第四十二話 銃が他にもある? 何処かに銃を使ってる人がいるのか?
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楽しんでいただければ幸いです。
先日、あからさまにフラグが立ちそうなセリフを軽い気持ちで口走った俺をぶん殴ってやりたい!! 今度のこれは流石にアレが原因だとは思わないけど……。
「クライド!! 右からくるぞ」
「了解!! 正面の十匹は任せた」
昨日の昼間に西の森で鎧狐という魔物が大量発生したという報告が冒険者ギルドに届いた。この鎧狐はこの辺りに生息する魔物ではなく、さらに西……、正確には隣の国の岩場に生息しているらしいが、なぜかこいつが百匹以上の群れとなって押し寄せてきやがった。
途中にあった幾つかの村に甚大な被害を出し、少なくとも数千人単位で死傷者が出ていると聞いた。王都や地方都市と違ってこの辺りは医療機関があまりないから、重傷者は高確率で死者に加わるだろうという話だ。
この町にいる冒険者の中で鎧狐をなんとか退治できそうな冒険者の数はわずかに十人。俺たち六人を除けばわずかに四人しかいなかったが、その四人もなんだかんだと理由をつけて、結局この依頼を断りやがった。まあ、気持ちはわからないでもない。堅いもんな、こいつらは!!
「いったい何匹いやがるんだ? ダリア、斬風で木を切り倒して奴らを止めろ!!」
「わかった。斬風!!」
倒れた木が鎧狐の動きを止め、そして勢い余って木にぶつかったり、倒れてくる木に潰された個体はそのまま動かなくなる事すらある。まあ、一匹でも数が減るんだったら良い事だ。
「よし!! ラウロ、一斉掃射だ!!」
「任せろ!! 死ねこのクソ狐!!」
今回の討伐依頼でルッツァやラウロの選んだ武器は弓。しかも今回は堅い鎧狐の皮膚対策として、特殊な加工を施してある高価な矢を使用しているらしい。
俺の使ってるX十七式小銃じゃないが、弾代がかかるって大変だよな……って、こっちもアレを何とかしないといけないぜ。
「数発で倒せるけど数が多すぎだ!!」
「抜けてきた獣は任せるのじゃ。ほれ、この通りにの」
木を盾にして抜けてきた鎧狐はヴィルナがいつも通りに斬り殺していく。多少堅い程度の皮膚はヴィルナには関係ないみたいだ。
この森を抜けて町に行くには絶対にここを通らないといけない。というのも、この先に大昔の地震で出来たっていうかなりでかくて深い裂け目があるからだ。それがあるからこそ、俺たちはこの場所に陣地を築いて鎧狐を待ち構えていたんだけどな。
俺は引き金を引くだけだから大した事は無いけど、あれだけ矢を放ち続けるルッツァたちの体力は相当なものだな。ルッツァのあのゴリ……、筋肉は見せかけじゃなかったって事か。
「ここを抜けられると、町に被害が出る!! 一匹たりとも通すなよ!!」
「任せな!! 俺の弓の腕も、大したもんなんだぜ!!」
「こっちは任せてくれ!! 弾はいくらでもあるぜ!!」
そしてこの戦いは一時間以上の時間をかけてようやく終結した。つっかれた~っ、一体何なんだよ今回の事件の原因は!!
こんなことが何度もあるときついぞ……。
◇◇◇
「お疲れさん。いやまあ、だれも怪我ひとつしないでよくもあの戦いを終えられたもんだ」
「やっとクライドの武器が見れて満足♪ まさかあんな武器使ってるなんてね~。はじめは役立たずの銃なんて下げてくるから驚いたんだけど~、あの威力は無いとおもうぞ。いろんな意味でね」
「ん? 銃が他にもある? 何処かに銃を使ってる人がいるのか?」
「居ないぞ、絶対にな。昔……、五十年位前に火縄銃だったか、そんな形の武器を作った奴がいたんだよ。で、ある国の国王に献上して誇らしげに使ったあげく、その場で暴発させてその国から永久に追放されたって聞いたな」
ん? この世界で銃を作った奴がいたって事? 五十年も昔に? そいつは間違いなく元の世界から来た人間だよな? 俺が元いた世界かどうかは別として……。
「その後で改良とかしなかったのか? 使えれば強力な武器だろ?」
「したらしいぞ。何度も改良されては実験時に暴発させたらしい。大砲といって銃の馬鹿でかい版まで作ったんだけど、それも結局暴発させた。どうやら火薬とか言う物を使ってもダメって結論は出たみたいだ」
「原因は大気中の魔力や魔素じゃろう。魔力の籠っておらぬ物を飛ばせば、魔力や魔素の影響で止まるのは道理じゃろうに……」
「暴発事件でもほとんどけが人は出ていないらしいしな。飛び散った破片もすぐに失速して地面に落ちるらしい」
この世界にはこの世界の物理法則があるって事か。ん? 弓ではなった矢とかは飛ぶよな? 石だって普通に投げれるぞ。
「石とか投げても別に普通だし、弓で矢を飛ばせるよな? なんで銃だけダメなんだ?」
「じゃから問題は火薬じゃろう。魔力や氣などが籠っておらぬ大きな力を使って物を動かせば、世界を満たしておる魔力や魔素の影響を受けるのじゃ。魔力や氣は誰でも持っておるので、意識せずとも普通は放った矢や投げた石に伝わるのじゃ」
「魔法で物を飛ばしたり、風の魔法で物を弾いたりしてもそれなりに高威力になるのよ。それは弾いた時点で魔力がその物体を包んでるからでしょうね」
「銃の場合はそれの応用で弾を魔力で包む方法もあると思うんだけどね。でも、似た方法が研究されてたらしいけど、効率が悪すぎて廃れちゃったって訳。クライドはなぜか遥かに効率のいい方法で、銃を使いこなしてるみたいだけど~」
俺もこの銃に関しては詳しく知らないんだけどな……。寿買の商品だし、そのあたりもいろいろと調整されてるのかもしれない。
「特別製だからな。どこから仕入れたのかは教えられないし」
「まあ、あんな物騒な武器がそこらに転がってたら怖すぎるぜ。ただ、アレが大量にあればナイトメアゴートは何とかなるんじゃないかと思うんだよな。ルッツァもそう思うだろ?」
「そうだな……、アレが大量にあっても難しいだろう。あのクラスの魔物を倒すには、最低でももうワンランク上の力を持つ何かが必要だ」
「正確な分析じゃな。簡単に倒せるくらいであれば、そこそこ腕に自信のある者がすでに倒しておるじゃろう」
「な~んだ。つまんないな~。この六人で倒せばさ、最低でも一人十万シェルは入るんだよ? それだけあればさ、冒険者を引退して静かな余生が送れるじゃん」
ルッツァのパーティで一番血の気が多いのは、もしかして魔法使いのダリアなのか? 一番若そうだし、まだそういう怖さが分かってないのかもしれないけど。
「命を天秤にかけるんだったら、確実に勝てる方法が必要だ。絶対に引けない戦いや、守るべき何かがある場合を除いてな」
「ホントにリーダーとクライドって似てるよね……。慎重というか、言動とか振る舞いが……」
「「心外だ!!」」
うわ、見事にハモった。しかも、顔を見合わすタイミングまでかぶっちまったぜ。
「打ち合わせ無しでそうなるのって一種の才能よね……。でもよく似てると思うわよ。あなたとクライドさんって」
「ミランダがそういうならやっぱり似た者同士で間違いないぜ。パーティのリーダー向きなんだろう」
「ルッツァはそうだろうけど、俺は誰かを率いる器じゃないぞ?」
強敵が目の前にいたら、指揮なんてせずに向かって行くタイプさ。
止める人がいても、構わずにな。
「ホントにお前は俺の若い頃みたいだ。まあ、お前はあの時の俺……、いや、今の俺よりも遥かに強いんだろうが」
「リーダーより? まっさか~」
「いや、間違いない。クライドはあの武器だけじゃない。お前は多分、まだ幾つも力を隠してるだろ?」
「ノーコメントだ。流石に手の内を全部ばらすほど若くはないんでな」
「当然だろう。此処でべらべらと話し始めてたら軽蔑した所だ」
ひっかけか。まあ、こういう稼業してるんだ、その位はわかってるだろうしな。
「すいませ~ん。ルッツァさん、クライドさん。受付までお願いしま~す」
「今回の報酬が決まったみたいだな。情報より数がかなり多かったから特別報酬も出るぞ」
「そりゃありがたい。さて……いくらになるかな?」
今回は緊急事態だったんで最低ひとり五千シェルは保障するという話で依頼を受けたんだよな。買い取りも多かったし、幾らになるのか楽しみだぜ。
「今回の報酬は討伐報酬と鎧狐の買い取り価格、それに特別報酬を含めてそれぞれに二万シェルです。賞金が高額になりましたので、大銀貨での支払いになりますがよかったですか?」
「俺は構わないけど、小金貨じゃないのか? アレだと二枚で済む」
「小金貨ってほとんど見かけないんですよ。大銀貨か金貨が一般的なので、純粋に通貨としての発行数が少ないんじゃないかと思いますよ」
「二万シェルか。二桁近い村が壊滅したらしいし、この位は当然だな」
「うっひょ~。これだけあれば、しばらく遊べるぜ!! 酒にするか、博打にするか迷うよな~」
「ラ・ウ・ロ。私との約束、忘れてないよね?」
「……博打は控えます。はい」
ラウロとダリアも付き合ってるらしい。で、酒はいいけど博打は禁止されたそうだ、当然だな。というかやっぱりこの世界にも賭場はあるんだ。割と気になるんだけど、何があるんだろ? 賽子? コマ系? カード系? でもまあ、博打やめる奴にこれを聞くのは野暮だから聞かないけどね。
「隣に誰かがいる時は、博打は控えるもんだしな」
「まったくだよ!! ……ねえラウロ、二人で半分ずつ出し合ってさ、あれ買わない?」
「それ、いいですね。ね、あなたもどうですか?」
「そうだな。この機会に買っちまうか!! クライドだけにいい格好はさせられないしな」
どうやらラウロやルッツァは双翼の指輪を買うみたいだ。まあいいんじゃないか? それもまた一つの選択肢だろうぜ。
博打で大当たりするより、隣にいる誰かの方が人生を楽しくさせてくれるさ。
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