただの鮭おにぎりなんだけどな。塩も魚もこの辺りでは高価だしこのおにぎりも高級品になるのか……。で、ヴィルナはおにぎりも鮭も大丈夫と……。香辛料関係は肉串も結構スパイシーだったから平気だろうし、割と何でも大丈夫かもしれない。
「ヴィルナが米が平気でよかった。料理はいろいろ作ってみるけど、食べられない料理は残してくれ。食べれない料理を我慢して食べる事は無い」
「贅沢な考えじゃな」
「食べ物を粗末にするのは良くないと思うけど、それでも無理して食べるのは違うぞ。食べられない食材とかあれば言ってくれたら最初から外すよ」
アレルギー……、とかはあまり考えられないか。ヴィルナって正体が分かんないけど少なくとも人じゃないって思うし。でも、種族的に禁忌な食材や危険な食べ物がある可能性も捨てがたい。
「なんでも食べるから平気なのじゃ。ゲテモノは遠慮して欲しい所じゃが」
「……ほう、それじゃあ、今度はこのおにぎりを食べてみないか?」
「なんじゃ? 変わったものが見えておるが……。っ!! こ、これは旨いのじゃ!! プリプリとした食感と濃厚な旨味が堪らないのじゃが」
ほうほう、天むすはそこまで気に入ったか。海老旨いもんな。
「それは俺の世界の海老だ。見た目はアレだけど超が付くほど人気の食材だぞ」
「これが海老じゃと? 確かに、これほど美味ければ人気なのも頷けるのじゃ!!」
「不味い食材を薦めやしないって。俺もおいしくない食べものは嫌いだし」
大量に出る不味い食事は拷問の部類だと思ってる。美味しい料理が目の前にあるのに食べれないとかも拷問だと思うけど。
「これは楽しみになって来たのじゃ!!」
「俺も楽しみだよ。どんな食べ物があるのかな?」
美味しければ大量に購入してアイテムボックスに纏めて入れておけばいいしな。
とりあえず、明日着くイサイジュがどんなところなのかも楽しみだ。
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