第四十三話 十年前に姿を見せたって竜は? もしかしてそいつもか?
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楽しんでいただければ幸いです。
なんでも、魔道具を使った特殊な通信システムがあるらしく、それで原因となった場所というか、隣の国からカランドロ男爵や冒険者ギルド宛で詳しい情報が流れてきたらしいが、先日の鎧狐襲来の一件は、どうやら原因がかなりヤバい物だという事が分かった。
そんな物があるならもっと使えばいいのにと思ったんだけど、人伝に聞いたんだが、その通信システムはかなりの魔力を秘めた魔石を必要とするらしく、一回の通信で最低でも千シェル必要なんだそうだ……。そりゃあこんな事件の時でもなけりゃ気軽にゃ使えないな額だよな。国際電話以上だぞ。
「北にナイトメアゴート、南に凶悪な竜、東に塩食いと来て、とうとう西側にまでヤバい奴が現れたって? この男爵領四方を敵に囲まれてるんじゃないか?」
「現状はそんな感じだな。西側に出現した魔物は今まで見た事も無い奴らしい。人でも獣でもないって噂で、凄まじい戦闘能力と全てを食いつくすような暴食で出現地帯のあらゆる生き物を食い殺してるという話だな」
「……あらゆる生き物ってもしかして?」
「その国の冒険者が討伐に向かったが、全員食い殺されたって話だな。目撃者は少し離れた場所を通っていた行商人でなんとかその場を逃げ延びたんだが、街の衛兵に悪魔を見たと伝えた時にものすごく怯えていたそうだ。他にも結構な数の人間や亜人種も食われてるらしいぞ。で、その魔物から逃げた獣やほかの魔物がこの町だけじゃなくて、いろんな場所で二次災害を引き起こしてるそうだ。俺もそこまで詳しくは知らんのだが」
何処情報だよそれ。いや、詳しすぎるだろ……。これだけ詳しく知ってるって事は、ルッツァは独自の情報網を持ってるんだろうな。
しかし、今まで見た事のない魔物か……。あまり知られていなかった魔物がさらに魔石を飲み込んだってケース? そんな事って、よくあったりするんだろうか?
「ひとつ聞きたいんだが、あの塩食いって魔物はよく見かけるのか?」
「ああ、あいつも新種だな。この数年、あちこちで新種の魔物がよく見つかるんだ。しかも厄介な魔物ばかりな」
偶然? そんなに新種の魔物が姿を見せるものなのか?
「私は小さい頃に魔法学校に通ってた事があるんだけど、その時に読んだ本でもナイトメアゴート、塩食い辺りは見た記憶すらないんだ~。冒険者になる為に魔物の事は割と詳しく調べたんだけどね」
「十年前に姿を見せたって竜は? もしかしてそいつもか?」
「ああ、あの竜もだね。地面を這う様に暴れまわる地竜種にしてはおかしいし、かといってほかの竜種とも似てないんだ~。地竜種っぽいのに空も飛べるらしいね。そもそも、あの辺りに竜なんていない筈なんだよ。あの南の森は禍々しい魔素が割と濃いけど、元々は神聖な森だったし」
ん? あの森に、竜がいない?
それじゃあ、ヴィルナの正体は何だ? 竜種じゃなくて、相応に強い魔物、もしくはそれに近い能力を持つ何か?
まあ、俺としてはヴィルナの正体が何でも構わないんだけど……。どんな種族かなんて、別に大したことじゃないしな。大切なのは通じ合う心さ。
「奇妙な事だよな。凶悪な魔物の話なんてこの百年ほどは殆どなかったんだぜ? 塩食いだってそうさ。魔物がさらに魔石を飲み込んだとして、元の魔物は何だ? ウミウシの魔物なんて聞いた事もねえぜ」
「ナイトメアゴートは針山羊が魔石を飲み込んだんじゃないかって言われてるけど、それもおかしな話なんだよ? 針山羊が魔石を飲んだ場合、狂気の槍って全身から槍みたいな棘を生やした魔物になるはずだしさ」
「俺もこの辺りで見かける魔物をすべて網羅してる訳じゃないが、これだけ新種が頻発するなんて異常だ。新種の魔物に滅ぼされた町や村の数も百じゃすまない数だしな」
「その魔物……、例えばの塩食いの絵とかないか? どんな姿なのか凄い興味が湧いてきた」
この世界にあれ…………ライジングブレイクのフィニッシュブロウチップが存在し、人を塩に変える魔物って話で今の今まではっきりと思い出さなかった俺も間抜けだけど、もしかして奴じゃないだろうな?
「塩食いの姿は有名だよ。冒険者ギルドに頼めばこれ貰えるし」
差し出されたのはスパニッシュ・ショール・ウミウシのような独特な姿が書かれた札。へえ、便利な物がもらえるんだなって!!
「こいつ……、もしかして魔怪種ナメギラスか!! 似てるだけって可能性もあるけど、まさか、他の魔物もそうだったりするのか?」
「ナメギラス? なんだそりゃ?」
「いや、似てるだけかもしれないし、確証は持てないけど……」
魔怪種ナメギラスはライジングブレイブシリーズに登場した敵だ。塩化毒を使って首都にいるすべての生き物を塩に変えようとしたが、六代目主人公のシャイニングブレイブに冒頭で瞬殺された為にその力が行使される事は殆どなかった。
というか、設定通りの能力だと、ひと月も放置したら既に世界滅ぼしててもおかしくない奴だぞこいつ。不人気でその後一度も再登場してないし、そもそもなんでこの世界にいるんだよ!!
「他の魔物の姿も分かるか?」
「ナイトメアゴートはそのまま強大な山羊って話だよね?」
「そうだな。外見は巨大な山羊って話だ。以前は五メートルほどだったが、最後に聞いた情報では少なくとも七メートル程にはなってたそうだが」
「化け物かよ!! 人が戦えるサイズじゃないぞ」
流石にそんなサイズの敵の記憶はない。というかライジングブレイブシリーズにはそこまでデカい敵は一度たりとも登場しなかった。以前他で聞いた話だと塩食いも五メートル以上のデカさだとか言ってたな。という事は塩食いも魔怪種ナメギラスによく似た魔物が発生しただけなのか? いや、最悪魔怪種ナメギラスが魔石を食った可能性もあるのか……。
でももし本物だったら被害が少なすぎる、魔怪種ナメギラスが本物だったらもっとヤバい状況になってるだろうしな……。
「あのクラスの魔物と戦える奴なんて、世界中探しても数人だろう」
「そうね……。でも、あの人は多分こんな辺境には来ないと思うわ」
「そんな魔物を倒せる奴がいるのか? そいつだったら塩食いも倒せそうなのか?」
「倒せるだろうな。そいつは同じくらい被害を出してる魔物を何体も倒してる。しかも、たったひとりでだ」
すげえな。あのクラスの魔物を単独撃破っていったい何者だよ?
……単独撃破って事はひとりで討伐報酬丸々貰ってるって事だろ? そいつまだ冒険者続けてるのか? 戦闘狂のバトルマニア? それとも……。
「ん? そいつはひとりで倒してるのか? で、まだ冒険者を続けてる?」
「普通だったら百万シェルクラスの魔物を何体も単独撃破すりゃ引退するだろうに、そいつはその金で世界中を旅しながらある魔物を探してるらしい。それだけ稼いで引退しないとなりゃ敵討ちだろうな」
「この国にも一度だけ立ち寄った事がある。この辺りにも十三年程前に一度姿を見せてるぞ」
十三年前か……。
という事はそいつは白うさぎ亭を建築したやつとは別人だな。という事は最低でもこの世界に来た異世界人は四人いる。俺と、そいつと、白うさぎ亭を建てた奴と、五十年前に火縄銃を作った奴……。
もしかしたら他にもまだいるのかもしれない。
「そいつはいつまでも若いままなんで、エルフか他の長寿種との混血じゃないかって言われてるそうだ。うらやましいよな」
「あらあら、あなたはいつまでも若い女性がお好みですか~?」
「い……いや、ミランダ、俺はそんなつもりじゃ」
自分から地雷を踏みに行くスタイル。嫌いじゃないぜ。
「世の中には馬鹿みたいに強い奴がいるって事か」
「そういう事だな」
他の奴……、というか魔物の事はどうでもいい。
塩食いがもし仮に魔怪種ナメギラスだった場合、成長しきる前に倒さないといけないぞ。その力を知る俺の手でな。
今ある手札で勝つ方法、それを考えないと……。
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